我が愛すべきハンガリーのジレンマ

第39号   2001年11月12日

    自らを“仕事が強い”と思い込んでいるハンガリー人
       仕事ができるのに自信を失っている日本人

   東欧諸国の中では元気なハンガリーだが、仕事に対する概念が
   先進国のそれとは全く違うので、なかなか経済格差を縮めるこ
   とができない。強く根付く専門職制度の弱点や自らの労働力へ
   の過大評価に気が付かず、押し寄せる国際企業にこのまま飲み
   込まれていくのか。

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   “ハンガリー人の仕事は西欧諸国のどこでも重宝される。オー
   ストリアで働いたけど、オーストリア人はハンガリー人に比べ
   て怠け者だと思った。”

   先進国以外の人々が海外で出稼ぎをすることは、交通網が発達
   しボーダーレス化してきた世界では当たり前のこととなってき
   た。一生かかっても手に出来ない収入を海外で稼ぎ、自国に戻
   って家や車を購入する。ハンガリー人も例外ではなく、半年や
   一年という短期間の契約を西側諸国の企業と結び、即戦力とし
   て働きに行く。

   西側諸国がハンガリー人を受け入れるのは、低賃金の割に質の
   高い労働力を得ることができるからだ。近年IT産業で技術者
   が不足し、インドから従業員を受け入れる体制を整える日本と
   同様の状況だ。常に外資企業や西側諸国で働く機会を狙ってい
   るハンガリー人は、当然英語やドイツ語の習得に余念がない。

   仕事の内容は、IT産業や研究等の知的労働から、ウェイターや
   庭師などの単純労働まで様々だ。実際には圧倒的に単純労働の
   方が多い。しかもハンガリー国内ではある程度の高学歴の若者
   達が、出稼ぎ先では単純労働に就く。そして現地の単純労働者
   と共に働き、上司から“ハンガリー人は勤勉だ”と褒められる
   ので、自らを相対的に“仕事が強い”と思い込む。

   自分達の労働力を、低労働賃金という理由で重宝されているの
   だと、きちんと認識できるハンガリー人もいる。“ハンガリー
   人が仕事ができると言われていたのは、元共産圏の労働力と比
   較した場合。ブルガリア人やルーマニア人と比べてね。西側諸
   国でのハンガリー人の仕事はレンガ積み。ハンガリーのホワイ
   トカラーが頭脳を駆使して単純労働すれば、重宝されるのは当
   然だよ。”

   “フランスからアイルランドに大工場進出のため、大々的に人
   事募集!ベビーシッターや掃除夫に”とは、先日目にしたハン
   ガリー国内での人事募集広告。

   安い人件費が理由の一つで、西側からハンガリーにやってくる
   外資系企業は、逆に苦労をする。学歴や職歴がよく、経験も豊
   富で優秀な若者達は自分自身の価値を高く見積もる。外国語を
   話すために少々の通訳を依頼すると、“通訳料の追加払い”を
   すぐに口にする。

   愚痴が止まらない外国企業の外国人マネージャー。“社員に自
   分の持ち場を離れないように指示することから始まる。自国で
   は上司命令で済むことを、プリーズをつけた依頼口調になる。
   仕事とは当然波があるものなのに、少々時間が空くと退屈し、
   たて込み始めると忙しいと文句を言う。時間をもてあましてい
   るようなので別の仕事を与えると、自分の担当ではないときっ
   ぱりと拒否し、お客の前では背を向ける。更には自分の昼食時
   間の方が大事。”サービスについて6月29日発行25号で紹
   介した通りである。

   車を2時間弱走らせればオーストリアとの国境。北・東・南に
   は東欧諸国があり、歴史上でも貿易の中継地点として栄えてき
   たハンガリー。マスメディアも随分と発展し、徐々にではある
   が、インターネットなどで海外情報も簡単に得る環境が揃って
   いる。にも関わらず、西側との差をなぜか認識しない。

   余暇や娯楽に関してある種の哲学を持つ彼らにとって、楽しみ
   と仕事は完全に切り離されている。どのヨーロッパにも存在す
   る共通の概念だが、仕事を苦役としか捉えられない。顧客の満
   足感を満たした時や企画が成功した時、営業目標の達成時など、
   日本人が人生のやりがいや活力を仕事に見出すような感覚はな
   いようだ。

   また、最近では崩壊し始めていると言われているが、ヨーロッ
   パ、特にドイツやイタリアにはマイスター制やマエストロとい
   った専門職制度がある。大量生産時代に入ったため、これらの
   制度が次世代を担う若者には受け入れられず、時代遅れとなっ
   ている。ところが、実践を伴わない学校の教育が未だ通用する
   ハンガリー社会では、専門職制度の“意識”だけは健在だ。そ
   して学校で専門職を身につけ社会で即戦力になると思い込む若
   者と、就職先の少なさのミスマッチという問題もある。

   仕事を滞りなく遂行するには、専門職を学んだ後に社会での経
   験が必要になる。社会に出た時がやっとスタート地点だ。しか
   し、技術力や専門職の能力が西側諸国のそれに大きく遅れをと
   っていることに気がつかず、机上の勉強を持ち出して仕事が出
   来ると勘違いする。“私は学位を持っている。営業戦略を学ん
   だ、心理学も学んだ。”ところがお客の方が頭を下げていた共
   産時代の習慣が抜けないのか、サービスの意味を分かっていな
   い。お客を待たせて私用電話を延々と続ける、それを指摘する
   と腹を立てる等、教科書に載っていない事項は理解できない。

   試験で良い成績を修めた人材が、“世界中で海外に出稼ぎに出
   ると、高給を支給されるのがまず私達ヨーロッパ人、その次が
   中南米でアジア人はその次。アフリカ人が一番低賃金労働者と
   して雇用される。”と、教科書と黒板で学んだ経済学を教えて
   くれる。西側企業のハンガリーを進出先に選択する理由が、安
   い経費であるというポイントに目を瞑っているのか気が付かな
   いのは、プライドを隠している故なのか。

   “ワイン村のヴィッラーニの蔵元でワインの試飲を楽しんだけ
   れど、彼らの経営には外国資本が随分と入り込んでいるね。”
   自己資金では賄いきれない経営を指摘すると、“外国にお金を
   出してもらって当然、貧乏なハンガリーだけの経営は難しい。”
   という返事だ。

   大学で優秀な成績を修めた、学生時代から企業で通訳として仕
   事をこなしていた友人が、留学先の日本でコーヒーショップで
   のアルバイトをしていた。しかし、長時間の立ち仕事に音を上
   げた。“全ての仕事をこなした。コーヒーを作るだけでなく、
   皿洗いからレジ打ちからサンドウィッチを作るまで。接客には
   お辞儀の角度までマニュアルに書いてあった。” 高校生のアル
   バイトが難なくやってしまう仕事を、国費で留学する優秀な人
   材が軽々こなせない。

   学校の美術・技術コンペティションで優勝した友人が、副賞と
   してオーストリアの一企業で一年間仕事をする機会を得た。し
   かし単なる低賃金労働者として雇用する企業の思惑と、自分の
   技術を安売りしたくない彼女の考えが合意することなく、友人
   はオーストリア行きを辞退した。

   机上の計算や、教科書だけでは学べない事が世の中にはたくさ
   んある。学校で学ばずとも、生れた時から勤勉たることを知っ
   ている日本人は“特殊”かもしれない。“日常が勤勉”の日本
   人と“余暇の達人”ハンガリー人の仕事に対する感覚は、想像
   力では補えないほどかけ離れている。

   暗い話題ばかり多い日本だが、勤勉さからくる本当の“仕事の
   強さ”が、日本経済の強さを作り出している。新社会人になる
   時から右肩上がりを知らない若い世代も、強かに生き残る戦術
   を身に付け始めている。

   ハンガリー人の“弱い仕事”の仕方に常に疑問を感じるが、世
   界経済が冷え込んでいくなか、“右肩下がり”の経済に焦燥感
   を抱いている日本人に、もっと自信を持ってほしいという願い
   である。

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   ★★★★★Szagamiのぶらぶらブダペスト散歩★★★★★★

  ●王宮の丘にはローズマリーやセージなどのハーブ類がたく
   さん生えています。勿論観賞用で料理用ではないのですが、
   見るからにフレッシュ。我家のイタリア料理用に摘んできて
   しまおうかな。そろそろ寒い冬に入り、枯れてしまうかもし
   れないし・・

  ●10月28日から冬時間となり、夕方5時はもう真っ暗。マル
   ギット橋からのドナウ川の夜景は絶品なのですが、鎖橋やパワ
   ーアップされた王宮に比べると、国会議事堂のライトアップは
   相変わらずちょっとせこいですね。

  ●11月に入り、旅行シーズンがオフとなりつつあるため、各社
   の旅行プログラムもオフモード。博物館や美術館なども閉館時
   間が早くなったり、来年の春まで閉館したり。そのかわり、オ
   ペラの季節になってきました。

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