我が愛すべきハンガリーのジレンマ

第46号   2002年2月3日

     生き残りか、古き良き時代の懐古に執着するか
     ワイン産業(後編)

   現在ハンガリーではEU加盟に向けて法整備、関税率など様々な
   準備がなされている。平行して、加盟前に国内の弱小業界を補
   強しようと援助をおこなっている。しかし、長期的な展望と投
   資が必要なワイン業界の政府による保護政策は既に限界が感じ
   られる。

   ワイン生産業とは、家族経営的なワイン生産者が素晴らしいワ
   インを造るのであれば、政府の援助なしに外資導入や投資家か
   らの援助を仰ぐこともでき、国際的な知名度と財産を築くこと
   もできる。しかし農業において、ワイン生産のように高付加価
   値が期待できるものは非常に少ないため、誰でもその資金を受
   けられる資格があるわけではない。

   国内外でいくつもの賞を獲得しているヴィッラーニ村の有名な
   ワイン生産者ゲレ・アッティラ氏Gere Attila(3月16日発行
   第6号参照)も、短期間で外資を導入し成功を収めている。ま
   たバラトン湖の生産者レーグリ・オットーLegli Ottoは199
   4年まで年間3500本しか出荷していなかったが、国際コン
   クールで賞を獲った途端に次々と投資が決まり、現在では15
   倍以上の生産高を誇るまでに成長した。

   “その年の葡萄やワインの出来不出来に左右されるため、ワイ
   ン・ビジネスへの投資はリスクが非常に高く、投資額を回収す
   るのにも時間がかかる。単に投資として捉えていたら、簡単に
   夢なんて弾けてしまうよ。安定した品質管理や販売戦略は当然
   だが、ワインに対する強い思い入れが一番大事だろうね。投資
   したお金の回収ばかりを考えていたのなら、とっくに手を引い
   ていたよ。”10年未満でトップ・メーカーの一つに成長した
   ワイン生産者マラティンスキ・クーリアMalatinszky Kuriaに
   投資をしている知り合いの言葉は、実際のワイン生産の現場が
   いかに厳しいかを教えてくれた。

   政府が生産者に対して財政援助をしているだけでは、生き残り
   をかけた国内外の競争には勝つことはできないし、戦略のない
   ビジネスに政府財源が無駄に使われることになる。トカイ・ワ
   イン会社の最大手でさえ、生産量の50パーセントを輸出して
   いるにもかかわらず、莫大な援助金が必要な経営とはいったい
   何なのだろうか。

   数あるトカイ・ワイン会社の中でも近年成長が著しいある2社
   や、前述の知り合いの投資先は、ワインの質を高めると共に近
   年販売やプロモーションに積極的だ。そのうちの一つであるト
   カイ地方のセプシー・イシュトヴァーンSzepsy Istvanは20
   01年の“今年のワイン生産者”に選ばれた。但し、ハンガリ
   ー国内の名誉に酔いしれているだけではなく、クオリティ・ワ
   インとしての看板を掲げ続けるために、それを踏み台として更
   に厳しい世界市場に視野を向けなければならない。

   クオリティ・ワインは味と香りの、一種の芸術といってよいだ
   ろう。だからこそ、価値を量り売りのような価格体系では計れ
   ないし、インフレに連動するものでもない。ワイン業界を、芸
   術とまで呼べる高級ワインから普段の水代わりに飲むようなデ
   イリー・ワインまで一つに括ってしまった政府の業界援助の方
   針が、逆に業界自体を弱体化させている。

   国の方針で大地主の土地が接収され人々に分配されたが、国が
   想像もしていなかった国際的な競争が必然となった時代に突入
   し、結果的には大部分の家族経営の生産者の生き残りを難しく
   してしまった。ハンガリーでも、本来は水代わりであったワイ
   ンに付加価値がつき、大きなビジネスへと発展してきた。

   生産者にとって、古き良き時代を懐かしんでいる暇はない。さ
   さやかな土地で造られた葡萄に溢れた、小さなワイン蔵で成り
   立っていたような素朴な商売は、これから徐々に減っていくこ
   とだろう。ごく一部のクオリティー・ワインの名声や経済力と、
   弱体経営の“その他大勢”の生産者との間に益々開いていく差
   は、経済的視点から捉えた現代社会の縮図のようだ。

   そんな切ないジレンマを忘れさせてくれるのが、我が愛するハ
   ンガリー・ワインを飲んでいる時というのも皮肉なものである。

*******************************************************************

   ★★★★★Szagamiのぶらぶらブダペスト散歩★★★★★★

  ●30年ぶりにドナウ川が凍ったというニュースの後は、1月の
   気温としては観測史上最高の18.9度を記録、そして2月に
   はまた寒くなるとのこと。健康管理がとっても下手なハンガリ
   ー人が調子をおかしくするのは当然のことで、周囲には調子に
   乗って薄着をし、風邪をひいて寝込み始めた友人が続出。“こ
   のまま春が来ればいいのに”と言ってシャツ一枚で2時間も外
   で日なたぼっこをしていれば当たり前。

  ●あるアンティーク店で飼われているワンちゃんはSzagamiの
   お気に入り。夏はいつも店前で店番をしていたのですが、この
   めっきり寒かった冬で随分とご無沙汰していました。つい先日、
   店内でお行儀よくお座りしているのを久しぶりに発見!最初は
   年代もののテディ・ベアの横にいたのでアンティークのぬいぐ
   るみかと思っていた瞬間に、耳がぴくり!暗い店内で真っ黒ワ
   ンちゃん、売り物と間違われないで。

*******************************************************************

   赤ワインで有名なヴィッラーニ その1その2

   Szagamiのワイン村 その1その2その3

*******************************************************************

 

ご意見ご感想などはhungary@szagami.comまで 
All right reserved Copyright Szagami 1999-2005
http://www.szagami.com