我が愛すべきハンガリーのジレンマ

第42号   2001年12月25日

   ケッレメシュ・カラーチョニトKellemes karacsonyt!
   メリー・クリスマス!今日明日とカレンダー上では祝日。日本
   ではキリスト教徒もそうでない方も、何となくこのお祭り騒ぎ
   に乗じてしまいますね。ブダペストの街は静まり返っており、
   家族と共にクリスマスを静かに過ごします。お約束のように七
   面鳥のロースト、それにベイグリと呼ばれるお菓子が出されま
   す。このお菓子、だて巻きのように菓子生地とケシの実、また
   はクルミで作られています。さて皆様はどのようにお過ごしに
   なりますか?

*******************************************************************

      権威に対しては徹底的に媚びて生き延びる

   罵る言葉を豊富に持つことを自慢するハンガリー人。しかし、
   ハンガリー語は褒め言葉や敬語も豊富だ。罵詈雑言と褒め言葉
   を同時に使い分けるバランスの良さは、共産時代に権威を振り
   かざしていた立場と、権威に逆らわずに人生を切り抜ける立場
   を絶妙に使い分けてきた習慣の名残なのか。

   ハンガリー人が相槌のチャンスさえ入れさせてくれない程、マ
   シンガンのように喋ることを3月2日発行第4号で、ハンガリ
   ー語は彼ら自身が自慢するほど罵り言葉が豊富であることを3
   月8日第5号で既にご紹介してきたが、相手を喜ばせるための
   お世辞や褒め言葉が豊富であることを日頃感じている。

   ハンガリー人が装飾の沢山ついたお世辞や褒め言葉を使い始め
   ると、そのフレーズに気持ち良く酔ってしまう。しかしどんな
   に褒められても、それは単なる表面的な表現であると感じる。

   ハンガリー人の褒め言葉の対極には、罵詈雑言がある。彼らと
   の初対面の会話は、暴言の洗礼をいきなり受けるか、快くなる
   程褒められるか、大抵大別される。

   例えば、ガイドブックでも紹介されている悪評高いブダペスト
   市内の交通機関の検札官。改札がないため、メトロやトロリー
   バスなどで検札官が乗車券確認に車内に乗り込んでくる。勿論
   不正に交通機関を利用する乗客が多いのだが、不正乗車に対す
   る取り締まりに高圧的な態度で接する。その乗客は何とか罪を
   逃れようと、検札官に最大級の媚びともいえる言葉で言い訳を
   する。

   役所の窓口、バスの運転手、店員達から、単にサービス、切符
   や商品を購入しようとするだけで不当な暴言を受ける。単に彼
   らの機嫌が悪いのではない。仕事の効率性が考慮されなかった
   共産時代ではサービスが存在せず、知らない者に対しては、与
   えられる者より与える行為の方が権威が強かった。客の方が低
   姿勢にならないと望む品物を手に入れられないという事実を、
   現在でも店員などの客への無礼な態度から伺い知れる。歯の浮
   くお世辞で彼らの機嫌を持ち上げて、希望する品物を購入する
   客。また定期券の領収書発行を依頼するだけで怒り出す窓口の
   係員を、なだめてすかす乗客。

   検札官や店員、係員という職務の“肩書”が彼らを優越感に浸
   らせ、それに逆らう者への暴言行為や無礼な行為を助長させる。
   つまり検札官にとって、切符を持たずに交通機関を利用する乗
   客の非は問題でなく、権威を持つ自分に乗客が逆らう行為に非
   があるのだ。一介の店員や係員に権威などが存在する自体不思
   議なものだが、丸腰で何の“肩書”も持たずにそのカテゴリー
   に入り込んでくる異邦人には、暴言から保護される保障は何も
   ない。客という名前は、職務という肩書より立場が弱い。客は
   媚びることで権威から身を守る。

   また警察や役所という本当の巨大な“権威”に対しては、賄賂
   を渡したり知り合いやコネを通したりして、不当な権威を振り
   かざされないよう最大の注意を払う。(8月5日発行第29号
   参照)

   権威者の必要以上の暴言、権威に対して、媚びにまで見える必
   要以上のお世辞や褒め言葉。自分の立場は状況により一瞬にし
   て転換するので、その立場を秤にかけながらそれらの言葉を巧
   みに使い分ける。そのコンビネーションは絶妙だ。

   現在のアパートに引っ越してきた初日。エレベーターによる大
   きな荷物の運搬は禁止ということを知らなかったため、当然引
   っ越し業者に忠告しておらず、業者と住民達がけんかをし始め
   た。中庭に響き渡る住人達の叫び声。英語を話す住民が私の元
   に送り込まれ、“この建物に住みたいのなら、建物のルールを
   守れ。”と紅潮した顔で怒鳴られた。

   住民達は、この建物の住民であるという“肩書”を持つ。私は
   まだどこの誰かだかわからない、新参者で丸腰の異邦人だ。本
   来ならば詫びて住民のご機嫌をとり、住民の一員となることの
   許しを乞わなければいけなかったのだろう。

   翌日、我家の真下に住む建物の管理人に挨拶に行くと、玄関に
   出てきたのは昨日中庭で騒いでいた老女であった。驚いたこと
   に、昨日とは態度が180度違う。“困った事があったら何で
   も相談して頂戴。”と特大級の笑顔で微笑みかけられる。今で
   は建物内ですれ違えば、やはり笑顔で挨拶をする。“一体お部
   屋にいらっしゃるのかどうかわからないぐらい静かにしている
   わね。”とお世辞を言われ、引っ越し当日に落ち着いてエレベ
   ーター使用の禁止の勧告をされていれば、無駄な言い争いもな
   かったのにと思う。しかし、管理人が管理人たる権威を私に振
   るわなくなったのは、私が正式にこの建物に居住し、管理費を
   きちんと支払うという同等の肩書を持ったからだ。

   ハンガリー人の丸腰の人間に対する優越感。しかしひとたび相
   手の正体がわかると、知り合いという肩書がつき、強烈な歩み
   寄りを見せてくる。

   “ハンガリー人が相手を気持ち良くさせる言葉に長けているの
   は、共産時代に権威者から不当に扱われないよう防御するため
   からか。”と、友人に質問してみる。

   “その可能性はある。共産時代に自分の能力や狡猾さ、主義に
   反することを証明するのは危険だった。例えば私の父は熱心な
   キリスト教信者だった。あの時代に宗教を信仰することは禁止
   されていたから、信仰を諦めた知人や、逆に信仰を頑なに守っ
   て牢獄に5年間入れられた人もいる。父は内緒で教会にお祈り
   に行っていたけれど、共産党の調査員にばれないように、また
   は何とか見逃してくれるように、いつもあの手この手を使って
   いた。職を奪われるだけでは済まなかったから。”

   “でもその前の歴史を振り返ると、共産時代以前から私達の表
   面上の取り繕いは際立っていたかもしれない。ハンガリー人は
   昔からお客さんを必要以上に歓待したいという気持ちが強い。
   実際は悲観的で心を閉ざしているかもしれないのに、誰にでも
   心を開き、いつでも訪問して下さいとお客を待っている振りを
   する。ハンガリーは小国で、歴史上常に誰かに力を借りないと
   国の存在が成り立たなかったということを、本能的に感じてい
   るのかもしれない。”

   国家・個人レベルでも、表の態度と言葉だけでも良く映るよう
   に、長い歴史をかけて訓練されている。洗練された、媚びとも
   聞こえるお世辞や褒め言葉は、列強と国境を接し、生き延びる
   ために歴史から学んだ知恵であり、暗い共産時代に権威者から
   身を守るための防御方法だったのだろう。

   しかし、何の肩書も持たない相手に対しては威勢を張る。私は
   日本人として不必要な暴言など人には吐きたくない。取るに足
   らない肩書でハンガリー人に権威を振りかざされ、それに対し
   て必要以上に媚びたくないのなら、なるべく大きな権威を身に
   つけてハンガリー人を黙らせないといけないのか。

   お世辞や褒め言葉を聞き、権威を振りかざすことは気持ちが良
   い。しかし逆の立場になった時、必要以上に相手をおだて、高
   圧的態度を受けることは快適なのか。単に現世を抜かりなく生
   き延びることを最優先しているが、相手の立場に少しでも寛容
   性を示せば更に快く過ごせるだろうと、私自身、もどかしさを
   感じてしまう。

*******************************************************************

   ★★★★★Szagamiのぶらぶらブダペスト散歩★★★★★★

  ●1月からユーロ発行でドイツ・マルクやイギリス・ポンドなど
   の外貨が両替できなくなり、外国人のフォリント買いが先行し
   ているためか、フォリントが一挙に強くなりました。対円の両
   替レートは2年以上前と同じ位まで円が安くなる程に。毎年イ
   ンフレ率約10%よりも両替レートが上がっていたのに。

  ●お散歩の帰り道、知り合いの土産屋の店員がヴァーツィ通りの
   屋台でガイドブックや葉書を売っていました。9月のアメリカ
   での事件以降、日本人だけでなく、イタリア人やロシア人など
   の外国人観光客が激減し、厳しいクリスマス・シーズンを迎え
   ているとのこと。

  ●友人に招待されて、郊外の豚の屠殺会に参加しました。その模
   様をHPにアップしましたが、ちょっとえぐすぎるかもしれませ
   ん。ベジタリアンの方にはご遠慮していただいた方がいいか
   も・・詳細

*******************************************************************

 

ご意見ご感想などはhungary@szagami.comまで 
All right reserved Copyright Szagami 1999-2005
http://www.szagami.com