我が愛すべきハンガリーのジレンマ

第71号   2002年12月1日

        国家の個人情報管理より恐ろしい

   日本では今年の8月から、国民総背番号制と酷評された“住民
   基本台帳ネットワークシステム”を殆どの自治体が導入した。
   身分証明書としても使える住民基本台帳カードは、希望者のみ
   来年8月から手にすることになるらしいが、ハンガリーにも類
   似したカードがある。

   秘密警察が闊歩していた共産時代は、一般市民は通りでもレス
   トランにて食事中でも“身分証明書拝見”と呼びとめられてい
   た。近年でも、夜分遅くに警察官に自動車を止められ尋問され
   たり、不法就労者らしき身なりの人々が身分証明をしつこく確
   認されたりするが、以前に比べれば突然の職務質問は激減した。

   それでも今年の9月11日前後には、世界的なテロを警戒して
   いたためにブダペスト市内も非常に敏感になり、頻繁に職務質
   問が行われていた。

   日本以外の多くの国では身分証明書の携帯は義務であり、警察
   の職務質問時に不携帯の場合は身元が確認されるまで拘束され
   ることがある。ハンガリーでは日本のパスポートよりひとまわ
   り小さい冊子の身分証明書を、常時携帯することが法律によっ
   て定められている。記載事項は顔写真と住所、氏名、生年月日、
   生誕地、母親の名前。ハンガリーを訪れる外国人もその適用を
   受けるため、必ずパスポート(協定がある国民はその国の身分
   証明書だけで可)を持たなくてはいけない。

   その身分証明書が2000年1月から、銀行カードやクレジッ
   ト・カードと同サイズの二枚のカードに、一枚は氏名等の個人
   情報、もう一方は居住証明として装いを変えた。戸籍謄本と住
   民票の役割を兼ねていた身分証明書が、二つに分離したのであ
   る。身分証明書の発行業務は、地方自治体に移転された。当初
   は“上から”の業務移転の混乱に記載事項の間違えが相次ぎ、
   小さな自治体では慣れない業務で処理が遅れ、役所で半日以上
   も待つ住民が多くでた。

   IT化によって集約された個人の基本情報は、一括してバーコー
   ド管理されることになった。しかし、前時代的な役所のアナロ
   グ対応が、個人情報の大量漏洩の危惧をより強く感じさせる。
   身分証明書の携帯義務が彼らには長年染みつき、国民総背番号
   制を受入れているため、何の疑問も感じずこの問題が看過され
   た。

   “自分の身分証明書の有効期限がいつ切れるかなんて、わから
   ない。”“新しい証明書をカードに変更するのに、どの役所に
   行けばいいか知らない。”手数料が必要なのか、カード・タイ
   プに変更することによる有益性や不便性を考える者はごく少数
   だった。“他のカードと同じようにお財布に収まって、持ち運
   びに便利になった。”と笑い飛ばした友人。

   また、元来お喋り好きのハンガリー人に“秘密”を守らせるこ
   とは難しい。過度な“プライバシー”の侵害、個人情報の漏洩
   にはまだまだ無頓着である。開かれてきた情報社会は歓迎され
   ている。しかし、国勢調査に来た調査員はわざわざ私に訊ねな
   くても、ある程度私の個人情報を事前に把握していたし、私が
   購入した物件の正確な金額を隣人達が知っていることは、驚き
   を超えて薄気味悪い。“個人情報”が人の目に曝されているこ
   とは、常日頃感じている。

   逆に、私も建前上知り得るはずのない他人の電話番号や給料の
   額などの情報を、いつからか簡単に得る術を身につけるように
   なった。

   “交渉相手の個人情報や取引先の裏事情は、よく知っておかな
   いとね。”仕事をする上では当然のことだが、“負債を抱えて
   いないか、犯罪歴がないかは特に重要だ。”と、役所の窓口や
   興信所に依頼もせずにそれらの情報が入手できることを、何の
   不思議もなく言ってのける店舗経営者。

   経済が完全に成熟しきっておらず、個人情報が“まだ”悪用さ
   れないハンガリーのような国では、コンピューターで一括して
   個人情報を捉まれるより、不特定の相手に情報を簡単に漏らし
   てしまう慣習によって引き起こる弊害の方が大きい。

   どんなに行政側の機密保守体制が築かれようとも、それを扱う
   のはやはり人間である。共産時代には、個人情報の漏洩が自分
   自身どころか他人の生命にかかわることがあり、ハンガリー人
   は堅く口を閉ざす状況があった。時代が変わり市場経済になっ
   たが、経済活動をする上で、情報・秘密漏洩がもたらす情報管
   理社会の危険性を理解するには、時間がかかるようだ。弁護士
   の保守義務なども、余り遵守されているとは言えない。仕事を
   するうえで、今まで交渉前にどれだけ相手の弁護士から“合法
   的に”有利な情報を今まで入手してきたことだろう。勿論外国
   企業と対等に張り合い、情報・機密の重要性を理解している者
   もいる。それでも大半の人々にとっては、己の軽口による情報
   漏洩の意味がわからない。それが災いとなって自分に戻ってく
   ることになったとしても。

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   クリスマス時期に近付くと、無料の食事やスープを配ったりと、
   恒例のホームレス援助が慈善団体によって行われます。ハンガ
   リーの厚生労働省大臣は例年以上に手厚い援助をするとのこと
   で、病院として以前使われていた建物を開放するそうです。
   ハンガリーのホームレス事情

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    ★★★★★Szagamiのぶらぶらブダペスト散歩★★★★★

  ●先週の日曜日、街の中心地ヴォロシュマルティ広場で、毎年恒
   例のクリスマス用の屋台や出店の準備が始まりました。民族音
   楽のCD、ろうそく立て、置物や炭火焼のソーセージ、ホット・
   ワインなどが売られます。まだブースが完成していないのに、
   何だか香ばしい匂いが。“一番のりでソーセージを”と思った
   ら、すぐ近くの改修中の内務省の屋根から、ぼや騒ぎで煙がも
   くもく。消防車が出動して大騒ぎでした。

  ●その屋台、昨日は8割方オープンしました。今度は火事ではな
   くて本当の美味しそうな煙がもくもく。雨上がりでちょっと冷
   え込む午後でしたが、仕込み立てのホット・ワインで、でき上
   がった上機嫌の観光客が、異国のクリスマス前の雰囲気を楽し
   んでいるようでした。
   ブダペストのクリスマスの様子

  ●個人でノートパソコンを持つ人がまだまだ少ないハンガリー、
   専門店も数件しかありません。今週見かけたノートパソコン・
   フェアの広告に惹かれて、会場に足を運んでびっくり。20台
   も展示されていませんでした。“ノジマ”の売場の方が、余程
   充実しています。

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