我が愛すべきハンガリーのジレンマ

第73号   2002年12月24日

   日頃から“我が愛すべきハンガリーのジレンマ”をご愛読して
   いただき、誠にありがとうございます。早いもので、年の瀬が
   迫ってまいりました。

   本日はクリスマス・イヴ、明日のクリスマスに向けて、家族中
   が団欒のために集まりプレゼントを交換します。市内の交通機
   関は午後から間引き運転、しんと静まり返るブダペスト。昨日
   からシンシンと降り続く雪で、ホワイト・クリスマスになりそ
   うです。“おせち料理”、七面鳥のロースト、ハンガリー風キ
   ャベツ巻きや魚のスープを料理するために、午前中は最後の買
   物で市場は大忙し。屋台でクリスマス・プレゼントを販売する、
   スキーウェアの井出達のおばさん達も家路へと大急ぎ。クリス
   マス明けには“あんなご馳走食べた”“こんなお酒を皆で飲ん
   だ”と、一日中楽しそうに喋りつづけます。

   さて、今回のジレンマでは、11月に訪れたSzagamiお気に入
   りの赤ワイン村ヴィッラーニのレポートを2回に渡ってお送り
   いたします。ワイン・メーカー達は、クリスマスにどのボトル
   のコルクを開けているのかと思いを馳せながら、Szagamiも今
   晩の夕食にどのワインを飲もうか思案中です。

   それでは皆様も素晴らしいクリスマスをお迎え下さい。

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   最初にグンゼル・ゾルターン氏の2001年オポルトー種の赤
   ワインをグラスに注いでもらった。一ヶ月前に開いたばかりの
   ワインの香りで一杯の試飲室は、10人は座ることのできる大
   きなテーブル3つで占められている。真ん中のテーブルを陣取
   る8人のハンガリー人の団体が、既に数本のワインを空にして
   いた。接客を担当するワイン・メーカー、グンゼル氏の奥さん
   を、彼らはワインだけでなくアルコール全般の知識に少しでも
   不足があるものなら、何とかやり込めてやろうと息巻いている
   ように見えるが、1対8はフェアではない。

   ブダペストのワイン専門店やレストランなどで知名度が高くな
   ってきたグンゼル氏の、真新しい試飲室でのグラス一杯の値段
   は、普段スーパーマーケットで数百円単位のワインを飲み慣れ
   ているハンガリー人にとって決して安くない。お喋り好きで地
   元意識の強い彼らは損な気分を土産に持ち帰らぬよう、自分の
   知り得る知識を精一杯ひけらかそうとする。“元々はウィスキ
   ーしか飲まなかったが、6年前からはワイン党だ。”“本来は
   白ワイン派なんだがね。世界中の白ワインを飲んでみたが、ハ
   ンガリー産が一番だよ。”ハンガリー国内だけでなく、海外へ
   の販売も視野に入れるグンゼル氏の奥さんに自慢しなくても、
   と思いながら遠目に眺めていると、徐々に空になっていく私の
   グラスを気にしていた奥さんが、次は何を試飲するのか目線で
   合図を送ってきた。1999年のカベルネ・ソーヴィニヨン種
   を頂くことにする。

   8人衆の話題は、老舗ワイン・メーカー、ボック・ヨージェフ
   氏のペンションでとった昨晩の夕食の悪口や、法人・個人所有
   の年代物のワインを適正な管理のもと保存している“宝のワイ
   ン蔵”で行われる今晩の大宴会への期待、更には今年の4月の
   総選挙によるハンガリー・ワイン業界へのその後の影響にまで
   及んだ。相変わらず奥さんへの粗捜しは厳しく、彼女も聞き流
   せばいいのに、真正面から彼らの挑戦に対抗している。

   うんちくの多い8人がやっと席を立ち、去っていった。聖マル
   トンの日にあたる本日は、赤ワイン生産地で有名なヴィッラー
   ニ村でガチョウ料理を振舞う伝統的があり、蔵出しされたオポ
   ルトー種の今年の新酒が振舞われる。“宝のワイン蔵”での宴
   会までの時間を試飲可能な他のワイン蔵で過ごすのだろう。世
   界中どころか、ハンガリーのクオリティー・ワインさえ飲んだ
   ことのなさそうな8人衆の中で、グンゼル氏の値が張るワイン
   を購入した者は一人もいなかった。

   ヴィッラーニ村はブダペストから約200km南に位置する。
   ヴィッラーニ地域の地中海性気候と、平野に佇む250-400
   m級の、東西に延び南側に緩い傾斜を備えた丘が、赤ぶどう種
   栽培の最高な条件を提供している。ぶどうの成長期に17-20
   度の気温、年間降雨量700mmが最適だと言われ、ヴィッラ
   ーニのぶどう成長期の平均気温は17・5度、年間降雨量は6
   50-900mmである。春の訪れが早く、日照時間がハンガリ
   ーの他の地域に比べて長いことも、品質の高いぶどうが収穫で
   きる所以だ。小さな村ヴィッラーニには、ハンガリー国内にお
   けるクオリティー・赤ワインの蒼々たる大御所ワイン・メーカ
   ー達が控えている。

   その一人ボック・ヨージェフ氏の祖先は、18世紀半ばにドイ
   ツのシュヴァルツヴァルトからヴィッラーニ近郊のマーロック
   村に移住してきた。父親のワインが1978年ショプロンで開
   催された国際ワイン大会で金賞を受賞。ハンガリーの個人ワイ
   ン・メーカーが国際舞台で賞を獲得するなど、誰にも信じられ
   ない時代だった。ボック氏自身のワインが完成したのは198
   7年。

   今年6月、天皇、皇后両陛下の訪洪の際にカベルネ・ソーヴィ
   ニヨンをベースにしたブレンドを献上したゲレ・アッティラ氏
   は元々ビール党だったが、カタリンと結婚し、義父の自家製ワ
   インを飲んでからワイン醸造を始めることに。ボトル詰めのワ
   インが珍しく、量り売りが主流だった時代に、既にレストラン
   に自らのワインを売り込み、オーストリアから投資を受け、近
   隣ヨーロッパへの販路の基礎を固め、着実に現在の地位を築い
   てきた。そんな強豪達がひしめくヴィッラーニで、31歳のグ
   ンゼル・ゾルターン氏は新進気鋭のワイン・メーカーだ。

   まだ肌寒さの残っていた今年の4月にヴィッラーニのレストラ
   ンで昼食をとり、ウェイターにグンゼル蔵の場所を訊いている
   と、車で連れていってやろう、そう遠くはなのだが、と地元民
   が声をかけてきた。

   “坊主、親父さんの蔵はどこだ。”と、大きな庭を駆け回る男
   の子にその地元民が声をかける。そこから数十メートル先の角
   を曲がると、細い道に面した大きな二階建ての家の前で、グン
   ゼル氏が5、6人の作業員と共にワイン貯蔵用ステンレス・タ
   ンクを搬入しているところだった。トラックの荷台から降ろし
   たばかりの入口より背の高いタンクを屋内にどう入れるか、横
   にしたり縦にしたりと悪戦苦闘している。忙しさの中、声をか
   けるのは気が引ける。部品の不足が生じたようで、ちらりとこ
   ちらを見た後に車に乗って去ってしまった。残念だったが、一
   階の入口が大きく開いた工事中のこの家で試飲が出来るのか、
   単なるワイン醸造所になるのか見当も付かないまま、その日は
   ここを後にした。

   この度はぜひ醸造所の完成だけでも確認したく、景色を追いな
   がら前に来た道をゆっくりとたどっていった。フランス製のオ
   ーク樽が積まれた倉庫が隣接する、見覚えのある大きな庭付き
   一軒家が視界に入った。道を曲がると、ホースで水を撒いて床
   を掃除する、つなぎ姿のグンゼル・ゾルターン氏がいた。“グ
   ンゼルさん、試飲、やっています?”“2階にいる家内に訊い
   てくれ。”看板も標識も無い入口から建物内に入ると奥行きは
   外から見るより深く、4月に苦労して設置したタンクがいくつ
   も並んでいた。左手の螺旋階段を彼の勢い良く撒く水をよけな
   がら上がると、奥さんが8人のハンガリー人に囲まれて七転八
   倒しているところであった。

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  ■ヴィッラーニ村 12


  ■ノーベル賞授賞式をテレビで見ました。小柴氏、田中氏、ハン
   ガリー人受賞者ケルテース・イムレの姿と、何だか感慨深かっ
   たです。

   ハンガリーの読書事情

  ■フリーマーケットへ足を運んできました。クリスマス前のため
   か、骨董品よりも実用品の方が多く出展されていました。いつ
   もより賑わっていたのですが、更に人だかりが出来ているブー
   スでは一体何が売られているのか?海賊版CD、DVD、パソコン
   ソフトにビデオなど。作品名のリストから選んで番号を告げる
   と、トランシーバーや携帯電話で外の仲間に連絡して、他の場
   所で商品を受け取っていました。

   著作権と言う船を襲う海賊

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    ★★★★★Szagamiのぶらぶらブダペスト散歩★★★★★

  ●日本の忘年会のように、クリスマス前はパーティーなどが目白
   押し。週末、知人宅にお呼ばれされて、ハンガリー伝統料理の
   ご馳走をいただきました。食事も然ることながら、コストに見
   合わないため、一般には生産されていない木いちごの蒸留酒を
   少々味見。45度以上のアルコールから漂う香りにうっとり。

  ●ホワイト・クリスマスで幻想的な景色も、丘に住む友人達には
   幻滅的な現実。“スリップしてうちの車が駐車している乗用車
   につっこんだ”“雪に埋もれて動かない”“歩いた方がずっと
   早い”。悠々と防水靴で幻想的なブダペストを散歩するSzagami。
   思うようにいかないハンドルさばきに、皆かりかりしているよ
   うです。

  ●路上で本物のクリスマス・ツリーを購入する市民。大きいもみ
   の木を選び、肩にかついで持ちかえる頼もしいお父さんの手に
   引かれて、幼い子供達は何をツリーに飾ろうかと目を輝かせて
   います。幹の部分ばかりで、葉があまり元気のないツリーを買
   ってきた彼氏に憤慨の友人。“バランスをとるために大幅にカ
   ットしたら、盆栽みたいにまるまるしたツリーになってしまっ
   た。”

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