我が愛すべきハンガリーのジレンマ

第35号   2001年10月7日

      環境汚染というしわ寄せは、経済発展の影に

   経済発展と共に歩む物質的な豊かさは、なかなか環境の豊かさ
   とは比例しない。ハンガリーの各種エネルギー事情から見える
   ものは更なる繁栄なのだろうか?

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   パクシュPaksという街の横を通り過ぎた時、車を運転してい
   た友人が自慢げに教えてくれた。“この辺は魚料理が有名なん
   だ。あのレストランでは水槽の中で泳いでいる魚を、その場で
   注文にあわせて調理してくれる。”

   日本のいけすと同じ調理方法がハンガリーにもあったとは。ド
   ナウ川沿いの、平野が広がるのんびりした風景。原子力発電所
   で有名な街でなければ、ドナウに泳ぐ川魚をパプリカと共にハ
   ンガリーの郷土料理にして貰うために、そのレストランのドア
   を開けていたであろう。パクシュ産のワインも、残念ながら購
   入する気にはならない。

   ブダペストから南108Kmに位置するパクシュは、ハンガリ
   ー唯一の原子力発電所が現存する。現在稼働している4基は、
   チェルノブイリ型と姉妹機である。これは1974年から順次
   増設された、第一次世代の古い型である。しかしメンテナンス
   や事故防止対策は国際的に高く評価されており、世界の優良原
   発の上位10パーセント内にランクされている。ハンガリーの
   総電力の37.1パーセント(2000年)を供給している。

   それでも今年の6月22日に発生した小規模火災のような事故
   は起きるのだ。

   電力供給への依存は、都市生活には不可欠だ。しかし、日本で
   発生した東海村などのような原発事故への不信感や、環境汚染
   の問題が常に存在する。ハンガリーだけでなく、原発を有する
   国は皆同様に、有効な解決策を見いだせないまま問題を先延ば
   しにしている。

   ハンガリーに来た初日の、“給湯器の火は消さないように”と
   いうアパートの大家の言葉は、私にとって一番最初に受けたカ
   ルチャー・ショックであった。屋内でガスの火種を絶やさない
   ことは、日本人の常識では信じられなかった。“それにガス代
   は安いのだから、ガスの元栓を頻繁に点火して給湯器の調子を
   おかしくするより、つけっ放しにしておいた方がいいでしょ
   う。”度重なる点火で壊れてしまう給湯器の品質をとやかく言
   うのはすぐに諦めたが、エネルギーに対する“勿体無い”日本
   人的感覚は、未だにどうしても拭えない。

   1989年体制崩壊以前のハンガリーのエネルギーは、旧ソ連
   に頼切りであった。政府公式のエネルギー政策のひとつは、“旧
   ソ連のエネルギー依存からの脱却”。しかし政策が民意に行き
   渡るのに、時間が掛かるのは当然のこと。旧ソ連から格安でエ
   ネルギーを供給して貰っていたハンガリー人の感覚が、そう簡
   単に節約気質になるわけがない。

   また経済発展をすることは、エネルギーの需要が伸びることに
   直結する。1989年以前は非高率なエネルギーの消費を繰り
   返していたため、現在より消費が多かったが、体制崩壊後数年
   間急激に消費が減った。そして1994年GDPがプラス成長し
   始めた途端、エネルギー消費が上昇し始めた。

   石油産出量は1999年は日産2万4千バレル、消費は16万
   4千バレルと、完全に消費が超過。国土の殆どが平地のため、
   ドナウ川やティサ川などの豊かな川での水力発電も、十分な電
   力供給は期待できない。石炭による火力発電は、来たるEUの
   有害物質排出規格に合わせるために、順次石油へシフトしてい
   る。しかも電力需用の不足分はスロバキアなどの外国から輸入。
   このような状況下では、事故への不安や環境問題はさておき、
   原発の力が必要だ。

   原発や産業廃棄物など、環境汚染や環境破壊が伴うと考えられ
   る公共事業は、地方や中・後進国の経済基盤の脆弱さにつけこ
   んでくる。問題を直視させないよう、雇用機会や補助金という
   “良い条件”をちらつかせて取り込む。都市生活や先進国の拡
   大自由経済の基盤は、経済的弱者に支えられていると言っても
   過言ではないだろう。

   パクシュより南にあるメチェクMecsekでは、つい最近(19
   97年)まで原発の燃料であるウラン鉱山が操業されていた。
   1964年から開始された採掘作業には、環境汚染の危惧が考
   慮されなかった。更に南の都市ペーチPecsの飲料水の半分は、
   メチェク地域周辺の地下水を引いている。

   この鉱山の廃鉱時には6000人の従業員が解雇。“メチェク
   のウラン鉱山が閉山して、ペーチも失業者で溢れたよ。人は食
   べていくことがまず一番最初だ。環境問題が何だと言ってもね。
   実は僕もあそこで働いていたけれど、閉山してからはこの商売
   さ。”とは、ペーチのタクシー運転手。

   しかし目をつぶって外部へ押しやった問題は、チェルノブイリ
   原発事故のように国境を越えて先進国にも降りかかるようにな
   っている。汚染など、人間に都合よく作られた国境など、いと
   も簡単に打ち砕く。

   不足エネルギーを隣国に頼る行為は、その問題点やリスクを隣
   国に預けるだけとなる。

   体制崩壊と共にハンガリーに流れ込んできた現在の先進国に習
   った自由経済・市場開放は、環境問題を考えると、果たしてハ
   ンガリーにとっていいことなのだろうか?

   都市と地方、先進国と中・後進国の富の分配が好ましいことだ
   とは決して思えない。その土地に見合う限られた条件の中で知
   恵を絞る方が、拡大経済によって環境を“汚される”よりずっ
   とましであろう。

   地方や中・後進国に対して、富みたい気持ちを咎めることはで
   きない。しかしハンガリーは、既に先進国で起きている、将来
   自分達に降りかかるであろうと思われる問題を、冷静な観察力
   と判断力で対処できるはずなのだ。富の追及だけでなく、負の
   部分も併せて見つめなくてはいけないのではないだろうか。

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   ついにモスクワ広場にあるデパート“マムトMamut(マンモス
   の意)”の2号館が完成しました。1階にブランド店があり、
   1号館とは渡り廊下で繋がれていたりと、久々に日本のデパー
   トを訪れたような気分になりました。2年経っても完成しない
   ホテルや、長らく放置されたままになっている他のデパートの
   建設に比べると、急ピッチの工事だったように思えます。

   我家に小鳥が迷いこんできました。頭をちょっと怪我をしてい
   ました。最初はパニックを起こし、ばたばたと部屋の中を飛び
   回っていましたが、少し慣れると手からご飯粒を食べるように。
   あまりにもかわいらしく飼いたかったのすが、また帰ってくる
   ことを願って逃がしてあげました。

   お気に入りのワイン屋さんをふらっと覗いてみたら、店内の改
   装工事をしたばかりで、品薄。以前は倉庫として使用されてい
   たスペースは、売り場として拡張され、試飲用の場所も素敵な
   ソファが置かれていました。

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