我が愛すべきハンガリーのジレンマ

第57号   2002年8月5日

   暑中お見舞い申し上げます。

   読者の皆様、お久しぶりです。大変ご無沙汰してしまいました。
   “ハンガリーの我が愛すべきジレンマ”を継続して購読してい
   ただきまして、ありがとうございます。今年のブダペストの夏
   は朝晩が涼しく、さほど寝苦しくない夜を過ごしているのです
   が、どうやら日本では日々酷暑が続いているようですね。どう
   ぞ皆様体調を崩されませんよう、お身体をご自愛下さい。

   朝の風は爽やかですが、それでも暑さに弱いハンガリー人、夏
   の恒例バラトン湖参りが始まりました。週末どころか平日でさ
   えも、大型スーパーでビールや食料品を大量に買いこんで自動
   車に積み込み、ハンガリーの海バラトン湖へと車を走らせてい
   ます。“ハンガリー”の擬似海ではなく、波のさざめく音の聞
   こえる本物の海をSzagamiは見たくなってきました。

   それでは皆様、メルマガ配信を少々さぼりがちでありました
   Szagamiにまたお付き合いください。

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         自己見積の計算違いが原因か?

   ハンガリーはオーストリアのアルプス山脈やルーマニア、ウク
   ライナのカルパチア山脈に囲まれており、この国自体、大きな
   盆地形をしている。南東部はプスタと呼ばれる大平原が広がる
   ため、年間の気温差は激しい。しかし大陸性気候で湿度が低い
   ため、夏は日陰に入ると驚くほど涼しい。石造りの教会内部は、
   直射日光のきつい日差しからの絶好の逃げ場である。炎天下の
   散歩の後、観光客や敬虔な信者の中に紛れて火照った肌を冷や
   するために聖イシュトバーン大聖堂で涼んでも、聖人達に怒ら
   れはしないだろう。

   公共施設、商業地区にクーラーが徐々に浸透してきたのはここ
   数年のことで、私がハンガリーに来た当初、冷房施設が完備し
   ていたのは一流ホテルや外資系企業などの極限られた場所であ
   った。20畳用の冷房機が取付け工事を含め百万円程していた
   時代は、何も十年も前の話ではない。先日、地元住民より観光
   客で賑わう中心地の冷房のないスーパーで、腰に拳銃をつけた
   警備員がうだる暑さに負けて、冷凍食品の詰まった冷凍庫のド
   アを開けて顔をつっこみ涼んでいた。客に販売する冷凍ピザが
   解凍してしまおうが、彼には関係のないことだ。

   店員に笑顔がないことも、受付嬢が大事な訪問客を背にお菓子
   を食べていることも、銀行の警備員が携帯電話での会話に忙し
   くて不審者を逃してしまうことも、諦めではなく気にならなく
   なった。

   それでもいつも気にかかるのが、小売店などでの売場面積に対
   する店員の数である。明らかにどの店でも余剰人員を抱えてい
   る。共産時代の失業率ゼロという大きな看板は、無駄な人員配
   置や利益に結びつかない職務・部署を作り、行き詰まりの見え
   る不健全な経済に目をつぶった。労働者だけでなく雇用者にと
   っても、40年余りで根付いたその考え方や慣習は簡単に払拭
   できるものではない。緩慢な顧客対応、個人的な用事を済ませ
   てからの職務従事など、非行率性の例題を挙げればきりがない。
   非効率な状況下で仕事を処理するため、従業員の数を揃えない
   と通常業務すらこなせない。

   日本のバブル時期にも、多くの企業が不必要な経費を使い、余
   剰人員を抱え込んだため、非効率が生じた。それは好調な経済
   によって補われていた。経済が低迷している今、企業は一斉に
   システムのスリム化を声高に叫ぶ。また日本での自殺者が3万
   人を4年連続で超えたという。不況が続き、企業のスリム化や
   更なる効率性追求のため失業率が上がり、そのあおりを一番最
   初に受けてしまった中高年男性の自殺者の割合が高くなったと
   のことだ。しかしそれと共に就職斡旋会社の求人は豊富にあり、
   慢性的に人手不足の生じている業種や業界は確実に存在してい
   る。企業が求職者に求める能力・経験と、求職者が企業に求め
   る給与額と条件が符合しないため、ミスマッチが起きているの
   だ。求職者の意識が変わるか、またはバブルのような雇用側の
   経済的余裕の中でしか、ミスマッチを減らす余地はないであろ
   う。

   終身雇用制の幻想が続くと思われた日本にも“世界の常識”が
   上陸して、混乱が始まったようだ。それでもハンガリーのよう
   な中進国だけでなく、先進国でさえ、仕事を“選択”出来る求
   人数がある国は幸運であると言わざると得ない。

   ハンガリーの労働者達は、自分達の立場が雇用者と対等である
   という意識が日本人のそれと比べて格段に強い。労働が給与に
   反映するという概念は低く、提示された給与に対してどれだけ
   労働を提供するかという“コスト計算”を叩き出している。そ
   して残念ながら、その計算の見積が甘い。労働者は自らを過大
   評価しているため、求人・求職におけるミスマッチが日本と比
   較にならないほど大きい。いつまで経っても給与の低さに対す
   る不平・不満の解消される見通しがない。

   “私は英語とドイツ語とロシア語を話す。会社は通訳・翻訳代
   わりに私を利用する。入社契約に通訳分の給料は含まれていな
   い。余分な仕事に対する給与の請求をするつもりだ。”“僕は
   7ヶ国後を使いこなせる。同僚にこれ程言語を使いこなす者は
   いないのに給料は同じだ。”地理的に外国に囲まれている、外
   国支配の歴史が長いなど様々な理由で、複数の外国語を操るハ
   ンガリー人は数少なくない。また、法律や経済学の基礎知識を
   大学や専門学校で身につけた若者達も数多くいる。しかし求職
   者の希望を適えるだけの経済的ダイナミズムがないために、彼
   らの希望する就職先が少ない。生き残る企業に従事する労働者
   が要求される技能・能力は、間接的に市場が求めていることを
   意味している。いくら数か国語を駆使しようと法律や経済学に
   長けていようと、市場から求められなければ企業が淘汰される
   のと同様に労働者も淘汰されてしまう。

   また、時間単位で生産性が計算される単純労働に対する価値基
   準が、知的労働にまで広がっている。ホワイトカラーが“単純
   労働化”してきている。専門知識・技能を持つ者が仕事を時間
   単位で計るため、中長期の仕事運びに障害が生じる。これは長
   期的・全体的評価を否定するような取り返しのつかない過ちを
   引き起こす。ホワイトカラーである労働者側が、実務に対して
   時間単位・仕事毎に評価を雇用者側に求めることが、自らが時
   間単位でコスト計算される単純労働者になってしまうことに気
   が付かない。単純労働者とは代用が利き、給与も低く押さえら
   れがちで、雇用調整しやすい立場におかれ、更にはどんなに才
   能があっても、人手から人材に昇格しにくいのだということを
   理解しない。

   エネルギー、通信などの外資系大企業や国際的小売店が、続々
   とハンガリーに押し寄せてきている。既に、国内トップ100
   の企業の内4分の3が外資系に占められている。どの先進国に
   も、経済の急成長の過程には労働が搾取された時期があった。
   その山を越え自力で国家が安定して初めて、労働者の待遇改善
   が検討される。自国企業は今のうちに外資企業以上に“効率化”
   を計り、段階的努力をして経済を安定させなければ、自国労働
   者どころか自国企業ですら、外資企業から搾取される側から抜
   け出すのに困難になるであろう。

   市場経済だけが人生の全てではないのは当然だ。一度バブルの
   絶頂を経験した多くの日本人が最もそのことを理解し、“人生
   の選択”をし始めている。人々の心の温かさや、のんびりとし
   ていることなど、私がハンガリーに留まる一つの最大な理由で
   あることを、当のハンガリー人に口酸っぱく、時には熱っぽく
   語っても、西側諸国のような経済的豊かさを経験したことのな
   いハンガリー人は不思議がるばかりだ。ハンガリー人が自分の
   力を発揮できる希望通りの職に就き、一時日本で流行った“仕
   事への生きがい”を感じたいのであれば、自ら見積もった能力
   と仕事内容が希望通り適わないことに忍耐を持たなければ、仕
   事と能力のミスマッチというジレンマから抜け出すことは出来
   ないだろう。

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    ★★★★★Szagamiのぶらぶらブダペスト散歩★★★★★

  ●7月16日から天皇、皇后両陛下がハンガリーを公式訪問され
   ました。Szagamiも天皇陛下とお声を掛けていただき、更には
   握手までしていただきました。鎖橋だけでなく、ブダペスト市
   内には日本の国旗が沢山はためいており壮観。HPの掲示板に
   も、天皇、皇后両陛下とお会いになられたハンガリー在日本人
   の方の報告も頂きました。

  ●夏の恒例のお祭り“ペプシ・スィゲットPepsi Sziget”が、マ
   ルギット島で7月最終週から開催されました。ペプシ主催で開
   催される中欧で最大のサマー・フェスティバル、延べ40万人
   もの老若男女がハンガリーだけでなく近隣諸国からも参加して、
   夜な夜な複数の仮設舞台で繰り広げられるバンドの音楽に身を
   委ねます。(今年は外国からThe Cure, Iggy Pop, The Mission, 
   Museなど、確か昨年?はスザンヌ・ベガも来洪)20歳の友
   人は今年初めて両親を連れて行きました。“私が一番年寄りだ
   から”と、最初はおどおどしていたお母様、会場に到着して人
   ごみと騒音に卒倒し、娘の“不良度”に度肝を抜かれたとのこ
   と。しかしそのお母様、最後にはとさかヘアーの若い男性と輪
   を組んで踊っていたようです。また60歳になる友人は毎年日
   程を確認して朝まで踊り狂っています。

  ●バラトン湖だけではなく、近年ではハンガリー人にとってクロ
   アチアが人気のバケーション地です。今日からかの地に両親と
   弟夫婦と出発する友人、ポガッチャ(ハンガリー名物の一口サ
   イズのパン)を夜通しかけて焼くから今日は眠れないと、昨日
   嬉しそうな顔をしていました。きっと百個以上作って道中つま
   みながら、海岸沿いで寝不足を解消することでしょう。

  ●HPで“豚の屠殺会”を以前ご案内しましたが、何と各種家畜
   の屠殺の専門書を書店で発見!どのように締めて、いかにさば
   き、サラミやハムを作るかといった、Szagamiが屠殺会で見た
   全てが事細かに紹介されていました。詳細

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