我が愛すべきハンガリーのジレンマ

第9号   2001年4月6日

         共産時代の借金を全国民が負担。
      理想的にみえるけれど実生活は苦しい
   
      収入や物価に対して電気使用料が高いハンガリー。中進国には
   共通の悩みと思われる。共産時代に安く使用していたつけを国
   民全員で払い始めることになった。そして電気会社再建プロジ
   ェクトの一環として変更された請求システムによる事務処理の
   混乱。年を追うごとに値上がる電気代に真っ青になるハンガリ
   ー人、事務処理の混乱に真っ赤になって怒るハンガリー人。

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   “先日お宅の会社の電話案内で、うちの電気代の支払いは全て
   済んでいると確認したのですよ。どうして再度余分な支払いを
   求められるのですか!”
   “貴方が電話案内で確認した内容は忘れてください。我が社は
   昨年10月の新しいコンピュータ・システムの導入に手間取り、
   お客様への請求書発行が2カ月間滞ったのです。これはその2
   カ月分の請求です。後ろで並んで待っているお客様もこれから
   2カ月分請求されるのです。”
   “何のために電話案内があるのですか?そのコンピュータ処理
   が正しくないからこうして苦情を言ってるのですよ!”
   “コンピュータが行う処理にミスはありません。いい加減に理
   解してくださいよ、皆順番を待っているのですから。”

   カウンター越しに電気会社の担当者と怒鳴りあったのは正味1
   時間。後ろには同じように事務処理ミスに腹を立てているハン
   ガリー人が列を成して待っているけれど、気にしてはいられな
   い。

   現在賃貸している小さな物件の滞っていた電気代の支払い処理
   を、わざわざ同じこのカウンターに出向いて受付に確認し2月
   に終えた。その後電話案内にて支払いの滞納がないことを再確
   認したのに、また更に別の請求書を送りつけてきた。”これは
   何様の請求書?”。前回受付担当者に“これさえ支払えば全て
   終わりです”とまで言われたのに。

   2カ月分の支払いが電気会社の不手際といえど抜けていたこと
   に対し、払わないと言っているのではない。腹が立ったのは事
   務員の共産主義的態度にである。

   自社の電話案内サービスでの確認は意味がないからカウンター
   に出向いて来いと事務員が言い放つか?コンピュータ・システ
   ムが変更して発生した事務処理の不手際を指摘したら逆に客に
   怒鳴り散らしたりするか?前回処理をした担当者がコンピュー
   タ処理の落ち度に気が付かないとはどういうことか?自社の事
   務処理の不手際を謝罪するどころか“我々のコンピュータ処理
   は正しい”と言い切るか?極めつけは、電気会社の不手際で遅
   れて請求してきた請求書に支払い遅延の利息までつけるか!

   元共産主義国では大きな権威を持っている相手に正当性を問い
   ただすのは時間の無駄であるということを随分と勉強してきた。
   周りは髪の毛を逆立てて怒っているハンガリー人だらけ。皆同
   じだと、少々怒りを共有した気分になった。

   その後事務員に言われた2カ月分を郵便局より送金した。後日
   送られてきた間違うはずのないコンピュータで処理された確認
   証をみると、どうやら私は過剰に支払ったらしい。どういう計
   算方法になるのかはもういい加減知りたくもない。電気会社の
   電話案内に再度連絡し(電話案内は意味がないと怒られたばか
   りだが)、余剰支払分を郵便振込で返金してもらう手続きをし
   た。

   1989年に共産主義が崩壊するまで、国民は電気やガスなど
   のエネルギーを実際にかかる使用料より安く利用していた。共
   産主義とは皆が平等に平和に安定して暮らすこと。国民に負担
   はかけられない。では差額は誰が払っていたのか?ハンガリー
   政府が海外から借金して払い続けていた。

   体制崩壊後、ふたを開けてみると電気会社は多額の借金まみれ。
   1991年に株式公開、1995年ドイツのRWE Energie株式
   会社とEnergieversorgung Schwaben株式会社が46、15%の
   株を取得、その後1998年にブダペスト証券取引所で二部上
   場した。

   ドイツの民間企業が経営権を握ってから、電気代のうなぎのぼ
   りに加速。ドイツ人の合理的経営がついにハンガリー電気会社
   の怠慢経営にメスをいれた。

   まず電気会社の多額の負債を電気使用料に加算することに。

   そして昨年から電気代の請求方法が変更する。お隣オーストリ
   アでも採用されている方式で、前年度一年間に使用した全体の
   電気使用量を月割りにし、次年度からその数値を月極で請求す
   る。

   哀れ、今まで毎月メーターを計りに来ていた係員は経費削減対
   象としてリストラの憂き目にあった。

   この支払い方法に不満な人は電気会社に使用量を“電話で自己
   申請”する。電気会社は顧客の言われたままの使用量に沿って
   請求書を発行。11ヶ月後に実際の使用料を確認するためにメ
   ーターを計りに電気会社から係員が来る。過不足分の支払いは
   12ヶ月目の請求書にて調整する。

   さて、このシステムは多かれ少なかれ混乱を引き起こすことが
   明白だ。

   ハンガリーでは身元がはっきりしなくても比較的簡単にアパー
   トを借りることができる。契約書も交わさず、賃貸者がどこの
   誰かよくわからないこともある。賃貸者に夜逃げされたり次の
   引っ越し先がわからないということが頻繁だし、電話や電気の
   名義変更もしない場合があるくらいだ。だからこそ月々使った
   分だけ毎月支払う方法が健全で間違いが少なく、またミスによ
   る過不足金の派生も最小限に押さえることが出来ていた。ただ
   でさえ生活の苦しいハンガリー人が多い中、調整時の追徴金は
   余計な心配事を生み出すだけだ。

   2001年1月私の住むブダペスト市内の地区の1kWhの使用
   料金は21フォリント(約9円13銭)である。日本の電気使
   用料金は1kWhあたり16円41銭(20アンペアで120kWh
   まで使用した場合。基本料金は520円/東京23区)だから、
   ちょっと比べただけでは非常に安く見える。基本料金を含めて
   考えると約2分の1だ。しかし、今年の公式発表からハンガリ
   ー人の平均給与を見たらそんなことは言えない。税込み9万5
   千フォリントで手取りにすると6万フォリント、日本円で約2
   万6千円という給料の国なのだ。2万6千円が日本人の給料の
   2分の1とは言えないはずだ。年金生活者の年金の手取りはも
   っと少ない。

   ハンガリー人の電気の節約は涙ぐましい。ハンガリーに来たば
   かりで共産時代の遺産である巨大な団地群の横を夜な夜なタク
   シーの窓越しから覗いていた頃、通り過ぎるたびに団地の住居
   占有率が低いのかと思っていた。建物全体が真っ暗なのだ。節
   約のために住民が電気をつけないことを知ったのはかなり後だ。
   ハンガリー人一般家庭に招待されて夕方6時に薄暗がりの中ケ
   ーキを出され、何を食べているのかよくわからないことがあっ
   た。

   向かいの家に夜来訪者が来る時はすぐわかる。滅多にない明か
   りが部屋からこぼれるからだ。

   テレビやビデオを見る時に部屋の電気はつけない。日本の目が
   悪くなるから本を読むときは明るい所で、という教育はここで
   は役にたたない。
   
   年金生活暮らしの知り合いは、年度末の調整後に過剰使用分7
   000フォリントの請求書を受け取り頭を痛めていた。体調が
   悪いご主人のためにこれからずっと夜中に小さなランプをつけ
   続けることになるので、来年から更なる値上がりに愚痴をこぼ
   す。

   日本人にはたいした額ではないかもしれないハンガリー人の1
   ヶ月の電気代。でもハンガリー人には重く圧し掛かってくる。

   共産時代の借金を何とかゼロにしたい。共産時代のツケを現在
   の資本主義制度に暮らす国民全員で支払っている。その一環で
   取り入れられた新しいシステムが落ち着くにはもう少し時間が
   かかる。高いお金を支払うのに事務処理は間違いだらけ、その
   くせ権威に逆らえず窓口で怒られる。

   自分の国の借金は国民が背負う、それは当然のこと。現在の日
   本にもたまっているつけはたくさんあるが、国民全員で支払う
   には伴う痛みが大きく解決を先送りにしている。ハンガリー人
   はドイツ経営の外圧があって借金を払う方向に取り合えずは向
   いた。体制崩壊後12年近く経ち、まだ実際の生活では届いた
   請求書に頭が痛い毎日だが、最初の一歩は踏み出せた。そのス
   ピードが早いかどうかはまだ結論付けられない。

   ただ自分は共産時代にハンガリーに住んでいなかったので、彼
   らの借金返済の部分だけにお付き合いしていることは腑に落ち
   ないが。

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   先週の日曜日から夏時間となり、日本とヨーロッパとの時差が
   7時間になりました。毎日日が長くなり、ハンガリー人にとっ
   て電気を点けなくても明るい夜を迎えることができるようにな
   りますね。
   東京では桜が満開になった後に雪が降ったとか。薄ピンクの桜
   の花びらと真っ白な雪のコントラストはとってもきれいだった
   ことでしょう。でも桜が風邪をひかなかったか心配です。
   
   今週の豆ネタ
   先週メルマガを発行した後ドナウ川の水位を見に行きました。
   ちょっとだけでも水が溢れかえる様子を期待?したのですが、
   あともう少しというところで水は引いてしまいました。今日の
   ドナウ川の流れはごくごく普通でした。

   完全に春の陽気になったブダペスト、日本人の観光客も増えて
   きましたが、何故だかイタリア人の団体さんがそこら中に。老
   いも若きも大きな声で騒ぎながら記念撮影を所かまわず撮って
   います。でもどうしてこんなにイタリア人ばかりが・・

   ブダペストで評判の悪かった偽警官の姿を最近見かけなくなり
   ました。鎖橋やヴァーツィ通りによく出没していたのですが、
   観光客の方が上手になって商売上がったりのようです。

   マルギット島のHotel Margitszigetが全面工事を行っていまし
   た。また南駅近くのHotel Mercure Buda も正面玄関の改装
   工事をしていました。5つ星のケンピンスキーホテルの真横に
   できたLe Meridienや 2002年完成予定のFour Seasonsな
   ど、ブダペストのこれから熾烈な闘いが予想されるホテル戦争
   に備えて、老舗の新たなる出発といったところでしょうか。

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