我が愛すべきハンガリーのジレンマ

第51号   2002年4月21日

       消費社会の導入はゴミ処理との戦いの幕開け

   “鶏のもも肉1kg頂戴。”“にんじん、半キロね。”お馴染
   みの市場で店員が肉や野菜を計量し、品物を紙に包み、持参の
   買物かごに放り込んでいくブダペスト市民。包紙からはみ出た
   肉の塊がかごの中にある牛乳パックに触れても、チーズの油が
   かごを汚してもあまり気にしない。“卵を10個、このケース
   に入れて。”別の店での購入された卵のケースを持参し、店頭
   で山積みになった卵を入れてもらう。持参しなければ、ビニー
   ル袋や卵のケースに数フォリント支払わなければならない。

   ハンガリーにやって来た当時、買物袋を常に携帯しなければな
   らない不便さと、店頭での包装の少なさに苛立っていた。日本
   はバブルも終わり、市民の生活が豊かになり過ぎていた頃。買
   物袋を持参しスタンプを集め、その引き換えに何がしかのサー
   ビスを受けるというシステムが普及し始めるなど、やっと環境
   問題に腰を据えて取りかかるようになった時期であった。ハン
   ガリーでは包装紙の節約どころか、商品を袋に入れて客に渡す
   ことすらされていなかった。買物かご持参の買物など、サザエ
   さんの漫画の世界にしか存在していなかった。商品を包装する
   物を自分で用意しなければいけないハンガリーで、面倒臭さと
   同時に、家に着いてから捨てるごみの少なさに改めて感心した。

   それでも数年前から、郊外型大型店のイギリスのテスコ、フラ
   ンスのオーチャンなどが徐々にハンガリーに進出し、西側のサ
   ービス付帯で、会計時にロゴ入りビニール手提げ袋を無料でも
   らえるようになった。二重帝国であったハプスブルグ時代から
   続いていたオーストリアのチェーン・スーパーマーケット、ユ
   リウスが昨年春から撤退し、マッチというチェーンに変わった
   が、大型店に負けずとこのスーパーマーケットもビニール袋を
   無料で提供し始めた。街中はこれらの西側企業ロゴ入りの袋を
   使いまわす人々で溢れ、格好の宣伝になった。それと供に、買
   物かごを持参する者が少なくなった。 

   購入時にビールやワインの値段に加算される瓶やペットボトル。
   購入した店やスーパーマーケットに持ちこめば、返金してくれ
   る。チェーン店ではない横丁の小さな店でも同様である。また
   瓶を集めて小銭を稼ごうと、裏路地に面する返却所に列をなす
   ホームレスの姿もある。ところが最近では、手軽さと価格差の
   縮小でビールをアルミ缶で扱う量が増加している。

   以前は瓶詰で販売されていた牛乳も、低価格タイプの普及品の
   “ビニール袋”でパックされるようになり、飲み終わった後は
   ポリエチレンの小さな袋しかゴミにならなかった。それも現在
   では、日本同様の紙パックタイプの牛乳が急激に売場面積を広
   げてきている。

   体制崩壊後、西側諸国がハンガリーに持ち込んできたのは、消
   費社会と“ゴミが出る社会”のセットである。先日高級ブティ
   ックで購入したシャツを、それぞれきれいに三重にも包装して
   くれたことを、ハンガリーでは今までありえなかったと喜んで
   報告してくれた友人。典型的なおしゃべり好きな彼女は、どの
   ように素晴らしく包装してくれたかをこと細かに説明してくれ
   た。

   ハンガリーでゴミの分別回収が実施されている場所は、今のと
   ころ殆どない。空港や中心地のごく一部で分別用のごみ箱が設
   置されているが例外的だ。牛乳パックやアルミ缶、プラスティ
   ック包装をリサイクルできる施設も、ハンガリーにはまだ存在
   していない。通常大型ゴミ以外はビンも缶も一緒に捨てられる。
   住宅地では一軒ごと、または建物ごとにゴミ収集業者と契約を
   してゴミ箱を購入、もしくは借り受け、週3、4回、業者が回
   収に来る。240リットルのゴミ箱当たり、地区によって誤差
   はあるが1ヶ月8000フォリント程(約3900円)かかる。
   以前は無料で使用できたゴミ箱だったが、今やこの負担は住民
   にかかるようになった。

   EU加盟の際の環境基準を満たすための法律が成立したが、ゴミ
   処理場建設や分別収拾は遅々として進まない。一方で西側のゴ
   ミ処理施設の大手企業が、ハンガリーが自前で処理場を建設で
   きないため、水面下で処理施設や機器を販売する市場を虎視
   眈々と狙っている。既にオーストリア、ドイツ、フランス、ア
   メリカなどが、機器だけでなく、ブダペストや多くの都市での
   ゴミ収集サービスにも従事している。

   環境基準が高いはずのEU諸国は、中・東欧諸国を“安く合法的
   に”産業廃棄物を処分できる場所として、長期間捉えていた。
   90年代前半にオーストリアとの国境町モションマジャローヴ
   ァールMosonmagyarovarで、多くの不審なトラックが発見され
   た。不法に持ちこまれた産業廃棄物が満載されていた。住人や
   発足したばかりのNGOとの連携により、不法投棄をするために
   持ちこまれた産業廃棄物をオーストリア企業に返還することが
   できたが、これは数少ない成功例である。

   貧しければゴミの量は少なく、豊かになるほどゴミの量は増え、
   富める者のゴミを貧しい者がお金と引き換えに受け入れる。

   日本の大都市が地方に廃棄物を押し付ける経済格差・地域格差
   の歪みの構図は、ヨーロッパでは国境さえもいとも簡単に越え
   てしまう。先の国境町の市民運動による廃棄物返還の成功は稀
   な例で、最近は産業廃棄物を“リサイクル商品”や“技術部品”
   として書類上通関し、法の目を掻い潜っているケースが多くな
   っている。

   内部から増加するゴミ、外部から持ちこまれるゴミ、責任の所
   在が何処にあろうとも、リサイクルする仕組みが一般に普及し
   ないことには何も解決しない。

   ハンガリー総廃棄量の8割弱は、工業・農業からの経済活動か
   らである。家庭ゴミは全体に占める割合は多くないが、今まで
   あった瓶やペットボトルを回収する習慣をわざわざハンガリー
   人が失う必要はないだろう。

   共産時代の設備投資をしない非効率な工業は、環境を省みない
   危険物廃棄、工業排水の垂れ流し、大気汚染の発生などが恒常
   的だった。時代が変わり、環境に対する法律が整えられれば、
   ゆっくりだが大局的に工業などの現場は改善されていくはずだ
   った。しかし人々の意識に“便利性”と“効率性”がもたらさ
   れ、過去の良い習慣は忘れ去られつつある。共産主義時代の方
   が物は少なく、自由貿易などない限定されていた中での消費活
   動ではゴミも少なかったため、日常生活レベルで自然とリサイ
   クルが機能していたとは皮肉なことだ。

   廃棄物や環境に関する意識がハンガリー人には元々低いため、
   物が大量に存在するようになれば、急激にゴミが増えるのは当
   然だ。

   物を使いまわしたり修理すれば、ゴミが出る量は少なくてすむ。
   しかし世の中では“大量生産”が先走っているのにもかかわら
   ず、“大量リサイクル”、“大量修理”という夢のような高度
   な技術は、メガ企業ですら確立していない。また、人々は便利
   な生活に流されている。生産するコストよりリサイクル・修理
   するコストが高ければ、新製品の方が格安になるのは自然であ
   り、リサイクルをいくら叫んだところで消費を控えようなどと
   言うことに市井が耳を貸すはずもない。生産を抑えない限りは
   なくならない永遠の課題に、解決方法などないのである。

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★★★★★Szagamiのぶらぶらブダペスト散歩(選挙特集)★★★★★

  ●ついに選挙が終盤を迎えました。4月7日の総選挙第一回目の
   投票は大方の予想に反し社会党(旧共産党)が42パーセント、
   与党青年民主同盟41パーセントの僅差で社会党が勝利し、本
   日第二回目の投票を迎えることになります。テレビで民衆に訴
   えかける集会を見ていると、現首相のオルバーン・ヴィクトル
   はかなりヒステリック。もしかしてどんでん返しが再び起るの
   か?

  ●4月13日に行われた国会議事堂前の前のコシュート広場で行
   われた青年民主同盟の集会では、たくさんの人々で広場が埋め
   尽くされました。別の友人も興奮気味で、“あの集会に私も行
   った!テレビでは30万人の人が集まったと言っていたが、1
   00万人は絶対来ていたよ!”ブダペスト市民は180万人し
   かいないのに、約二人に一人が集会に参加したのか?よくハン
   ガリー人は100%絶対(Szaz Szazarek Bisztos)と言います
   が、この言葉を聞いたときは、必ず疑うSzagami。

  ●大学を卒業したばかりの若い男の子。“共産時代の方が安定が
   あって、人々はやさしくてゆとりがあった。今のハンガリーは
   仕事を見付けるのが大変。僕は社会党だよ。”実は彼のお父さ
   んは秘密警察AVOだったのだが・・

  ●ブダペストの“恐怖の館”を訪れ、HP上で青年民主同盟のプ
   ロパガンダ色が強いと紹介しましたが、もし社会党が勝ったら
   この博物館は閉鎖されてしまうのでは、とまことしやかに囁か
   れています。詳細

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