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    ----------我が愛すべきハンガリーのジレンマ----------
            第76号 2003年1月30日
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   ●平和ボケと震災ボケ
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   海外居住者に対して日本の何が恋しいかと問えば、その多くは
   “新鮮な魚介類”や“温泉”という回答が上位を占めるだろう。
   幸運なことに、“温泉”はハンガリーに数多くある。しかし、
   どうしても慣れることができない、ある“懐かしさ”を感じた
   時は、反射的に身体が覚えている恐怖心が甦った。地震の揺れ
   である。

   しばらく前になるが、2000年10月7日深夜0時42分、
   かすかな揺れを感じた。ブダペスト市内南東部を中心にマグニ
   チュード2.1、震度4(注)、震源の深さ12.6kmの地震
   が発生した。幸いにも建物、人的被害は報告されなかった。世
   界で起こる地震の約15パーセントが集中する地震列島日本の、
   地震防災対策強化地域の一番端に住んでいた私には、何処に住
   んでも地震には常に過敏に反応する。

   3つのプレートに囲まれているハンガリー国土は、偶然にも地
   震の少ない場所に位置している。しかし、地球上で地震の起こ
   らない場所はないと言われる通り、456年から2001年ま
   での間に、ハンガリーで有感地震が5100回近く発生してい
   る。そのうち被害のあった大きな地震は、僅かに32回。地震
   の経験談をハンガリー人から聞くことは稀である。地震に対す
   る恐怖の記憶が存在しないのだ。

   陶器やガラス製品、瓶詰や割れ易い商品の在庫が無造作に積ま
   れている倉庫。本の重さで傾きかけている本棚。ハンガリーに
   来た当初は、“地震があったらどうなるるのだろうか”と、発
   生確率の低い自然現象の被害想定をする癖が抜けなかった。

   ハンガリー中央部の東西に広く伸びるバラトン湖の北東沿岸部
   と、外国企業の誘致に成功した軽工業都市、セーケシュフェヘ
   ールヴァールの間に、ベルヒダという人口5800人ほどの町
   がある。ハンガリーでも有数の地震多発地域だ。ここ40年の
   間で、ハンガリー最大震度を記録した1985年8月15日前
   後に発生した群発地震により、72の建物が完全倒壊した。

   “あの地震の話が、今日話題にあがることはない。何年か前に
   近くの村でかなり大きな地震があり、その際うちの町も大変だ
   ったと思い出したくらいだ。勿論、建物が崩れてきた時は怖か
   ったけれど。”と言うベルヒダ在住、40代の男性。全壊した
   建物は全体の3パーセント、それを含めて98パーセントの建
   物はなにがしかの被害にあった。しかし、住民の恐怖は、思い
   出と共に風化してしまったようだ。

   地震は忘れた頃にやってくるとの例えは、ハンガリーによく当
   てはまる。以前から地震多発地域と言われる村の行政対策、住
   民の地震に対する意識は、地震大国日本から見ると非常に低い。
   長期間の無関心が、一度の大地震で広範囲の被害を引き起こす。
   建物の崩壊が国中にニュースとして十数年前に流れたにもかか
   わらず、鉄筋を入れずにブロックだけを積み上げる手法で、4
   階、5階建て以上の建築物が、現在も全国各地でつくりつづけ
   られる。

   国全体で年数回の有感地震しか発生せず、西側に追いつけ追い
   越せの経済中心の意識下では、不確定の災害に対して予防策を
   熟考する余裕がないことは否定できない。近年起こった有感地
   震の殆どは、ハンガリー北東部、東部、または周辺諸国で起き
   た地震の余波だけで、経済的には余り重要視されない後進地域
   ばかりである。1956年にブダペストでも被害が出た地震以
   外、ここ数百年、中央が揺るがされることが“偶然にも”なか
   った。地震に対する恐怖心がない指導者に、地震対策を呼びか
   ける自体、無理があるのかもしれない。

   備えあれば憂いなしの如く、国が転覆する可能性を含む“災害”
   は、確率がどんなに低くとも常に考えつづけなければならない。
   実際に国内唯一の原発は、ハンガリーでは一番地震発生の確率
   の低い地域につくられている。震災の経験が防災の意識を高め
   るはずだが、直接怖い目に会わなければ5年、10年でその記
   憶は消え去る。

   日本での紛争勃発の可能性の低さが、安全とは恒久的に存在す
   るものだという危機管理の甘さと、平和ボケを引き起こしてい
   る。隣国有事の危険性に鈍重な日本の姿は、ハンガリー人の地
   震対策への意識と似通っている。ハンガリー人にとっての地震、
   日本人にとっての隣国有事が、杞憂に終わることを願うばかり
   だが、自然相手の付き合いの方が、気が遠くなるほど長く、人
   間がコントロールすることはできない。今ではなく、またいつ
   か必ずやってくる無情さがある。

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   ハンガリーでの地震定期観測を始めて今年で101年。来月1
   9日には、科学アカデミーでの学会で、ブダペスト北部60k
   mの地域についての研究発表が行われます。

   ■ハンガリー唯一の原発と環境汚染

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    ★★★★★Szagamiのぶらぶらブダペスト散歩★★★★★

   ●何時もお世話になっている、魚釣りの大好きな弁護士さんと
   の雑談。ハンガリーでは魚釣りをする時には、お金を払って許
   可証を手にいれなければ違法です。弁護士さんが釣り場にして
   いる場所では、近年網による不法密漁が多発しており、深夜、
   明かりを灯さず、軍隊の使うナイト・スコープを使って漁をす
   るとのこと。警察とのいたちごっこはエスカレート気味。

   ●最近は厳寒期も峠を越したようで、日中は5度前後で、朝晩
   に道路が凍結することも少なくなりました。凍結しても“徐行”
   しないのがハンガリー・ドライバー、うちの近くで人身事故発
   生。フロントガラスに突き刺さったように、くっきりと頭の形
   が・・荒い運転は自粛してもらいたいものです。

   ●久々にスウェーデンの組み立て家具メーカー、IKEAに行っ
   たところ、知らない間に店舗が大リニューアル。商品が以前の
   倍以上充実していました。ハンガリー人にとっては“部屋貸し
   ます、IKEAの家具付き”と言うほど付加価値があるのですが、
   スウェーデン人の友達曰く、“自国では二流品だから・・”。
   ちょっと悲しいです。

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