我が愛すべきハンガリーのジレンマ

第12号   2001年4月25日

       ジレンマ番外編ルーマニア
      ゴールデン・ウィーク特集!
 
   “我が愛すべきハンガリーのジレンマ”を御購読頂きましてあ
   りがとうございます。さて、前号で予告致しました“ジレンマ・
   番外編ルーマニア”をゴールデン・ウィーク特集!と名打って
   今回から数回に分けてお送り致します!

   今年のゴールデン・ウィークは海外への渡航者が今までで一番
   多いとか。

   ハンガリー、ルーマニアだけではなく東ヨーロッパ圏に行かれ
   る方もいるでしょう。

   いつもは“住んでいる”人間の視点からハンガリー事情をご案
   内しておりますが、ルーマニアはSzagamiが“一旅行者”とし
   て感じたことを徒然なるままに書き留めてみました。

   単なる旅行記ではなくハンガリーとの比較も少々盛り込んで。

   それでは旧共産国に住むSzagamiの、旧共産国への旅をお楽し
   み下さい。

   (お断り:本文中にあるルーマニア通過レイは全て2000年
        11月旅行時の為替ルートで計算されています。)
   
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   目次:◎●隣の国ルーマニア◎●
       ◆元共産国から元共産国への出発◆
       ◆ルーマニア正教とイコン参り◆
       ◆日本人とルーマニア人の国境越えの違い◆

      ◎●最初の観光場所アラド◎●
       ◆闇両替全盛期の時代は去った?◆
       ◆チャウシェスクの子供達◆
       ◆マフィアも物乞いものんびりルーマニア人◆
       ◆退屈なアラドにさっさとさよなら◆
   
   
   ◎●隣の国ルーマニア◎●

   ◆元共産国から元共産国への出発◆

   2000年11月の寒さが本格的になる季節。ブダペスト7:
   10発の列車に2泊分の荷物を持って乗り込んだ。朝もやがル
   ーマニアへと続く線路を徐々に明るく照らし始める。

   ルーマニアへの国際列車の座席を禁煙席にするのを忘れてしま
   った。切符を購入したブダペスト東駅の売り場に戻って、喫煙
   席への変更を頼んだ。しかし、切符売りは今日は乗客がたくさ
   んいて変更は不可能だから車内で空いている席を見つけてくれ
   と、つっけんどんに言い放つ。1989年の共産主義崩壊から
   12年経つというのに未だに変わらない不親切なあしらいを受
   けて、元共産色がもっと濃く残っているかもしれないルーマニ
   アを旅先に選んでしまったことに少々気が滅入ってしまった。

   車内は6人がけのコンパートメントを個室のように使用できた。
   夜勤明けの切符売りは面倒くさい仕事を避けるために適当なう
   そをつく。サービスという精神がハンガリーの国全体に行き渡
   るようになるには、後何年待たなければならないだろう。

   ◆ルーマニア正教とイコン参り◆

   気分転換にハンガリー脱出を決めてルーマニアを選んだのは3
   日前のことだった。そろそろ雪化粧できれいなオーストリアの
   山々を見に行くには時間が足りない。ハンガリー国内旅行で気
   分転換はできそうにない。ルーマニアの古いしきたりが未だに
   強く残っているマラムレシュ地方は以前から行きたいのだが更
   に遠い。民族博物館から抜け出してきたような人々の衣装や家
   構え、風習が通常の生活に残る地域だが、だからこそ交通の便
   がない。

   それならば、ハンガリーでは見られない山々と正教教会のイコ
   ンを探しに、ルーマニアと言えどもハンガリーとの国境に近い
   街を訪ねてみようと決めた。

   キリスト教が発祥してから約300年後、時のローマ帝国がキ
   リスト教を国教として定めた。広大な帝国内では多民族、他言
   語が交じり合い、1054年にラテン語を典礼とするローマ・
   カトリックとギリシア語を典礼とするギリシア正教会(東方正
   教会)が教義の微妙な違いと主導権争いで完全に分離すること
   となる。正教会はその後発展する過程でスラブ語も取り入れ、
   現ルーマニア地域では9世紀からスラブ語典礼を使用した。1
   9世紀になってから自治を宣言、母国語であるルーマニア語を
   採用したものがルーマニア正教会である。

   教会内部の装飾はイコンと呼ばれる聖人画に囲まれる。むせる
   ほどのお香を焚き、黒服に身を包んだ顎ひげを称える僧侶が説
   教をする。キリスト教が発祥した頃の偶像崇拝禁止の教義の解
   釈を採用している。長い歴史の間で紆余曲折はあったものの平
   面に描かれる聖人画なら掲げても良いという結論に達し、正教
   教会内部は通常イコンが壁一杯に飾られている。

   熱心な正教教徒は家の角にイコンを掲げて毎日祈りを上げる。
   そんな信仰心の強い信者の魂のこもったイコンに溢れる荘厳な
   教会を見に行こうと決めたのである。

   ◆日本人とルーマニア人の国境越えの違い◆

   ブダペストから電車に揺られること約2時間半、ルーマニアと
   の国境近くになりいささか緊張してきた。実はビザを持ってい
   ない。ハンガリーの近隣諸国には通過ビザを持っていなければ
   通れない国もある。ルーマニア行きは今回が始めてではないし、
   国境でのビザ取得は至って簡単なことは知っているが、制度が
   度々変更するような国ではやはり国境越えは緊張感を伴う。

   何やら急に騒々しくなった。すり切れたジャンパーにつぎはぎ
   だらけのズボンを履いた団体が国境駅手前で乗ってきた。1人
   につきそれぞれ4つはあるかと思われる大きな荷物。まるで民
   族大移動だ。中身を除くとクリスマスツリー飾り用のチョコレ
   ート、ピーナッツの袋、電化製品など、明らかに商売用と見え
   る。ルーマニア人が三家族程一緒になって物資が豊富なハンガ
   リーに買い付けに来たようだ。ずた袋同然の荷物を網棚にのせ
   たり座席の下にすべりこませたりと非常に忙しい。顔つきや身
   なりだけを見れば、外見はブダペストで物乞いをしたりスリを
   するジプシーに何ら変わりはない。しかし彼らは正真正銘のル
   ーマニア人で、一生懸命生きるために目がらんらんとしている
   だけだ。彼らは国境超えを無難に済ませるために、入国管理に
   いくらかの袖の下を渡すであろう。

   ハンガリー側の国境駅に到着すると、最初に税関職員がやって
   きた。私を日本人と確認すると、“ハロー、バイバイ”と去っ
   ていく。税関職員が興味を示す物は密輸入品と課税対象の荷物。
   軟らかい座席の背を押したりその下をしつこいほど覗き込んだ
   り。例のルーマニア人団体が長々と質問されている。団体の班
   長らしき男性の手と係員の手のひらの間で500フォリント札
   が泳いでいく。

   世界各国殆どフリーパスで、何の危険もなく国境を渡ることが
   できるありがたい日本のパスポートに改めて感謝する。

   ルーマニア側の国境駅に到着するとルーマニアの入国管理がや
   ってきた。パスポートを差し出すとページを一枚づつぺらぺら
   めくりおもむろにスタンプを押した。返してもらったページを
   覗き込むとビザが。手数料はなし。今回の旅行の出だしとして
   やっと一息つけた。

   ◎●最初の観光場所アラド◎●

   ◆闇両替全盛期の時代は去った?◆

   30分程で最初の予定地アラドに到着した。電車を降りると、
   半ば外国に来たような、まだハンガリーにいるような感覚に捕
   らわれた。よく磨かれていない床やすすけた壁はハンガリーに
   そっくりだ。

   今回で4回目のルーマニアだがいつも最初にお世話になるのが
   闇両替。正規の両替所と7−8倍もレートが違う。政府認可両
   替所の窓口には直行せず、わざと重い荷物を持て余し気味に歩
   いてみたりする。しかし今回はいつまでたっても闇両替の連中
   が近付いてきそうにない。法がかなり整備されてきたのだろう
   か。

   仕方がないので(?)駅構内の両替所に並ぶ。1ドル2525
   0ルーマニアレイ。隣の公衆トイレのチップ表を見てみると2
   000レイと書いてある。ゼロが多すぎて物価の検討がつかな
   い。1ドル札も受け取ってくれない。中進国や後進国では、受
   付けが外貨ほしさに裏でこっそりお客とレシート無しで両替す
   るのは当然のことなのに、そんな態度をちらりとも見せない。
   こんなにのんびりしているからルーマニアは他の元共産圏の国
   からさえも経済的に置いていかれるのかな、などと思う。日本
   円は扱っていないし持っているオーストリア・シリングは小額
   紙幣がなかったので、ルーマニアの通貨を持たずにアラドの街
   に出ることにした。


   ◆チャウシェスクの子供達◆

   駅近辺にはシンナーを吸っている子供達が昼間からふらふらと
   暇を持て余して歩いている。チャウシェスクの子供達と呼ばれ
   ている彼ら。

   チャウシェスク統治時代末期に旧ソ連に対して過度に依存しな
   い政策をとったルーマニアだが、そのため急激に国力が弱くな
   ってしまった。それを打破するために4人未満しか子供を産ん
   でいない女性の避妊と堕胎を禁止し、国を挙げて出産率を高め
   た。そして貧しい家庭から捨て子が続出、捨て子達は街をうろ
   つくストリート・チルドレン化してしまった。チャウシェスク
   政権崩壊後12年たった今でも大きな社会問題として過去の傷
   痕を残している。正式な身分証明書や戸籍がなく事実上“存在
   していない”存在であり、多くが売春斡旋業者や小児愛者の毒
   牙にかかりさらに傷を深めている。

   危害を加えてくる様子はないが、こちらの神経はぴりぴりして
   くる。

   センター行きと書いてある看板に沿って20分ほど歩くと目抜
   き通りがでてきた。通りの中央をトラムが走る。

   ◆マフィアも物乞いものんびりルーマニア人◆

   一番最後にルーマニアに足を踏み入れた4年前には存在しなか
   ったキャッシュ・ディスペンサーが目に入る。こんな田舎街に
   も設置されているとは。残念ながら故障中であったが、少々立
   ち尽くしていると若者から別の場所にも機械があると声をかけ
   られる。(ルーマニア人も親切によく声をかけてて助けてくれ
   る)言われた通りに足を進めるとビザやマスターのロゴのつい
   た機械が郵便局の横に並んでいた。確かなる資本主義へとゆっ
   くり移行しているのか。4年前との違いに目を見開くばかりだ。

   機械の前に並ぶとお金を下ろしていたマフィア風の二人の男性
   が片言の英語でお金の引き下ろしにまだ時間がかかる旨を伝え
   てきた。こちらは時間の拘束もない旅行者。日本では現金を取
   り扱っているやくざ者がわざわざ断りをいれたりするかな、と、
   最近の日本の殺伐とした人間関係を思い描いてなんとなく吹き
   出してしまう。

   しばらく待っていると小太りの若者が声をかけてきた。握手を
   求めてくるので取り敢えず応じる。

   “僕の名前はペーテルです、こんにちわ、怪しいものではあり
   ません、あなたのお名前は?”

   キャッシュ・ディスペンサーに並んでいるところに乞食同然の
   身なりの人間が握手を求めてくるだけで十分怪しい。私がお金
   を下ろすまでのボディー・ガードを申し出る。ついでにテレフ
   ォン・カードの営業販売もしてくる。丁寧にお断わりすると、
   先方の一番の目的、物乞いが始まった。ルーマニアには十分な
   仕事がなく1ドルでもいいから、とのこと。“お恵みを”。こ
   れもまた丁寧に断って、マフィアが去った後にお金を引き下ろ
   し始めた。その最中も邪魔をせず後ろで待っている小太り君。
   引ったくるような様子は微塵もない。自分の依頼が叶わないと
   急に手のひらを返して暴言を吐くハンガリー人特有の態度もな
   い。ハンガリーではルーマニア人がとかく悪く言われているが、
   こんなにのんびりしたルーマニア人を旅行者という立場から見
   るとちっとも憎めない。先進国の犯罪と比較しても、お金を下
   ろす行為をボーッっと眺めているなんて、なんと人がいいこと
   か。(勿論ブカレストの怖さも嫌と言う程知っているが・・)

   さて、非常に興味のあった最低・最高引き出し料金設定額。前
   者は10万レイ(4ドル)、後者は40万レイ(16ドル)。
   先ほどお金をおろしていたマフィア風の男性、随分な厚さの札
   束を機械の横に積んでゆっくりボタンを押し続けていると思っ
   たが、これならたっぷり10分はかかる。あんな強面のお兄さ
   ん達がたった100ドルぐらいの商売で済むはずがない。

   ◆退屈なアラドにさっさとさよなら◆

   アラドの街が文献に初めて登場したのは1028年のこと、ハ
   ンガリー王国との戦いの地であった。ウィーンより東側はほと
   んどがトルコによって支配されていた時代があり、アラドも1
   551年から1687年の100年以上トルコによって統治さ
   れていた。トルコ時代からハプスブルク家統治時代を通して貿
   易の重要な中心地として栄えたそんな国境街である。

   目抜き通りを歩くとアラドの大聖堂や市庁舎が登場。そしてア
   メリカのシンボルマクドナルドがでてきた。通りの突き当たり
   にいくつかのレストランとホテルを確認して街はおしまい。さ
   っさとアラドを引き上げてティミショアラに行くことを決めた。

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   次回の予告:

   ◎●はらはらどきどきのティミショアラ行き◎●
    ◆タクシー運転手の見上げた職人根性?◆
    ◆ハンガリーのうたい文句、大平原プスタをルーマニア
     に見る◆

   ◎●ティミショアラ、ああ、ティミショアラ◎●
    ◆ライトアップがきれいなシンデレラ城◆
    ◆ルーマニア料理に舌鼓◆
    ◆ティミショアラ散策◆
    ◆値札のないものを海外で買う場合◆
    ◆営業力をつけてよ、タクシーの運ちゃん達◆

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