我が愛すべきハンガリーのジレンマ

第72号   2002年12月8日

           魚の味は記憶の彼方へ?

   他のキリスト教国より一足先に一昨日(12月6日)、サンタ・
   クロースがハンガリーにやってきた。親から子供にサンタ型チ
   ョコレートがプレゼントされる。

   クリスマス3週間前の日曜日を“銅の日曜日”、2週間前を“銀
   の日曜日”、直前の日曜日を“金の日曜日”と呼ぶ。商店の人
   も普段の日曜日は家族と過ごすが、この時期だけは週末返上で
   クリスマス商戦に勤しむ。ハラースレーhalaszleと呼ばれる伝
   統料理“鯉のスープ”が、メインの七面鳥や鶏のローストと共
   にクリスマス・イブの食卓に並べられる。締めくくりは、ベイ
   グリというケシの実が入った堅めのロールケーキだ。

   七面鳥と共に鯉にとっての受難の季節、ブダペストの中央市場
   のいつも閑散としている魚売場が、日増しに活気を帯びてきた。
   ガラス張りの狭いいけすの中は、通常、鯉、ナマズ、チョウザ
   メ、時には鰻ですし詰め状態だが、クリスマスも間近になると
   鯉一色となる。平時は中国人がお得意様だが、この時期だけは
   じっくりと品定めをするハンガリー人で溢れかえっている。

   ハンガリー民族(マジャール族)はもともと騎馬民族として知
   られており、食料を海の幸に頼ることはなかった。第一次世界
   大戦後、戦勝国によってトリアノン条約を突きつけられ、僅か
   に有していたアドリア海沿岸部を失ったことで更に魚介類と縁
   遠くなった。食卓の中心は肉料理であり、魚料理は特別な日の
   ご馳走として継承されるようになる。

   ドナウ川沿いの街バヤは、内陸の国ハンガリーでは珍しく、ヨ
   ーロッパで最も多い淡水魚の消費量を誇る。年間一人当たりの
   消費量は66kg、一般家庭では週に一度以上は魚料理が食さ
   れる。

   全国漁業協同組合連合会が魚の消費拡大を狙ってつくった“お
   魚天国”など、日本での魚離れに対する対策の涙ぐましい努力
   を感じる。実は、元々魚の消費量が少ないハンガリーでも、近
   年更に魚消費が減っている。世界的に増加傾向にある漁獲高と
   は対照的に水揚量が減少しており、1988年の3万8300
   トンをピークに、2000年はとうとう2万トンを割ってしま
   った。その内の3分の2は養殖場から、残りは船舶登録もされ
   ないような小さな木製ボートで漁業を営む漁師から、細々と水
   揚げされる。

   “鯉のスープは男の料理でね。うろこを取る作業は手を傷つけ
   ないように最新の注意を払うのさ。”と、典型的な家父長タイ
   プの50代後半のお父さんは延々と作り方を語る。逆に22歳
   の友人は、“うちの父の鯉スープは最高。鯉だけでなくて他の
   魚を一緒に摩り下ろすんだ。”“他の魚の種類は何?”と訊く
   と、とにかく魚、と返答に詰まる。

   農業関連の政府の補助金で唯一漁業だけが毎年減額されている
   のは、ハンガリー人の魚への関心の低下と符合している。開発
   の余地が存在する海がなく、主な漁業場所はバラトン湖、ドナ
   ウ川、ティサ川だが、養殖に頼る水揚げには限界がある。多く
   が零細業で営まれているので、更なる積極的な漁業技術の開発
   は望めず、付加価値をつける資金的余裕もない。

   数年前からハイパーマーケットなどの大型店で見掛けるように
   なった輸入のカレイや鯛などの海産物は、一般の食卓にあがる
   ほどにはまだ市民権を得ていない。せいぜい冷凍食品の唐揚げ
   か缶詰でしか、家庭で海の魚を賞味する機会がない。

   約3年前に有害物質シアンが上流から流入し、死滅した魚類は
   7割とも8割とも言われたティサ川での事件が今でも尾を引い
   ている。風評により魚離れが一層加速し、魅力的な釣り場とし
   て知られた川から海外からの釣り客が消えた。

   また流れが緩やかなドナウ川や周辺の沼地では、100kg以
   上のナマズが殆ど獲れなくなってしまった。零細漁業が成り立
   たなくなれば、特色のない地方の地場産業も同時に衰退してい
   く。

   前時代的な業界、漁業資源の枯渇、地域の活力減退等は、まる
   で日本の水産業界の未来を見ているようだ。大衆の魚離れがこ
   のまま続けば、ハンガリー水産業の消滅はなくとも、特別料理
   に仰々しく魚を扱うイベントへと形骸化してしまう。既に政府
   からも見放された感のある弱小産業だが、騎馬民族のマジャー
   ル民族がハンガリーの地に定住してから、肉と同様に珍重され
   てきた川魚の味が忘れられていくのは、何とも寂しい限りであ
   る。

*******************************************************************

   魚料理と同様に、郷土料理の味は若者に引き継がれていくので
   しょうか?私はハンガリーのナマズの天婦羅の上品な味を楽し
   んでいます。
   ハンガリー料理事情

*******************************************************************

    ★★★★★Szagamiのぶらぶらブダペスト散歩★★★★★

  ●英雄広場に隣接するムーチャルノク(ギャラリー)で、アンティ
   ーク屋が一堂に集まった展覧会が開催されました。入場料15
   00フォリント(約790円)と言うこともあって、来場者は
   いかにもお金のありそうな人達ばかり。ついでにハンガリーを
   訪れていたルーマニア首相ご一行様も、リムジンを横付けにし
   て買物をした様子。手に持っていた包みの中は一体なに?

  ●久々にAPEH(税務署)に行ってきました。待合室の機械で整理
   券をもらって、順番を待つようになってから何年も経つものの、
   顔なじみになると順番を飛ばして窓口の係員に手招きで呼ばれ
   る。まだまだコネ社会のハンガリーを実感。

  ●足りないものがあって、観光客も多く訪れる近くのスーパーへ
   買物。この時期パーティーが多い所為か、ワインとスパークリ
   ング・ワイン(堂々とシャンパンと表記されている)の棚はガ
   ラガラに。さすがに“13ヶ月目の給料”と呼ばれるボーナス
   をもらって気風が良くなったのか、良いワインもなくなってい
   ました。

*******************************************************************

 

ご意見ご感想などはhungary@szagami.comまで 
All right reserved Copyright Szagami 1999-2005
http://www.szagami.com