我が愛すべきハンガリーのジレンマ

第37号   2001年10月27日

   先週はハンガリー内でのロマの位置を、歴史背景からご紹介し
   ました。今回は社会問題を捉えた後編をお届けします。

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       各民族の価値観は簡単には変わらない、
      世界のボーダーレス化など遠い夢?・後編

   ロマのように、国境や独自の政府という概念が存在せず、深い
   家族の絆を基礎に生活を営んできた民族に、政治的都合のみで
   西欧の生活手段や主義を押しつけるのは好ましいことだろうか。
   時間さえかければロマが西側の価値観に適応できるという考え
   自体、体制側の傲慢でしかない。近代・現代における国家の存
   続方法と彼らのそれは、あまりにもかけ離れている。ロマの例
   に焦点をあてるだけで、世界標準に当てはまらない存在は、支
   配されて当然だというヨーロッパにおける社会通念を浮き彫り
   にさせる。一体その世界標準なるものも、何をもっての基準だ
   か大いなる疑問だ。

   しかし今まで独自の国家が存在しなくとも、押し付けられた主
   義に上手く乗って生き延びてきたロマだ。その政治や社会の仕
   組みを自分達の生き方に取り入れ、成功するロマ達もいる。

   目の前にある現物や現金を取り扱って生き抜いてゆく彼らは、
   銀行口座やクレジット・カードを持たない。トルコとの戦争で
   重宝された仲間同士の情報網は、今や現代風に携帯電話が活用
   され、貴金属の行商や雑貨品、季節にあわせた野菜の露店販売
   をスムーズに行う。

   “パプリカ一山たったの100フォリントだよ!”“万能包丁、
   切れ味抜群!”“たばこ1カートン!”ロマ独特の通る声が、
   地下鉄の通路内で響き渡る。商品を最安値で仕入れ、街の商店
   の相場と比較し在庫が残らないように売り抜ける作業が、短時
   間で行われる。商売の神髄を理解しているのか、リーズナブル
   ではあるが決して破格値では販売しない。

   骨董市屋やのみの市に出向くと、会場の入り口に近くにいい場
   所を確保し、地元民や旅行者に声を掛けている。

    “ジプシー音楽”演奏者としてハンガリー内のコンサートや
   レストランで活動し、近隣諸国で旅行シーズンの数カ月間を近
   隣諸国で演奏したり、アメリカや日本などの遠い国へ海外遠征
   をするロマもいる。ヴァイオリンやクラリネットのキーを自由
   に扱う彼らの音楽の才能は、それこそ神からの“授かり物”で
   ある。鉄琴や木琴に似た小さいなテーブル程の箱に、弦が数十
   本張られたツィンバロムという楽器を担当する演奏者は、ジプ
   シー音楽の花形だ。

   これらのロマ達は一握りの優秀な者達で、一財産を築き大きな
   家を構えるが、ロマ間で成功者とそうでない者の差別も存在す
   る。

   しかしロマ達が商売上手でも、政府が法に基づく少数民族の平
   等を標榜しようとも、一般市民の彼らに対する目が非常に厳し
   いのが現実だ。

   入院している友人を病院へ見舞いに行った時のこと。各大部屋
   の2つの出入口は通常施錠されないのだが、その時は片側のド
   アが全て中から鍵がかけられていた。緊張感が張り詰めている
   看護婦達。緊急事態なのか重病人でも出たのか聞いてみた。“ツ
   ィガーニ(ロマ)が入院してくるので、他の入院患者が心配な
   のです。入院しているツィガーニ患者ならまだしも、彼らの家
   族が大勢で見舞いに来たら他の患者の身の回品が盗難にあって
   しまうから。”人の命を救う現場がこのような認識だ。

   ハンガリー政府観光局作成のパンフレットやホームページで紹
   介される民族構成の項目も、ロマは少数民族で最大の割合を占
   めるのにもかかわらず、“20−22万人のドイツ人、10−
   11万人のスロバキア人・・・・・および50−70万人のジ
   プシー”と、標記されている。何故数の多い民族が最初に記述
   されないのか、単純な疑問がわく。

   マジャール人を価値観の原点としていては、ロマの行動は決し
   て理解できない。ロマ側からのハンガリーへの同化もないし、
   ロマ達にそんな意識が芽生えるとも考えられない。しかし盗難
   やスリ、物乞い、路上での無許可販売など、先にも述べた、現
   代社会の尺度に当てはまらない行動に対し、軽蔑や差別感を感
   じるのは簡単なことである。

   EU入りが近いハンガリーは、少数民族への配慮に敏感になら
   ざるを得ない。政府主導で教育の権利、雇用均等などが、ロマ
   を始めスロバキア人、ルーマニア人、ドイツ人、スラブ人を含
   めた少数民族に対して促進されている。マジャールTV(ハン
   ガリーのNHK)では毎日1−2時間程度、国内の少数民族紹介
   の番組をスロバキア語、ドイツ語、セルビア語、ルーマニア語
   などで放映している。

   今年始め、ザーモイZamolyという町に住むロマの数家族が、フ
   ランスの国際裁判所へ訴えるという事件が起こった。少数民族
   として人権を侵害されているということで、ハンガリー政府に
   対し損害賠償を求める訴えを起こしたのだ。事の真相は定かで
   はないが、このような告訴がニュースになることが、ハンガリ
   ーが抱えるロマ問題をあぶり出しにしているのではないか。

   異民族が、一部の人間の利益に基づく法律、“価値観”によっ
   て決められた国に同居するのであれば、各民族との共存が必要
   である。“相互”とは与える側が相手の存在を見返りなしで、
   まず認めることである。しかし相手を理解しようとする心を持
   たないために、世界のボーダーレス化などというおとぎ話が、
   机上の論議で終わってしまっていないだろうか。押しつけられ
   る側には“相互理解”など、単なる言葉遊びでしかないのだか
   ら。

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   ハンガリー内のロマ問題は一例にしか過ぎません。でも、一つ
   の例を眼を凝らして眺めてみると、他に起こっている別の問題
   点も何が問題であるかと言う原点が見えてきます。今世界中を
   震撼させているアメリカの一連の事件など、アメリカの価値基
   準の眼鏡を取り払ってニュースを見ると、他のことも発見でき
   ます。

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   ★★★★★★Szagamiのぶらぶらブダペスト散歩★★★★★★

   ブダペストでも紅葉がゆっくりと始まりましたが、勿論日本の
   素晴らしい秋の色には敵いません。時間があったらマルギット
   島の日本庭園辺りを“ぶらぶら”散歩してこようかな。

   ハンガリー人の友人が風邪をひいているのにも係わらず、半リ
   ットルの牛乳を飲んでお腹を壊しました。“教えてくれればよ
   かったのに。そんなこと知らなかった。”ハンガリー人に健康
   管理の講義を始めたら1年間は必要です。“カロリーをたくさ
   んとって、寝て汗をかいたらパジャマを替えてね”という初歩
   を伝えると、“これもカロリー?”と、買ってきたばかりの乾
   いたパンを見せてくれました。1年じゃ足りなさそう。

   地下鉄やバスの中でも暖房が付き始めましたが、屋内外の寒暖
   の差がさほど激しくないので、コートを脱いだり着たりと忙し
   い思いをしなくていいのが気に入っています。

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