我が愛すべきハンガリーのジレンマ

第70号   2002年11月20日

           建物を守るのは誰?

   ヨーロッパの古い都市を巡り、建物の一つ一つや全体の外観を
   目の当たりにすると、その美しさに溜息をつくばかりである。
   排ガスで煤けた姿を曝すモザイク画や、彫刻像など豪奢な装飾
   が施されたブダペストの数多くの歴史的建築物は、19世紀末
   の建設ラッシュに沸いた華やかし時代を偲ばせる。

   近代的なオフィス・ビルが集中的に建つ日本の大都市ではあま
   り想像がつかないが、建物の通りに面する一階は店舗や飲食店
   であっても、上階は住居で占められている。人口が集中するブ
   ダペストの、特に国会議事堂や観光商業地区である第5区には
   一軒家が皆無に等しく、築100年以上の歴史的建物に一般市
   民が居を構えている。各地方の都市部でも、多くの住民が集合
   住宅に住む。

   共産時代には不動産の個人所有が禁止されていたと思われがち
   だが、一人につき居住目的の住まいと別荘を一つずつまで所有
   が認められていた。生まれたばかりの我が子に“プレゼント”
   することもあり、不動産を所有する子供が多数いる。

   今月初め、私が所有する不動産の入口を開けようとしたら、鍵
   が合わなかった。通りに面しているために悪戯をされたと思い、
   錠前屋に頼んで開けてもらい中に入った。入口は二重で合計3
   つの鍵穴があるのだが、どこの鍵穴も私の持っていた鍵と合わ
   なくなっていた。誰かが鍵を換えたのは明らかだった。内部に
   入ると壁の一部がはがされ、水道管らしき新しいパイプが取り
   付けられていた。所有者の許可なしにだ。

   建物管理会社の仕業であった。建物全体に関する工事等で必要
   がある場合には、所有者の許可なく内部に入る事ができる。し
   かし電話、手紙等で所有者と連絡がつかなかったのみ合法であ
   り、今回は管理会社の連絡ミスのために起こった“違法侵入行
   為”である。ある日帰宅したら鍵が合わず、鍵屋を呼んで玄関
   をこじ開け中に入ると、部屋の一部分に工事された跡が残り、
   その周りにはゴミが散乱していたということだ。

   そこまで権限を行使できるハンガリーの建物管理会社。

   日本では築数十年もたつと集合住宅の資産価値は殆どなくなっ
   てしまうが、ハンガリーに限らず欧米では50年以上、ことに
   よっては100年以上前に立てられた集合住宅も大きな付加価
   値と共に売買されている。“付加価値”とは、地価の上昇に伴
   うものだけでなく、物件の部屋の手入れや建物の管理具合が評
   価される。物件を少しでも高額で売却できるように内部をリフ
   ォームする。逆に“見栄え良く”する資金がないために、買い
   叩かれることがある。ある程度の物件の相場は存在するが、建
   物の状態や手入れ状況により価値・価格に大きく影響する。こ
   の価値を一定に保つ一端を担っているのが私企業の管理会社で
   ある。

   共産時代は集合住宅に関して、建物の住人からの徴集金より手
   当てをもらって生活をする管理人が、建物全体の修復の手続き
   や管理を行っていた。公共部分の通路や中庭、建物前の歩行者
   道の掃除や水撒きなどから、住民同士のいざこざの仲裁まで、
   “世話焼きおばさん”でなければなかなか務まらない仕事内容
   だった。しかし薄給の上に時代が移り変り、仕事内容が多岐に、
   そして過酷になり、次第に管理会社へその業務を任せるように
   なっていった。それでも建物の管理人制度は残り、住人から徴
   集した管理費の適切な運用の監視、また住人個々の意見を取り
   まとめる役割になった。管理会社は年数回行われる住人会議の
   議事録のまとめ役、決算報告を発表、住人間の問題を中立の立
   場で解決策を探ったりする。

   これは建前上の管理会社と住人の関係だが、いつの間にか管理
   会社は住人間の問題調停所のようになってしまった。日常の不
   平を延々と話しつづける一人暮しの老人や、近所の騒音に苦情
   を陳べる中年男性など、住環境に不満を持った者達が引きも切
   らずにやってくる。担当者は5から20もの建物を一人で管轄、
   携帯電話は鳴りつづき、常時多忙のために僅かな問題は右から
   左になる。

   “私のような年金者からまだむしり取ろうって言うのかい?”
   建物の修復費にこれ以上びた一文も出したくないと駄々をこね
   る婆さん。管理会社の担当者は怒鳴られたくらいではへこたれ
   ない。“古い水道管を取り替えなければ、水が漏れて、水代が
   かさんで困るのはあなたでしょう。”

   管理会社の建物を維持する手腕も問われるが、同じ管理会社に
   委託しても、住人側管理人の意識・気配りと住人会議で決めら
   れた管理費の値段によっては、築100年の建物が新築のよう
   な見栄えになったり、廃墟同然の住まいになったりする。

   今まで毎年新築される住宅のうち、集合型が6割以上を占めて
   いたが、1998年にはその比率が逆転して一戸建てが僅かに
   集合型を上回った。ブダペストの人口が減りつづけ、経済的な
   成功者や市内の住宅を売却した人々が、郊外に一戸建てを構え
   るようになってきたからである。都会の喧騒に疲れたことと、
   集合住宅を維持していく煩わしさが要因の一つである。

   地方から都市部への若年層の流入がある限り集合住宅への需要
   はなくならないが、中心地に残る古い建物は、誰かの手で正当
   に管理されなければならない。昨今“地域社会”の求心力が落
   ちてきたと言われて久しいが、集合住宅という共同体に愛着が
   薄い者が、住民との間に入り管理しつづけることが可能なのだ
   ろうか。共産主義崩壊後に政府から格安で払い下げられたため
   に、一等地の建物には住んでいるが、決して下がらず値上がる
   ばかりの管理費の支払いに苦しむ高齢者達。建物維持のため最
   低費用を捻出しなければ、管理会社にいくら噛みついても建物
   は老朽化していくだけなのだが、数千円でもその支払いに難儀
   する住民ばかりが居住する建物は、朽ち果てるのを待つだけと
   なる。

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   今月14日にハンガリー、ルーマニア、スロバキア、ウクライ
   ナの軍の司令官がブダペストに集まり、国境を越える自然災害
   に対処するための混合陸軍部隊編成の調印が行われました。
   陸続きの国のジレンマ

   ティサ川洪水

   共産時代に国有化された教会の27の所有地等が返還、または
   補償されることになりました。
   再度キリスト教化するハンガリー

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    ★★★★★Szagamiのぶらぶらブダペスト散歩★★★★★

  ●前回号が発行されている頃、またしても赤ワインで有名なヴィ
   ッラーニ村へ足を運んでおりました。今年の新酒のお祭りでし
   たが、大きな催し物もなく少々がっかり。その代わり次世代を
   担うワイン醸造主の蔵に、新しくオープンした試飲所で機嫌直
   しを。
   ヴィッラーニ村 12

  ●その勝手に取り付けられた水道管が破裂して、膝上まで浸水、
   除水作業のため消防車を呼びました。管理会社の担当は、ぬけ
   ぬけと僕の責任じゃないと繰り返し、先週Szagamiはお冠でした。

  ●Szagamiの部屋の下の階に、管理人のお婆ちゃんが住んでいま
   す。先日久しぶりにエレベータの前で会いましたが、“あまり
   にも静かなので、引っ越したのかと思っちゃったわ、まだハン
   ガリーにいるんでしょう?どこにも行ってはだめよ。”本当に
   Szagamiにハンガリーに残ってほしいのか、自分に迷惑をかけ
   ない隣人なので引っ越してもらいたくないのか、真実は如何に。

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