我が愛すべきハンガリーのジレンマ

第47号   2002年2月15日

       健康問題の原因は煙にまかれてしまうのか

   ハンガリーへ来た当初から気になっていた喫煙率の高さ。街角
   では若い女の子達が歩きながら煙草をくわえている。当時頻繁
   に利用していたホテルのホールでは、靄が立ちこめているかの
   ごとく煙草の煙に包まれていた。煙草の生産で有名なブルガリ
   アから安物が流入しているのかとも考えたし、西側への扉を開
   いたばかりで先進国ブランドの煙草を吸うことが一つのステー
   タスなのかとも思った。

   しばらく足が遠のいていた間に、そのホテルは大規模な改修工
   事がなされていた。以前の面影がないほどにホールは明るい。
   客層が変わったのか、ハンガリーでも禁煙ブームなのか、視界
   を遮る煙はなかった。しかし最近目にした“ハンガリー肺癌死
   亡率世界一”という資料の数字に、再び残念な思いをした。

   ハンガリーでも1999年11月から先進国と同様に、レスト
   ランやバーにおいて喫煙場所と禁煙場所を分ける法律が施行さ
   れた。18歳未満への煙草の販売も禁止となる。逆に言うと、
   それまでは未成年の煙草の購入や道端の喫煙が違法ではなかっ
   たということだ。

   更に今年2002年から、煙草の広告が全面的に禁止されるこ
   とになった。

   禁煙キャンペーンを謳った立法に、禁煙効果があるのかどうか
   は多いに疑問だ。1970年代から北欧諸国やカナダでは公共
   での煙草の広告を禁止したが、喫煙率は4−9パーセントしか
   下がらなかった。

   1999年中央統計局のデータによれば、ハンガリーでの18
   歳以上の喫煙率は、男性44パーセント、女性27パーセント、
   合計35パーセントである。ブダペスト市内の高校生への聞き
   取り調査における学生の喫煙率は、男子生徒44.9パーセン
   ト、女子生徒46.9パーセントに達する。女生徒に限れば、
   1995年からわずか4年余りで35.2パーセントから1割
   以上も喫煙率が増加している。

   喫煙は百害あって一利もないことは特筆するまでもない。それ
   では若年層の喫煙率の上昇は何が原因なのか。

   西側諸国ではアメリカを筆頭に、自国での煙草を拡販すること
   が困難になってきた。そこで売上げを伸ばすために、アジア諸
   国や体制が崩壊して法整備が整わない東欧諸国を格好の拡販マ
   ーケットとした。これは信仰の自由が余り認められていなかっ
   た東欧諸国に、新興宗教が雪崩れ込んだ現象と同じと考えられ
   る。(2001年9月1日発行第31号参照)

   以前はテレビで放送されるロックコンサートの大手スポンサー
   は、フィリップ・モリス(マールボロなどのブランドを販売)
   が相場であった。コンサート会場ではプロモーションとしてマ
   ールボロを無料配布。真夏の大イベントF1ハンガリー・グラ
   ンプリのタイトル・スポンサーもマールボロである。また、煙
   草会社は映画製作にも援助し、煙草のイメージを極自然に抵抗
   なく映画に組み込んでいく。

   法律で喫煙を認められた成人だけでなく、将来手堅い“顧客”
   となり得る若年層を取り込んだ戦略である。

   ハンガリー人女性と結婚し、最近奥さんが妊娠したモロッコ人
   の友人が嘆かわしく呟いた。“病院で検査を待つ妊婦達が、何
   も気にせず煙草に火をつけていた。僕は注意したんだよ。もう
   君だけの身体ではないのだから煙草を吸うのは辞めなと。逆に
   彼らは僕に余計なお世話だと怒り始めた。それならば少なくと
   も妻に悪影響のないよう、僕らの周りでは吸わないで欲しい。”

   “煙草は身体に悪いという教育は受けていないのかな?”

   “そんな教育なんかこの国にあるわけがないだろう。”

   国民が健康を維持するための政府の禁煙キャンペーンより、格
   好のいいイメージが織りなす企業単位の喫煙を勧める広告の方
   が、若者に浸透するスピードが早いのは当然だ。

   ハンガリーでは西側諸国に比べて煙草の価格は安い。喫煙をす
   る多くの旅行者が、お土産代わりに煙草を大量購入していく。
   それでもハンガリー人から見れば十分に高価な嗜好品だ。しか
   し、高価な外国製煙草は10代から20代前半の若者に人気が
   高い。

   現在20歳で4年前から喫煙している女性の友人。“店では問
   題なく販売してくれる。あまりにも外見が若すぎれば、身分証
   明書を提示するように言われるとは聞いたことがあるけれど、
   お店から見たら売る方が大事でしょう。”若く見える日本人が、
   米国でアルコールを購入するのにパスポートを提示するのとは
   随分違う。

   ハンガリーでは1960年代初頭に初めて喫煙反対運動が起こ
   った。しかし社会的関心は薄く、残念ながらその運動は大きな
   うねりとはならなかった。現在煙草が起因の疾病で死亡してい
   る率が高いのは、その時の若年喫煙世代だ。

   EU基準の煙草に関する法整備が着々と進められているが、若
   年層の喫煙率が減少する気配は一向になく、むしろ増加の一途
   をたどっている。喫煙者の9割が煙草を辞める意志がないとい
   う。

   喫煙によって引き起こされた疾病にかかる健康医療費は、煙草
   産業からの税収の4−5倍以上になる。

   西側の煙草会社の拡販戦略の被害者意識を強く持てばいいと言
   うわけではない。ハンガリーで生産された煙草の輸出は、体制
   崩壊前後には10倍以上に跳ね上がった。ハンガリー市場が西
   側の煙草メーカー拡販のターゲットにされたのと同様に、ハン
   ガリーもその他の国々に多くの煙草を輸出してきた。

   国民の健康維持どころか、中長期的な健康医療費の削減に努め
   るより、目の前の税収が欲しい政府は、本腰を入れて禁煙キャ
   ンペーンを繰り広げることはないだろう。そして国民の喫煙の
   害に対する無知と関心の低さが、将来の健康と医療費の問題を
   拡大させている。今この瞬間を楽しみたいがために見過されて
   いる問題が、将来表層に浮き上がってくるだろう。

   今までハンガリーの自殺率、酒、煙草からの疾病率などをテー
   マに取り上げ、触れてきたが、いずれも世界でワースト・クラ
   スの数字を記録している。常々旧共産主義国家のなりの果てだ
   と一刀両断にされるが、いつも上位に顔をのぞかせるハンガリ
   ーは一体他の旧共産圏の国と何が違うのだろうか。それとも旧
   共産圏の中で一番優秀な国だったからこそ、そのような問題が
   吹き出してきたのか。

   いくら数字を突き合わせてみても、歴史的、地理的、民族的背
   景を考えてみても、整合性のある答えが見つからない。各種の
   問題を一つづつ片づけていく体制の素地を未だに組み立てよう
   としない政府や、強い意志を持たない国民。彼らと長くつき合
   っていく中で、多くの問題に私自信が麻痺してしまわないよう
   に、これからも深くハンガリーを見つめていきたい。

*******************************************************************

   ★★★★★Szagamiのぶらぶらブダペスト散歩★★★★★★

  ●日本に帰国前でばたばたしているというのに、今年で5回目の
   毎年恒例、生はげ祭りブショー・ヤーラーシュに行ってしまい
   ました。午前中は雨に降られてがっくり。午後から街に繰り出
   してくるブショーさん達をちらっと見たら、さっさと赤ワイン
   村ヴィッラーニに逃げてしまおうかと思い悩んでしまいました。
   ところがブショーさんのお呪いが効いたのか?雨はぴたりと止
   み、何と雲のすき間から青空が。結局お祭りの最後まで、また
   ブショーさん達と戯れてきました。ブショー・ヤーラーシュの
   HPでの報告は、ハンガリーに戻ってきましたら即、お伝えし
   ます。

  ●デジカメで撮ったブショーさん達をハンガリー人の友人達に見
   せると、“私ですら一回も行ったことないのに。こんなにたく
   さんブショーが登場するんだ!”と興奮気味。毎年殆ど変わら
   ない日程やモハーチの街の通りの名前、どこにブショーが集合
   するかなどをこと細かに説明し始めると、一斉に皆笑い始めま
   した。その中の一人が“人間なんて自分の文化には一番興味な
   いわよ。”と、真意をずばり。

*******************************************************************

   お知らせ:
   このメルマガが発行される頃、Szagamiは既に日本に向けての
   機上の人に。今回の一時帰国のスケジュールの一つに、読者の
   皆様と初のオフ会を予定してみました。現在参加のご連絡を頂
   いている方は11名様。新たに参加ご希望の方がいらっしゃい
   ましたら、メールにてのご連絡をお待ちしております。詳細が
   決まり次第、メルマガ上にてお知らせいたします。既にご連絡
   を頂いている方も、オフ会についてご質問・ご要望がありまし
   たら以下のアドレスにご連絡下さい。

   以下は大まかなオフ会の予定です。
   日時:2002年3月3日(日)午後5時−6時半頃から開始
   場所:都内銀座若しくは渋谷周辺のレストラン
   会費:3000−5000円くらい
   2月15日以降Szagamiの連絡先:
   szagamibudapest@hotmail.com

*******************************************************************

 

ご意見ご感想などはhungary@szagami.comまで 
All right reserved Copyright Szagami 1999-2005
http://www.szagami.com