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    ----------我が愛すべきハンガリーのジレンマ----------
            第75号 2003年1月20日
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   正月気分が抜けずにのんびりしていたわけではありませんが、
   少々ジレンマの配信が遅くなりました。心機一転、今年もハン
   ガリーに潜むジレンマをSzagamiなりに眺めながら、皆様にお
   伝えしていきたいと思います。今年も引き続き、お付き合いを
   宜しくお願いいたいします。

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   ●中堅国のジレンマ
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   最近日本で静かなブームの“シシー”こと、ハプスブルク帝国
   皇帝フランツ・ヨーゼフ(ハンガリー語でフランツ・ヨージェ
   フ)妃エリザベート(同エルジェーベト)。1854年に南ド
   イツ、バイエルンから嫁いできた彼女の人気はウィーンでも未
   だ根強く、173cmの長身にウエスト50cm、“絶世の美
   女”と讃えられた彼女をあしらった土産物や雑貨が数多くある。

   父マクシミリアンの自由奔放な性格を継いだシシーは、姑ソフ
   ィー大公妃と折りが合わず、またウィーン宮廷での社交生活に
   馴染めないまま、放浪するように旅をつづけた。旅先のジュネ
   ーブでイタリア人の土木労働者に殺されて、61年間の生涯を
   閉じる。

   恋愛結婚による皇帝への嫁入りは、政略結婚で果てしなく領土
   を広げてきた“太陽の沈まない帝国”内では珍しかった。シシ
   ーの姉、ヘレーネとの見合いの席で皇帝がシシーを見初めた話
   は、シンデレラ物語さながらだが、彼女の波乱に満ちた人生が、
   人々に彼女の人間味を感じさせるのだろう。

   オーストリア・ハンガリー二重帝国時代にハンガリー王妃を兼
   ねたシシーの人気は、ハンガリー国内でも今も衰えていない。
   ブダペスト市内のドナウ川に掛かる8本の橋の一つは、“エル
   ジェーベト橋”と呼ばれ、ブダ側の橋の袂にはシシーの銅像。
   アプリコット、ウィスキー、チョコレート風味の3種が揃う、
   クリーム・リキュール“シシー”。

   多民族で形成されていたハプスブルク帝国の中で、際立って独
   立心が旺盛だったハンガリーを、フランツ・ヨージェフ皇帝の
   母、ソフィーは嫌っていた。支配圏にあった北イタリアに、ハ
   プスブルク支配に対するイタリア系住民の反感が高まるなか、
   1856年に皇帝・皇后が歴訪。翌年にはハンガリーを訪れた
   が、1848年の帝国の圧政に対するハンガリー国民の蜂起
   (独立戦争)がうそのように、ハンガリー人から大歓迎をもっ
   て迎えられた。イタリアで快く歓迎されなかったこととは対照
   的であったため、シシーはハンガリーを大変気に入った。

   宮廷の古いしきたりから距離を置くために旅を続けた彼女にと
   って、ハンガリーは心の逃げ場となった。しがらみから解き放
   たれて自由を望んでいたシシーが、自由と独立を求めたハンガ
   リー人に共感を抱いたという話は、ハンガリー人が特に好むエ
   ピソードだ。

   また、彼女は家庭教師をつけて勉強し、完璧なまでにハンガリ
   ー語を使いこなした。ハンガリー語は周辺のヨーロッパ諸国と
   言語体系が異なるため、外国人にとって習得が難しいという自
   負がハンガリー人にある。現在でも英独語を話す外国人が、ハ
   ンガリー語習得に時間を割くはずがないと思う屈折した感情と、
   外国人がハンガリー語を話すことに対する尊敬の念を、同時に
   持ち併せている。出席した公式式典でハンガリー語によって挨
   拶をする帝国の皇后に、ハンガリー人が熱狂したのは想像に難
   くない。

   相思相愛の関係を保っていたシシーとハンガリー。ブダペスト
   の郊外30kmに位置するグドゥッルーの18世紀半ばに建て
   られた宮殿を気に入り、二重帝国が成立して宮殿がハンガリー
   政府の所有となってから、シシーは年に数週間をここで過ごす
   ようになった。

   1867年に二重帝国という名を勝ち得、ハンガリーはあらゆ
   る面で独自の政治遂行を許可されるが、国家にとって重要な外
   交と防衛は認められなかった。最終的に独立を与えなかった主
   体国ハプスブルクと、主体国から完全なる独立を獲得できなか
   った国は、同等の位置にはいない。皇帝・皇后の歴訪に神経を
   尖らせていたイタリアとは違い、ハンガリーはオーストリアと
   袂を分たず、あくまで共存する気であったことをシシーは感じ
   ていた。

   逃避先に歓迎されることで自分の居場所を見出し、充実するシ
   シー。支配国のお妃に、“特別に”目をかけてもらうことを歓
   喜する被支配国ハンガリー。シシーとハンガリーの蜜月には、
   絶妙なパワー・バランスが作用している。

   スロバキアやルーマニアのトランシルバニア地方、更にはクロ
   アチアの一部まで、中世はハンガリー王国であった。そのハン
   ガリーをハプスブルク帝国が吸収する。様々な民族で成り立つ
   帝国内で、それぞれの民族が“国家”という意識に目覚め、2
   0世紀初頭に崩壊した。

   スロバキアやトランシルバニア地方を“我々の同胞が数多く住
   むあの土地は、ハンガリーである。”と主張する年配者は少な
   くない。百年以上前の帝国時代の地図が、今でもハンガリーの
   小学校の壁に貼られている。“ハンガリーには、これだけの領
   土があったということを教えるだけ。昔の領土を返還せよとい
   う教育方針はない。昔の領土は返還されるべきだと子供達に教
   えるかどうかは、教師のイデオロギーによる。洗脳されてしま
   えば年齢に関係なく、若者でも大帝国時代を理想郷と思い込ん
   でしまうでしょう。”知識欲旺盛な10歳の男の子を持ち、独
   語を駆使して外資系に勤める45歳の母親。

   “崩壊して小国になった帝国を嘆き、ハンガリーをオーストリ
   アであると固執するオーストリア人もいる。トルコ政府が現ハ
   ンガリー政府に、16世紀にトルコが支配したブダペストを返
   還してほしいと主張することだってできる。地続きのヨーロッ
   パでは、昔から1メートルの国境の違いに喧嘩をし、1平方メ
   ートルの領土の奪い合いする。史実は史実として捉えて現情況
   を受け入れないと、議論など永久に終わらない。”領土の取り
   合いの歴史では、国が大にも小にもなった。独立や拡大の思惑
   と時代が常に交錯する。ハンガリーが大国として君臨していた
   時代もあった。

   先延ばしにされてきたハンガリーのEU加盟が、2004年5
   月1日と正式に決まった。同様に、ポーランド、チェコ、バル
   ト三国など、10ヶ国が新規加盟の予定である。加盟に可能な
   基準値を満たしているかどうか、EUを牽引する国に机上で測
   られる。地理的にも経済的にも、現在は中堅国に位置するハン
   ガリー。広い領土や強大な軍事力、豊かな経済力が存在した、
   自国に都合の良い時代を選択し、過去の繁栄を懐かしむ以上に
   自国力を誇示すべきではない。ハプスブルク帝国の太陽も沈ん
   だのだから。

   EU加盟の準備など、ハンガリーは今年も数々のジレンマに陥
   るだろう。先進国や、様々な面で下位に位置する国々に囲まれ
   るハンガリー人と“同じ釜の飯”を食おうとも、私には中堅国
   の立場を完全に理解しきれない。だからこそ、彼らでさえ気が
   付かないジレンマを、外側から見つめていきたいと思う。

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   ■シシーの夏の離宮の今はどうなったのか?詳細

   ■トランシルバニア地方へのハンガリー人のノスタルジー
    その123


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    ★★★★★Szagamiのぶらぶらブダペスト散歩★★★★★

   ●雪が積もったと思ったら、快晴になったりと、毎日の気温差
   が激しいブダペスト。白銀の古都が一瞬にして解けた雪で道路
   がどろどろになったかと思えば、翌朝は道路が凍ってアイスバ
   ーン。颯爽と薄手のコートで格好よく歩いていたキャリア・ウ
   ーマンらしき女性が、大事そうに抱えていた白い封筒を“どろ
   どろ”の中に落とし、しばし呆然。

   ●“007 Die another day”が封切られ、ジェームス・ボンド・
   ファンのSzagamiは観たいのですが、残念ながら字幕スーパー
   ではなく、ハンガリー語による吹き替えのみ。
   “ヌラ・ヌラ・ヘテシュ(007)”、“ア・ネーヴェム・ボンド
   (my name is Bond)”という、何とも間が抜けた吹き替えを
   聴くのかと想像すると、映画館への足が遠のいてしまいます。

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