我が愛すべきハンガリーのジレンマ

第54号   2002年6月1日

     受け入れるか否か?いや受け入れられ方が問題だ

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   注:混乱しやすいのでハンガリー国籍のハンガリー人を“ハン
   ガリー人”、ハンガリー国籍以外のハンガリー人を“ハンガリ
   ー系”と表記いたします。

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   “ルーマニアに住むハンガリー系が、僕のために彼らの少ない
   税金から医療費を払ってくれるのかい?過去にハンガリーはハ
   プスブルグ二重帝国だったからといって、今オーストリアに出
   向いて無料で大学に入学させてくれと頭を下げるのかい?”

   昨年2001年6月19日に国会で可決され、今年2002年
   に施行された“身分法”を私が口にした途端、普段は愛国心の
   強いはずの友人が噛み付いてきた。この身分法とは、周辺諸国
   に住むハンガリー系と呼ばれる住民に対し、ハンガリー民族で
   ある証明書を発行し、1年間に3ヶ月間だけハンガリーで合法
   的に就労できる機会、医療機関での優遇、大学教育の無料化な
   どの特権を与えるというものだ。

   第一次世界大戦でハンガリーが敗北し、過去の大ハンガリー帝
   国が現ルーマニアや現スロバキアの各国に割譲されたことは、
   未だに現在のハンガリー人の民族感情にあらゆる影響を残して
   いる。ルーマニア国内のトランシルバニア地方には180万人
   の、ユーゴスラビア北部のヴォイヴォディナ自治州には30万
   人以上の、ドナウ側を隔てたスロバキアにも数万人のハンガリ
   ー系が住んでいる。

   “身分法はいい法律だと思う。彼らはハンガリー人なのだから、
   国が何かの援助をして当然。戦争に負けたからといって、翌日
   に突然目の前に国境線が敷かれ、ハンガリー語の使用を制約さ
   れた人生が、もし自分に降り掛かっていたらと考えれば、個人
   的に手助けしたい気持が自然に生まれるはずよ。”

   トランシルバニア地方出身の友人と家族ぐるみの付き合いをし
   ている29歳の女性の知り合いとの討論は、常に感情論から始
   まる。敗戦後、住んでいた場所が単に割譲された外に位置して
   いたため、外国になってしまった国境線の向こう側での生活の
   難しさを目の当たりに見ているからだ。

   “それでは優遇措置や公共サービスの無料化に必要な財源は、
   どこから捻出されると思う?”友人や家族レベルでしか援助の
   概念を持たない彼女からは、この質問の回答は得られなかった。

   この4月は4年ごとの選挙に当たり、再び政権交代が行われた。
   身分法を施行したフィデスFIDESZが社会党MSZPに敗れ、第一
   党を退いたため、この先、身分法がどう変化していくかは誰に
   も予測出来ない。

   ハンガリー系を抱え込むそれぞれの国は、この法律が、過去の
   大ハンガリー帝国の再統合のきっかけになるのではないかと危
   ぶんでいる。土地と共に母国と切り離されてしまったハンガリ
   ー系の、民族意識の高揚に対する警戒心である。

   ハンガリー人が、学校や仕事場や数々のコミュニティーで国外
   のハンガリー系住民の知り合いや友人を持つ機会は多い。その
   土地での苦労話や生活の厳しさを聞けば、同民族であるという
   郷愁が本来の別の問題から目をそらさせる。

   国境分断のせいで国外に住まざるを得なくなったハンガリー系
   に抱く哀愁の念より、現状の自分の生活の厳しさを直視してい
   る最初に噛みついてきた友人のようなハンガリー人は、自分達
   の収める税金が彼らの優遇措置にあてられることに憤りを隠さ
   ない。ハンガリー人の既得権を削ってまでは、在外ハンガリー
   系を温かく迎える寛容度はない。

   毎年EU加盟が先延ばしにされてきたハンガリーだが、ようや
   く2004年に加盟の見通しがついてきた。EU“連邦国”と、
   それ以外の国々の間にはいくつもの“国境”が横たわっている。
   ハンガリーはEUに加盟するとその防波堤として、4ヶ国の国
   境を有することになる。

   身分法の表向きの目的は、EU加盟によって周辺諸国から多数
   の経済移民が一気に殺到する事態に対する緩和であるとされて
   いる。しかし実際には、対象国に住むハンガリー系住人を、国
   が厚生年金などを負担する必要のない有望な労働力の対象と捉
   えている。ハンガリー国内では少子化が進み、労働人口が減少
   し続けているのだ。(ハンガリーの少子化については2002
   年1月6日発行第43号参照)

   日本でいう“3K”の職業に従事し、ハンガリー人の職を奪わ
   ないという都合の良い条件の元では、身分法に対して多くの市
   民の反応は良好である。郷愁の念からくる同情心も満足させる
   ことが出来る。実際は日本の“アルバイト”に匹敵するような
   1年に3ヶ月のみの職種など非常に少ないのだが。

   現在既に合法・非合法を問わず、かなりのハンガリー系が国境
   を越えて働いている。日刊の情報誌に皿洗いや掃除夫など、技
   能の要らない低賃金の職種を募集広告に載せると、訛ったハン
   ガリー語を話す在外ハンガリー系からの連絡が数多くある。

   同胞の流入に関してすら包容性を示すことができないのだから、
   他の外国人に対する受け入れへの寛容性がより低くなるのは当
   然である。そのため国の移民受入れのコントロールは、国民感
   情と国益とが密接に連動されるように加味される。つまり、移
   民を希望する外国人が、その国にとって有益かどうか裁量され
   るのだ。

   国境をいくつも接し、数多くの人種を含むヨーロッパでは、移
   民の流入に関しては常に敏感だ。貧しい所から富める所へ、川
   が上流から下流に流れるかのように異民族が移動することがい
   つの時代にも繰り返し行われてきたことは、国境を海に囲まれ
   ている日本人には理解し難い。急激な経済発展が見込めない現
   代社会では、新たなる移民の受け入れは各国慎重になってきて
   いる。

   少子化による人口減少によって起こる人手不足は手っ取り早く
   国外から導入することで解決したいが、既に飽和または過剰気
   味の業種においては、外国人を制限しようとする。EU加盟前
   に周辺諸国から言葉の通じるハンガリー系を緩やかに国内に獲
   りこみたい思惑がある一方で、EU加盟後に人の流出入が益々
   激しくなり、有能なハンガリー人が更に西側に流出し、EU内
   での移民のコントロールが一段と必要になることもわかってい
   る。(実際EU新加盟国に対しては、一定期間EU新規加盟国
   の労働力の流動性を制限しようとする案もドイツなどから出て
   いる。)

   世界各国で経済至上主義になりつつある今、国内で、また国同
   士での貧富の差が一般市民の目にもわかりやすくなってきたが、
   富めない者の不満の矛先が最初に向けられるのは移民である。
   しかし繁栄している時の人手不足を解消するために移民流入を
   奨励してきた地域や時代を含む国が、移民が何世代かに渡って
   定住化すると数々の問題を引き起こすことを歴史的に全く学ん
   でいないように見受けられる。

   オランダの極右の党首ピム・フォルトゥイン暗殺、フランス国
   民戦線のルペンの躍進、オーストリアのハイダーの各国極右へ
   の呼び掛けなど、近頃では右と呼ばれる主義がヨーロッパ各地
   でクローズアップされ始めている。価値観の多様性と複雑な利
   害関係があるため、数々の政党や団体を単に右寄りであるとか
   左寄りであるとかでは括れないが、ヨーロッパ各国で“極右”
   と言われる政党・団体の主張には、常に排外主義が含まれてい
   る。

   国境を越えてくるのはハンガリー系だけではない、つい10日
   前も、滞在許可が押印されていたパスポートを所有するルーマ
   ニア人が国境で拘束された。国益に適う移民のみが望まれるの
   は、何処の国でも当然だ。既に移民を多数受け入れてきた西側
   諸国の現状を見るまでもない。ハンガリーもEUに加盟すれば、
   今まで以上に移民問題の悩みを抱えていくことになるだろう。

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   人のことだけでなく、私自身もハンガリーの国益から見て如何
   に有益だかの視点をいつも持っていなければなりません。第一
   の有益さとはどれだけ納税して国庫を潤しているかなのです
   が・・

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    ★★★★★Szagamiのぶらぶらブダペスト散歩★★★★★

  ●ちょっと“ジレンマ”発行期間があいてしまった間に、郊外の
   畑では菜の花が黄色の絨毯を織りなしていました。(もうそれ
   も殆ど終わってしまいました・・)そして次は真っ赤なポピー
   がルビーのように散りばめられていました。(それも殆ど枯れ
   てしまいました・・)次はヒマワリです。そして強い日差しの
   元、ヴァーツィ通りでは観光客満載のテラスで、ドイツ人が1
   リットルのジョッキのビールを飲んでいます。

  ●政権が交代することに。前首相オルバーン・ヴィクトルに比べ
   ると、メジェシュ首相は雄弁ではないですね。FIDESZに投票し
   た友人たちは口々に“ハンガリーはまた共産国に戻ってしまう
   のか。”とため息をついていますが、この4年後の選挙にオル
   バーンは虎視眈々と首相の座を狙っているのかどうかも見物で
   す。

  ●メトロ2番の終点Ors Vezer Tere駅に新しくできたデパート
   Arkadにぶらっと散歩してきました。非常に大きなデパートで
   したが、残念ながらブダペスト市内にタケノコのように出来て
   いる他のデパートと同じく、代わり映えのないテナント、購買
   力がなく冷やかしに徹底しているハンガリー人。

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