我が愛すべきハンガリーのジレンマ

第17号   2001年5月11日

       外国人のとる態度や行動は、
       彼らの住んでいる国の風土や習慣の鏡である

   7カ国と国境を接し、期待される投資先として外国人が多く住
   むハンガリー。日本と比べると日常生活で外国人に接する機会
   が多いが、国民性の違いなどで外国人の態度にいらいらするこ
   ともあるハンガリー人。しかしある部分の外国人の態度や行動
   は、ハンガリー人自身が育てている。外国人の行動はその国の
   鏡となり得るのだ。

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   “そんなやり方をしてきて今迄よくハンガリーで生き延びてこ
   れたね!”

   第5号で読者の皆様にご紹介したハンガリー人の罵詈雑言を思
   いっきり浴びてしまった。相手は怒り心頭で大変興奮し、心に
   あることを全部言ってしまわないと気が済まないという勢いな
   ので、お得意の罵声が口からとめどもなく溢れる。“貴方の気
   を悪くしてしまい申し訳ありませんでした。”と引いて謝罪し
   てもそんな“引き具合”は理解されないので、“そちらこそハ
   ンガリー人なのによく今迄ハンガリーで生きてこれたね”と彼
   らの言い方をまねして返答する。

   通常日本人にはこんなきつい言い方はしない。今私に怒りをぶ
   つけている相手は、私が外国人(日本人)で国民性の違いが彼
   を怒らせていると思っている。残念なことだが、今回の私の言
   動はハンガリー人から学んだ習性が基本となっている。

   日本国内であっても育った環境と違う場所に住むことになれば、
   新天地に馴染もうとするのは当然の話である。外国であれば尚
   更だ。そこの人間に受け入れられよう努力をする。その国の習
   性や習慣、文化を教科書から学ぶように勉強する。それはその
   国民への尊敬と感謝を表する態度であり、それを忘れれば自分
   を受け入れてはくれない。

   異質のものを受け入れることは難しく時間がかかることだ。女
   性が男性社会に進出したばかりの初期段階では、男性の3倍の
   努力をしてやっと男性と同じスタート地点に立たせてもらえた
   はずだ。肌や髪の色などの外見が違えば、生物の生理として最
   初の拒否反応はもっと激しい。

   ハンガリーに住み自分自身で認識する変化は、人の話を何十分
   でも黙って聞くようになったことだ。彼らは本当に良く喋るが
   人の話もよく聞くのでその習慣が私にも身についた。彼らには
   たどたどしく聞こえるハンガリー語でも、外国人だろうと分け
   隔てなく一言ももらさないように気を使って耳をそばだててく
   れる。

   店に入ればまず最初に“こんにちは”と店員に声をかける。近
   所の住人とすれ違えば日常のたわいもないことを話す。気軽に
   見知らぬ人と声をかけあうことに自然体となった。

   日本語を勉強する外国人や日本に住む外国人が“あのう、ええ
   と”という曖昧な日本語を喋るのを耳にしたり、やたらぺこぺ
   ことお辞儀をする姿を見ると、滑稽であると同時に日本に馴染
   もうとして我々の習性が身についたのだと感じ、心が暖かくな
   る。

   しかしいいことばかりではない。自国の常識が外国では非常識
   に転化する場合がある。

   周囲との調和を崩さないように笑顔を絶やさない日本人の習性
   を、“気持ち悪くて最初はバカにされているかと思った。”と
   知人に指摘された。日本人にとって大切な“謙虚さ”も欧米社
   会では相手に弱みを見せることになり、交渉事の場面で足元を
   見られ失敗してしまう。“人に迷惑をかけない”という大事な
   教えも、自分の権利を一番に主張する社会ではまったく役に立
   たない。悪徳に転化してしまう日本の美徳は、外国ではタンス
   の奥にしまっておく。

   徐々に外国に住むことに慣れたら、逆に母国の習性を忘れぬよ
   う常に心がけなければいけない。その狭間で多いに悩むが、日
   本の美徳を忘れ、ハンガリー人に使う罵声をもし日本で使えば
   皆に目を白黒されるだろう。

   おもしろいもので、習性とは通常悪い面から先に目に付くし身
   に付くものだ。お金の話が口から出てくる頻度が高くなったと
   旧友に指摘された。開けっぴろげに金額を話題にするハンガリ
   ーの日常に慣れてしまったようだ。

   地下鉄やデパートのエスカレーターで片側に寄って急ぐ人のス
   ペースを開ける習慣は、先進国においてはかなり浸透したと思
   われるが、ブダペストではまだ根付いていない。自国では恐ら
   くきちんとしていたと思われる身なりのよい西側諸国の外国人
   も人を押しのけて降りたり、急ぐ人を無視して片側に寄らなく
   なったりする。当然遵守すべき自国のマナーをたった一人で守
   っていても、ハンガリー人は見向きもしない。しまいには面倒
   くさくなってハンガリー人に倣ってしまう。

   西側諸国の人々がハンガリーに長く住み一般のハンガリー人と
   交わるほど、何となく身なりが薄汚れた感じになっていく。私
   も長くお世話になったロングコートをそろそろお終いにしよう
   かと思っていた頃、エレガンスだと誉められなかなか捨てられ
   なくなった。もう袖口もいいかげんほころびているというのに。

   西側諸国の外国人だけではない。ハンガリーには多くの中国人
   がいる。老若男女を問わず非常に強い出国願望を抱いている中
   国人は世界中に散らばっている。彼らの主な目的地はアメリカ
   や日本などだが、ハンガリーは旧社会主義時代に中国と査証免
   除協定を結んでいた。

   同じ東洋人として非常に残念なことだが、中国人はハンガリー
   で好かれていない外国人の代表だ。外見が似ているため中国人
   と日本人の区別がつきにくいことは当然だが、中国人だと思わ
   れている間は訝しそうな目で見られ、こちらが日本人だとわか
   るとすぐに友好的な態度に豹変する。

   自分達の習慣を守り通し、法律ぎりぎりの行為をするので疎ま
   れやすい。ハンガリーでも中国マフィアや蛇頭の上陸、また西
   側諸国への密入国の中継地点になるなどの問題が多い。(その
   ため近年は中国人の入国審査は厳しくなってしまった)

   世界中にいる中国人は世界共通かと思っていたら、旅先のパリ
   やウィーンで見た中国人にひどく驚かされた。ハンガリーにい
   る中国人とはどことなく違い、大変こざっぱりとした格好で身
   のこなしもスマート、マナーもそこそこきちんとしていた。

   友達の中国人達からの意見を聞けば、少なくとも彼らなりのや
   り方でこの地で馴染もうと努力している。“郷に入らずんば郷
   に従え”の精神が日本人から見て度合いが少ないだけで、丸っ
   きり自分達の社会常識だけを押し通そうとしているわけではな
   い。他の在ハンガリー外国人よりもハンガリー語を使いこなす
   中国人は圧倒的に多い。

   仕事を苦役と捉え、効率が悪いハンガリー人と比べると、元来
   働き者の中国人は商売で成功しているため妬みをかっているこ
   とが嫌われている理由の一つだ。外国人なのにハンガリー人よ
   りも成功している嫉妬から様々な言いがかりをつけられ、税務
   署のみならず各公的機関(労働省、保健所、市役所、警察など)
   から罰則を受けやすいと聞けば、中国人が反撃に出ることも肯
   ける。反撃させているのは当のハンガリー人であるが、反撃さ
   れていることだけに焦点をあてて怒りをあらわにする。

   ハンガリーという風土がここに住む中国人を育てている。フラ
   ンスやオーストリアの中国人が違って見えたのも、彼らが溶け
   込もうとしている国とハンガリー自体の違いに因るであろう。
   逆の見方をすれば、フランスやオーストリアに住む外国人がど
   のように行動しているかを観察すれば、これらの国の本質も少
   しは見えるかもしれない。

   外国人である私は、ある部分ハンガリー人の鏡となり得る。交
   渉や仕事を進める時、ハンガリー人以上にハンガリーのことを
   勉強してハンガリー流に遂行しようとする。相手は外国人だか
   らハンガリー流を理解していないという態度を見せるが、私は
   この国から学んだ基礎を元に行動をとる。ハンガリー人にとっ
   て外国人のとる態度が腹立たしくとも、自分達の習性から学習
   されているなどということはなかなか理解はできないだろう。

   日本に住む外国人のとる行動も、日本人を鏡にしている可能性
   があると考えてみよう。日本に慣れようとしている外国人を見
   つめれば、少しは自分自身が気が付かない日本の習性が見えて
   くるかもしれない。

   外国人がハンガリー流に行動すると当のハンガリー人はいらい
   らするが、それが自分に起因するとは全く気が付かない。自分
   を鏡で直視することがなければそのいらいら感はいつまでたっ
   ても拭い去ることができないだろう。

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   ★★★★★Szagamiのぶらぶらブダペスト散歩★★★★★★

   先週は週末に近付くにつれて夏到来を思わせるほど暑くなって
   きました。タンスから夏服を引っ張り出すよりはと、土日に日
   光浴を楽しもうとする若い女の子達が金曜日に胸のあいたTシ
   ャツを急いで買い込んでいる様子。残念ながら週末は強い風が
   吹いてしまいした。

   観光客が増えると同時に道端でギターやチェロを弾く若者がた
   くさん出てきましたが、まさか葉書やガイドブックを販売して
   いる売り子がついでにギターを弾き語っているとは。

   朝早くからドナウ川に釣り糸をたらしている釣り人達。今朝、
   私はブダペストで初めて魚を釣った現場を見ました!でも何の
   魚だったかは遠くて見えませんでしたが・・

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