我が愛すべきハンガリーのジレンマ

第59号   2002年9月1日

   10日間のバルカン半島の旅から無事帰宅したSzagami。現在
   その時の体験記を綴っています。その前に、通常のメルマガの
   トピックである我が愛するハンガリーを、旅先ユーゴスラビア
   から受けた印象と少々絡めて、皆様にお送りいたします。

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         EUの防波堤としてのハンガリー

   無事旅を終えてブダペストへ戻り、久しぶりにハンガリーのテ
   レビのスイッチをいれると、通過してきたばかりの国境街ケレ
   ビアKelebiaが映し出された。一瞬間嬉しくなって画面を見入
   ったが、私の顔が曇ったのはその直後。何の変哲もない小さな
   街ケレビアを、有害物質で満載の貨物が通過する報せだった。
   今回の旅先ユーゴスラビアとハンガリーをまたぐ街ケレビアは、
   国境を結ぶ鉄道幹線上に位置する。ハンガリー南部セゲド
   Szegedとユーゴスラビア北部スボティツァSuboticaの間にも
   路線が存在するが、こちらは単線で一日2往復しかない。

   ユーゴスラビアのベオグラード南東120kmにあるクラグイ
   ェヴァッツKragujevacという街の工場の一部で、武器が製造
   されていた。この工場が1999年にNATOによって爆撃、破
   壊され、最近まで国連の協力のもと、工場の残留有害物質の除
   去作業が行われていた。そこから排出されたPCB(ポリ塩素化
   ビフェニル)をリサイクル利用するために、有害物質を積んだ
   7両の貨物がスイスとドイツに向けて発車し、8月27日ケレ
   ビアを通過した。数日前に私が通って来た場所だ。

   今年の6月、ハンガリー政府は、密輸で保護されたギリシア・
   リクガメ320匹をギリシア当局に返還。ここ数年で、ワシン
   トン条約で輸出入が禁止されている動物の密輸が、ハンガリー
   の国境を介して西側に流出する事件が多発している。リクガメ
   はおとなしく運びやすい密輸品だが、ウクライナから“イルカ”
   の密輸を試みた者もいる。西側諸国に輸送や転売される前に水
   際で発見されても、劣悪な環境下にあった動物達の生存率は極
   めて低く、それとは対照的に、密輸業者への罰則は驚くほど軽
   い。320匹のリクガメを密輸入したマケドニア人への判決は、
   100万フォリント(約48万5千円)の罰金と向こう3年間
   のハンガリーへの入国禁止でしかなかった。

   ハンガリー北東部と接するウクライナ側の国境街では、物・人
   の流出入が増加したため、出入国管理の建物や道路などの大規
   模なインフラが行われていた。近隣諸国同様にウクライナにも
   ハンガリー系が住んでおり、花の甘い蜜に誘われて引き寄せら
   れる蜂のように、隣国ハンガリーでの職に群がってくる。ウク
   ライナの貧困と高い失業率が、旧共産圏内では最も豊かで、現
   在資本主義への転換に一番成功していると言われるハンガリー
   へ、若者の足を向かわせる。

   今回の旅で、ブダペストからユーゴスラビアへ向かう旅客車両
   のコンパートメント内で隣り合わせた27歳の男性も、ウクラ
   イナからブダペストに金属細工師として出稼ぎに来ていた。親
   戚の結婚式で、ユーゴスラビア側の国境街を訪問するとのこと。
   いくつものハンガリー出入国スタンプが押された彼のパスポー
   トと在留許可証の不携帯に、入国管理官の目が鋭く光る。ブダ
   ペストで既に3年間働き、今のところ現状の人生には満足して
   いる様子だ。しかしハンガリーでの不法就労の状況に甘んじず、
   更に向こうの西側諸国へ足を延ばそうとしている向上心と野心
   を持った若者や不法滞在者は、どの位いるだろうか。

   国土が海に囲まれている日本人から見れば、沿岸線からとは違
   って陸を経路とする密輸入・密入国は鉄道・道路と限られてい
   るので、国境線上で厳重な警備にあたればある程度の不法活動
   を防げるのではと思える。しかし、在ブダペストの多くの不法
   滞在者の存在や各種報道される事件を見ると、それが不可能で
   あると認識できる。

   一昨年のルーマニアへの旅での国境駅と同様、ハンガリーとユ
   ーゴスラビアのそれぞれの駅で30分以上待った。入国管理官
   や税関職員は乗客のパスポートのページを、不審者であるとい
   う疑いを持って一枚一枚めくる。国境警備隊ははしごと長い棒
   を小脇に抱え、各々の列車の天井に潜り、密輸品・密入国者が
   隠れていないかを丹念に探す。貧しい国家間の国境での物流。

   現在EU諸国にとって、次期EU加盟予定国であるハンガリー、
   チェコ、ポーランドなどは、不正な人と物の流れをせき止める
   “防波堤”だ。ベルリンの壁崩壊前、ハンガリー政府はオース
   トリアとの国境を一時的に開放し、東ベルリン市民の西側への
   “街道”をつくったように、人と物の質は違えども、ハンガリ
   ーは数々の機会で最後の砦を演じている。

   過去にバルカン半島はその立地のために、文化や宗教、商工の
   交差点であった。宗教や人種による価値観の相違と商業圏の奪
   い合いが、バルカンの火薬庫と形容されるように、ここをいつ
   も紛争の絶えない場所にしてきた。西欧と拮抗していた勢力、
   ビザンチン帝国やオスマン・トルコ帝国などが、常にバルカン
   を挟んで東側に位置していた。地理的に経済の均衡が西側に大
   きく傾いている現在では、富の西側諸国と、貧のユーゴやルー
   マニア、ウクライナが対峙し、以前のバルカン半島のようにハ
   ンガリーが人と物の交差点になってきている。

   ドイツがオーストリアを、オーストリアがハンガリーを、ハン
   ガリーがルーマニアとユーゴスラビアを、ルーマニアとユーゴ
   スラビアがアルバニアを見下すという“侮蔑の方程式”が存在
   する。陸続きで接する国が自国より若干国力が劣る国を、それ
   ぞれの国が順番に、東南へ向かって見下している。EUの旧東
   欧諸国への拡大策が、どれほどヨーロッパ内で成功するのか不
   透明だが、侮蔑の方程式に従えば、ハンガリーは他国に防波堤
   の役割を譲らない限り、不正流入という荒波に打たれ続ける。

   EU加盟の準備に対し、ハンガリーは継続的にEUから援助を
   受けている。援助や支援される側には、制約や義務が付く。EU
   加盟により得る利益を保持するため、防波堤の役割を自ら演じ
   ていることが、EU内での序列の存在を浮かび上がらせる。ハ
   ンガリーの外堀を占める国々を支援・援助する側になって初め
   て、防波堤の役割を放棄することができる。

   先週もまたアフガニスタン人とイラク人の密入国者が国境付近
   で捕まった。2004年の正式加盟に向けて、EU内での存在
   意義を提示しなければならないハンガリーは、密輸入や密入国
   者達の通過点の踏み台に甘んじ続けるのか。それとも周辺諸国
   に“防波堤”を保有させる真のEU一員にのし上るのか。

   国家間の“侮蔑の方程式”は輪ではなく、一本のロープのよう
   に最終地点がある。ハンガリーは出発地点でも最終地点でもな
   い。限りなく出発地点に近づく努力をするのか、EUの防波堤
   という役割の荷をおろす気が当分の間ないのかは、ハンガリー
   自身がまだ決定を下していないようだ。

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   今回の洪水で多くの方からお見舞いのお便りを頂きました。こ
   の場を借りましてお礼申し上げます。ハンガリーでは幸いにも
   ドイツのザクセン州やプラハのような大きな被害はなかったも
   のの、周辺諸国との災害対策の協力がますます必要になってき
   たと思います。開発の名の元、氾濫原を埋め立て、堤防で氾濫
   を封じこめようとした人間の浅知恵では大自然の巨大な力に無
   力さを曝け出しただけでした。昨年のティサ川の洪水関係(2
   001年3月30日発行)のメルマガもバックナンバーでご覧
   下さい。

  ●ティサ川の洪水関連

  ●ティサ川洪水現場

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    ★★★★★Szagamiのぶらぶらブダペスト散歩★★★★★

  ●旅行先のクロアチアで最初の一週間、雨に降られてしまった友
   人。“国立公園を散歩したり、海岸沿いを歩いたり。のんびり
   した休暇を楽しんだよ。”朝は7時から夕方遅くまで、歩きま
   くったSzagamiとは大違い、ハンガリー人の休暇の過ごし方。
   “アドレア海に行ったのに、一日も泳がなかったの?それはば
   かだ。”と言われてしまいました。

  ●けがの巧妙、洪水のお陰(?)、毎年見ている8月20日建国
   記念日のブダペストの花火は、今年は旅行日程に重ったので諦
   めていました。ところが当日は洪水で花火どころではなく、3
   1日に延期。と言うことで、一昨日延期された花火大会を夜9
   時から楽しみました。HPの本日の一枚にて、夜のドナウ川に上
   がる花火をご紹介。

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