我が愛すべきハンガリーのジレンマ

第74号   2002年12月30日

          ヴィッラーニの新しい風・後編

   “セミ・スウィートがあるの、飲んでみない?”8人が去った
   後、新しいボトルのコルクを開ける奥さんに薦められるがまま、
   セミ・スウィートを飲みながら日本のワインの話などをした。
   最後には、地方で行われたワイン・コンクールに出展して優勝
   したという2000年のケーク・フランコシュ種とカベルネ・
   ソーヴィニヨン種のブレンドを試飲。

   “日本の天皇が訪洪した時に献上したゲレのワインを飲んで、
   天皇が美味しいと言ったそうよ。”奥さんはゲレ氏のことを息
   せき切って語り始めた。“彼が素晴らしいのは彼が造りだすワ
   インだけではなく、人間としての強さとやさしさを持ち合わせ
   た格のある人柄なのよね。”私はゲレ氏の経営するペンション
   に宿泊していることを黙ったまま、彼女の話しに耳を傾けた。

   かつてゲレ氏と雑談をしている時に、彼は言った。ワイン醸造
   が9代続くティッファーン家のティッファーン・エデ氏から、
   ワイン造りだけではなく、仕事の仕方から生き方まで学んだ。
   ワイン専門雑誌のインタビューでも、1995年から5年間ヴ
   ィッラーニ・ワイン協会の会長を務めたティッファーン・エデ
   氏をベタ賞めだ。現在は10代目になる30代半ばの息子ジョ
   ルトに、ワイン製造を引継ぎ始めている。老舗や長老が構え、
   既に品質の高い赤ワイン醸造の基礎が固められているヴィッラ
   ーニに、新参者や次世代が進出するのは並大抵の事ではない。
   その中で30代のワイン・メーカーとしてクオリティー・ワイ
   ン生産と闘うティッファーン・ジョルト氏とグンゼル・ゾルタ
   ーン氏が、次の世代を担う頭角だ。

   私がヴィッラーニをこよなく愛し、足繁く通う理由の一つがこ
   こにある。ティッファーン・エデ氏からワインを通して人生を
   学んだゲレ氏が、次世代のグンゼル氏に包み隠さずワイン醸造
   の秘訣を伝える。そのワイン造りの秘訣から、グンゼル氏や奥
   さんがゲレ氏の人生観を感じ取り、吸収していく。ハンガリー
   内の有名ワイン・メーカーの中でも、ヴィッラーニ村出身のワ
   イン・メーカーが多くの割合を占める。村全体が販売促進や品
   質向上・保持に従事し、成功を収めてきている。本来ならば競
   争相手であるワイン・メーカー同士のはずなのに、ヴィッラー
   ニでは、お互いが良きライバルとして互いに助言し合い、刺激
   し合い、ワインの質を高め合う。自社ワインだけでなく、ヴィ
   ッラーニ産ワイン、ひいてはハンガリー・ワインの名と質を世
   界中に知らせるために。自らの知識や経験を惜しみなく提供し
   合う。

   彼らの地元への、自国への郷土心が、彼らの手から生れるワイ
   ンを通して知る事ができる。

   普段からゲレ氏を尊敬している私の耳に、他の人間のゲレ氏へ
   のさり気ない賛辞が心地よく響いた。

   日本から国産ワインを持参した際、“友達と一緒に飲むよ、今
   はコルクを開けない。”と、こちらの予想以上に喜んでいたゲ
   レ氏。ヴィッラーニ産ワインの日本市場への販売に試行錯誤し
   ているが、日本で生産されたワインを飲むなどとはまるで考え
   ていなかったようだ。彼の友達とはボック氏やティッファーン
   氏であることが、容易に想像できる。

   娯楽の少ない小さな村。端から端まで徒歩で20分足らずの目
   抜き通りには、多くのワイン蔵が並ぶが、観光客用の試飲室と
   して開放されている蔵は数軒だけで、常に閑散としている。暖
   かくなり始める春先、ぶどうの収穫時期、降り積もる雪を踏み
   つける頃など様々な季節に訪れたが、軒並みワイン蔵が観光客
   で溢れかえる様子は、聖マルトンを祝う日の今回が初めてであ
   る。

   多くのワイン・メーカーが、自らブダペストに出向いてワイン
   を出荷し、ワイン専門店やレストランに顔を出して営業をする。
   ハンガリー・ワインの販売促進のために、一流ホテルでの催し
   物やパーティーにタキシード着用で出席する傍ら、ワイン紹介
   のテレビ番組に登場する。ドイツやフランス、イギリスなどの
   ワイン・コンクール出展に向けて、頻繁に海外に出張する。そ
   んなネクタイを締めたそうそうたるワイン・メーカー達が、地
   元のワイン畑ではつなぎを着て、頬を真っ赤に日焼けさせてぶ
   どう栽培に励む。ボック氏がワイン蔵と共に経営するペンショ
   ンの入口には、サインペンで“BJ”(ボック・ヨージェフBock 
   Jozsef)と内側に記された長靴が立て掛けてあった。

   グンゼル氏の今年のワイン出荷数は8万本、来年は10万本を
   目指したいとのこと。週3-4回はブダペストへの道のりを往復
   し、100カートン単位で運んでいると言う。がっちり組まれ
   た老舗の輪に、新しい風を吹き込むことができるだろうか。い
   や、絶対にできる、彼なら。ぶどう栽培と収穫のチェック、ワ
   イン醸造や蔵の保存、ブダペストへの出荷、自社商品の販売を
   一人でマネージメントする意気込みと妥協をしない姿勢から、
   クオリティー・ワイン醸造への熱意を強く感じる。そして、骨
   太でがっちりとした体格とは裏腹に、握手をした時のやさしく
   て彼の柔らかい手のひら。

   1994年の結婚と同時に購入したという試飲室と醸造所を構
   える建物の地下には、まだワインが入っていない空っぽの大き
   な樽がいくつもころがっていた。すぐ近くの自宅も拝見させて
   頂き、グンゼル氏の元をお暇した。

   彼の自宅の背後に広がるぶどう畑と、なだらかなヴィッラーニ
   山に沈む夕日に映える薄紫色の空が美しかった。

   冷たい風が心地よい中、ゲレ氏のペンションへ徒歩で戻る。本
   日はゲレ氏のペンションは満室。ドイツに出張中のゲレ氏は、
   明日ハンガリーに帰国とのこと。奥さんが一人で多くの得意客
   を切り盛りしていた。

   小さな赤ワイン村ヴィッラーニは、まるで生きている一人の人
   間のようだ。それぞれのワイン・メーカー達がそれぞれの身体
   の組織となって、真っ赤な血となる赤ワインを血管にひたすら
   運ぶ。そしてまだまだ成長し続ける過程を見届けるために、私
   のヴィラーニ詣ではこれからも続いていく。

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  ■ヴィッラーニ村 12

  ■ハンガリーワインの味 123

  ■ヴィッラーニ村のゲレ氏にもジレンマがあります。詳細

  ■クリスマス時期になると、取って付けたようにホームレスの話
   題が挙がります。今年も貧困者層やホームレスを対象に、スー
   プなどの温かい食事が慈善団体等から配給されました。

   クリスマス・シーズンの光と闇

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    ★★★★★Szagamiのぶらぶらブダペスト散歩★★★★★

  ●国会議事堂正面の駐車場にスケート・リンクが設置されました。
   冬の靄の中のドナウ川周辺の歴史的建造物ライト・アップは殊
   更魅惑的ですが、国会議事堂はいつもパワーのない照明。リン
   クが登場してからは強力なスポットライトが当てられ、灯りに
   浮き上がる氷の上を、完全防寒の子供達がすいすいと滑ってい
   ます。

  ●23日に雪がさらさらと降ったので、ホワイト・クリスマスに
   なったブダペストですが、日々の寒暖の激しさがハンガリー人
   達を風邪で困らせました。“家族で過ごしはしたけれど、鼻水
   たらしてベッドで寝てた。”“24日は何を食べたか覚えてい
   ない。”

  ●“鯉のスープとキャベツ巻き(ハンガリーおせち)はたっぷり
   満喫した?”のSzagamiの質問攻めに、“来年まで見たくない。
   大量に作ったキャベツ巻きの残りが、お鍋の中でまだぷかぷか
   浮いている。”と、胸焼けに眉を寄せる3人の子供のお母さん。
   お米が入ってサワークリームをたっぷりかけるハンガリー風キ
   ャベツ巻きは、日本のものよりずっとこってりしているのです。

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   間もなく2002年が終わろうとしております。ハンガリーだ
   けでなく、旧中・東欧圏の多くの国々を含めた10ヶ国が、2
   004年5月から正式にEU加盟することになりました。

   そんなハンガリーの変革期において、日本では余り紹介されな
   い話題を少しずつご紹介できればと思います。また来年もよろ
   しくご贔屓にしていただければ幸いです。

   それでは皆様、良い年をお迎え下さい。

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