我が愛すべきハンガリーのジレンマ

第15号   2001年5月4日

       外国からの借り物船か、小さなゴンドラか?

   独立心が旺盛で会社への帰属意識のないハンガリー人。国際社
   会で闘うことのできる大企業を育てる野心のあるハンガリー人
   が見当たらない。才能があれば憧れの西側諸国にさっさと行っ
   てしまう。人生の幸せは経済的豊かさが全てではないが、自分
   たちの手で資本主義を手に入れたのなら世界に通用する企業を
   育てて国力を強化するところから国の繁栄を考えてみないか?

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   “また問題がありましたらいつでも僕のところに電話して下さ
   いね。”

   壊れた箇所の修理をしてもらうと帰り際に必ずでてくる修理屋
   のこの台詞。

   ハンガリーの住宅事情は日本に比べて非常に悪く、水道や電気、
   ガスなどの調子がすぐにおかしくなる。立て付けが悪いドアは
   寒暖の差で閉まりが悪くなるし、鍵穴もずれているから開け締
   めに慎重さを要する。

   何百年以上も前の景観を残すヨーロッパ諸都市。歴史の古い街
   を散策した時の感慨深さは何にも例え難い。しかし、現代文明
   の力を取り込んで生活を営むには古い建築物は至って不便であ
   る。何百年も前の住居にはなかった電気や電話線やアルミサッ
   シの窓枠を、壁を壊してはめ込んだりつけ加えたりする。それ
   はまるで小学校の工作の授業のようだ。設備の調子がおかしく
   なるのに不思議はない。

   しかも修理屋の技術力は決して高いとは言えないので、直して
   は壊れ、壊れては直すという要領の悪さが繰り返される。修理
   屋の仕事が永久に失われないように壊れやすく直しているとし
   か考えられない程だ。

   昔タイプのお父さんはある程度の修理ができるので修理屋なん
   て呼ばないが、私は専門家ではないし、つぎはぎだらけの修理
   箇所にさらにつぎはぎをして事故を起こしたくないから修理屋
   を呼ぶ。

   広告や電話帳で調べて工務店に電話しても小さな仕事には来て
   くれない。数千フォリントの仕事くらいでは会社の利益になら
   ない。そんな小さな修理はお父さんがやってくれ、だ。“コネ”
   や“知り合い”が機能するハンガリーでは知り合いから修理屋
   を探す。

   いい仕事をしてくれたら次回何かあった時のために連絡先を聞
   いておく。(ここでのいい仕事とは、修理に“時間通り”に“来
   てくれた”こと、仕事を早く“終わらせたかどうか”だ。修理
   の内容がいいかどうかは一番最後)

   渡される修理屋の名刺や連絡先、領収書は必ず個人名。その修
   理屋が経営者の場合もあるが会社勤めの社員であることも多い。
   だから修理を依頼すると彼らの出社前の早朝か仕事が終わって
   からの夕方以降に自宅に来てくれる。

   工務店にとってはオフィスや店舗の大工事、個人宅なら完全な
   改修工事などの大きな仕事以外の修理なんて売り上げが小さい
   ので興味がない。

   社員の方は会社の名前で工事に出向き顧客と顔見知りになると、
   何か困ったことがあれば直接自分へお問い合わせをどうぞ、と
   個人の連絡先を残していく。会社側から見ると、会社の将来の
   利益になるかもしれない顧客の横取りだ。

   会社の看板を背負って仕事に出向けば実際に作業をする末端作
   業員は一番大事な営業部隊だ。その会社の名前で仕事をし、顧
   客はその会社の名前と出来具合で評価を決める。満足した顧客
   はその会社にまた依頼することによって仕事が増えていくはず
   だ。

   小さな仕事はいい売り上げにならないから請け負わない会社側
   と、会社の看板を使って自分自身の営業をし、売り上げをその
   まま自分の懐にいれる社員との利害は非常にうまく一致してい
   る。

   しかし、資本主義を謳う国家としては、企業が大きくならなけ
   れば国力も大きくならないのではないか。

   元共産主義では仕事に効率や能率が求められなかったことも、
   ハンガリー法人が大企業になりにくい基盤を造っていると考え
   られる。要領のいい個人が自分の技術力を使って別途収入を得
   ても会社は何ら気にしないし影響もない。給料をもらいながら
   お小遣いが入るという感覚が未だに抜けないのだ。会社に利益
   をもたらすより自分のお財布を暖める方が先だ。

   ハンガリー人の独立心が旺盛な性格もオリジナル大企業を育て
   ない土壌があるといえよう。元共産主義諸国の共通項なのか、
   一般市民は権力にすぐに屈服する。上司と部下は“王様”と“奴
   隷”の関係のようだ。昨日まで同僚だった人物が昇級した瞬間
   急に命令口調になる。人と一緒に働くことが難しい。体制が崩
   壊した後で安定した生活を与えてくれた社会が消滅したことを
   早々に理解した要領のいい者は腕一本で、自分の足で立った方
   がずっと心も収入も安定していると気がつく。

   最近日本でも頻繁になってきたヘッド・ハンティングも当然の
   ように存在する。現状よりもいい給料を提示されればすぐに移
   籍してしまう店長や技術者達。しかし、本当に出来る仕事師達
   は近隣諸国のオーストリアやドイツ、憧れのアメリカなどの西
   側諸国に行く機会を狙っている。またそのステップとして外資
   系の企業で働くチャンスを常に探している。

   ハンガリーのオリジナル企業を大きくしようという野心のある
   ハンガリー人はいないのか。国際社会で闘える企業を育てるリ
   ーダー的存在の。

   一個人の幸せを経済の豊かさだけで語れないのは勿論だ。国際
   社会の競争に耐えうる力を持つ大企業で働くことに人生の充足
   感があるわけではないが、皆平等という主義から生まれた様々
   な歪みや弊害を打倒して憧れの資本主義の道を歩んでいるので
   はないか。

   残念ながらハンガリーが出発地点に立った時には既に資本主義
   を十分謳歌している国力の強い国々があった。遅れて出発した
   ハンガリーがオリジナル大企業で闘っていくのは非常に難しい。

   これからも日本の企業を含め、数々の西側諸国の投資や企業や
   工場がこの国に流入してくる。但しそれはこの国の人件費が安
   いからであって、国力強化を援助するため、雇用を増やすため
   に親切でやってくるのではない。それぞれの外国企業がその企
   業の思惑に基づいてくるのである。採算が合わなかったらさっ
   さと引き上げていくだけだ。

   国際社会に打ち勝つためのオリジナル企業を育てなければ経済
   的にはいつまでたっても自立できず、海外の投資に媚を売るだ
   けの弱小基盤から立ち上がれないだろう。常に多くの投資をし
   てくれるように外国の顔色を伺うのではなく、ハンガリーが建
   ち上げハンガリー人を雇用している企業から産みだされる彼ら
   自身の利益が必要だ。

   自国の力強い生産物があればそれは国の誇りとなり自信となる。
   そこからまたさらに別のパワーを生み出していくのだから。

   しかし独立精神が旺盛(と、いえば聞こえがいいが単に忍耐力
   がなくて人と働く思いやりがないだけ)で自分の懐を暖めるこ
   とを常に優先し、会社の規模を大きくするために小さな仕事で
   も誠意をもって仕事を終わらせるという感覚を持ち合わせない
   国民性には、大企業がもたらす国益が最終的には個人の豊かさ
   に戻ってくるなどという考えは根付かないであろう。そうして
   いる間に才能のある者は国外へ脱出し、外国企業がやってきて
   おいしい汁を吸っていく。実際自国を冷静に分析できるハンガ
   リー人の友達の殆どは外資系企業か海外で働いている(勿論自
   分の法人を持ちながら)。

   現首相のオルバーン・ヴィクトルが今年の1月1日でのスピー
   チで次のように語った。“現在のハンガリーは部品を取り替え
   るのに成功した船だ。2000年は体制転換後最も経済発展が
   成功した年だったが、これからは更に期待が持てる。”

   日本では護送船が沈没し始めたと言われている。しかし船を組
   み立てたのは日本人だった。ハンガリーの船は外国からの借り
   物でハンガリー製の部品を替えるだけか、小さなゴンドラが大
   きな船にぶつからないように隙間を泳いでいるだけだ。また終
   身雇用制の欠点ばかりが問われているが、企業が責任を持って
   社員の面倒を見て、その見返りに社員が心身を削って企業の利
   益を考え必死に働き国際社会と十分闘える会社を建設してきた
   ことは絶対に咎められることではない。ある時代において国の
   豊かさが国民の幸せに直結していたのだ。

   日本人が一丸となって突き進めば、日本丸はまだまだ沈まない
   底力を十分持っている船だ。それは、ハンガリーという中進国
   と比べる機会があるからこそ言えることであるが、明らかに大
   企業を作れない国民性というのがある。

   ハンガリー人が国際社会でご機嫌を伺わなければいけないジレ
   ンマは、日本人は感じる必要がないと思う。

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   ★★★★★★Szagamiのぶらぶらブダペスト散歩★★★★★★

   ぼったくりバーに(これから)被害者(になる)外国人男性が、
   若いハンガリー女性二人にナンパされている現場を目撃!野次
   馬Szagamiが後をつけると鼻の下をのばした男性二人はまんま
   と有名なバーに女性二人に連れられていきました。場所はヴァ
   ーツィ通り近くのParizsiUdvarパーリジ・ウドゥヴァル(アー
   ケード)です。隣にホログラフィーのお店があります。ご旅行
   される方は気を付けてくださいね。

   タンポポの綿毛に似たポプラが今年もついに飛び始めました。
   雪のように舞うと言えば綺麗ですけれど、耳や鼻に入ってくる
   のはご勘弁。

   英雄広場は現在修復中です。がっくりされた旅行者の方々も多
   くいらっしゃるでしょう。やっと英雄が立ち並んでいた台座ま
   ではきれいになりましたが、いったい14人の英雄達はどこに
   隠れているのでしょうか。

   今日のブダペストは暑かった!ペストはかまどという意味です
   が、5月初旬からこんなに暑いの?ちなみに直射日光が当たっ
   ていた温度計は34度でした。

   私事で“我が愛するハンガリー人”から第5号でご紹介しまし
   た“罵詈雑言”を浴びていたSzagami。かなり落ち込んでいま
   したけれど、今日で何とか解決の方向に向かいました。皆様か
   ら頂いておりますメールへの返信が遅れがちとなっていますが、
   必ず返答致しますので今暫くお待ちを!

   併せてHPも一両日にUPいたします。あまり(ちっとも)危
   険な暴動にあたらなかったメーデーの取材です。

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