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    ----------我が愛すべきハンガリーのジレンマ----------
            第80号 2003年4月20日
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   ●ガチョウの嘆きとフォアグラ工場の哀愁
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   ブダペスト市民の胃袋である中央市場から、私の家は歩いて5
   分。日本食材と比べて野菜や魚の種類が圧倒的に少ないヨーロ
   ッパでは、どうしても肉中心の食事になる。日本ではまだ日常
   の食卓にあがることが少ない子牛や七面鳥、ラム肉が、肉屋の
   ショーケースの中で、キロ単位で山積みされている。薄切れや
   細切れのパック詰めの販売はさほど普及しておらず、挽き肉で
   さえ常備されているわけではない。お客に対するサービスの教
   育が行き届いていない元共産国の店員達は、数百グラムの注文
   に不愉快な態度を示し、多めの分量をはかりにかける。

   私にとって魅力的な“我が愛すべき”ハンガリーの肉食材の筆
   頭は、“フォアグラ”である。“アヒルのフォアグラ”と断り
   をつけた商品もあるが、通常は肥大させたガチョウの肝臓を指
   す。ショーケースの中の豚スペアリブや牛骨髄の横で、レンガ
   のように積まれているナチュラルタイプやトリュフ入りのフォ
   アグラの缶詰。ハンガリーの有名なお土産品として、様々な国
   の旅行者が品定めをしている。隣の鶏肉屋には、生のフォアグ
   ラが丸ごと鎮座している。

   フォアグラといえばフランス製だと思われがちだが、ハンガリ
   ーのフォアグラ生産高は世界最大だ。実は数年前まで日本に入
   るフランス製の生鮮・冷凍フォアグラは、20パーセントに満
   たなかった。フランス製の缶詰でも、アルザスなどの特定産地
   が記載されていなければ、かなりの確率でハンガリー産である。

   ハンガリー東部から東南部にかけて広がるプスタと呼ばれる平
   原は、昔から放牧や農業が盛んで、大きな産業があまり発達し
   なかった。放し飼いが必要なガチョウ飼育にプスタは最適とさ
   れ、広大な平地で食肉用に飼育されてきた。大地の強風に吹か
   れ、元気に駆けずりまわるガチョウ達の一部をフォアグラ仕様
   にした。無理やり多くの飼料をガチョウに食べさせ肝臓を大き
   くさせるためにフォアグラは大量生産には向かず、しかも重労
   働である。市場の変動によるリスクを分散するために、フォア
   グラ生産工場は複数のガチョウ飼育業者と契約する。飼育の直
   接の担い手となる飼育業には根気と体力が必須で、大抵が家族
   単位の零細企業で成り立っている。飼育業者は大工場に直接出
   荷。ガチョウは工場内で解体され、胸肉や脚と切り離されてフ
   ォアグラが取り出される。

   プスタ育ちのガチョウから採れたフォアグラの15パーセント
   程が、直接日本へ空輸される。世界各国から、生、または冷凍
   で日本へ輸出されたフォアグラ総量は、15年前は年間約12
   0トンだった。グルメブームの定着、運輸技術・空輸経路の開
   拓により、昨年は約421トンの輸出量に急増した。日本に輸
   入されるハンガリー産フォアグラのシェアが、1989年には
   イスラエルを抜いて一位になったことは殆ど知られていない。
   その後首位を譲ることなく独走を続け、5割後半から6割を維
   持している。

   その名誉ある地位とは裏腹に、日本だけではなく世界でのハン
   ガリーのフォアグラの名声が低いことに、同国最大の生産工場
   の若きマネージャーが残念そうに言葉を漏らす。“ハンガリー
   はフランスの加工工場に、生鮮フォアグラを大量に輸出してい
   ます。肥大させた肝臓の質の調査に最新コンピュータ技術を導
   入しているし、缶詰をつくる機械はフランスの工場と同じ。で
   もフォアグラといえば、やはりフランスなのですよ。”

   産業基盤のないプスタ地方で、大きな雇用創出を期待されるフ
   ォアグラ工場。しかしEU加盟に向けて、業界内では生産調整
   が行われている。最大の消費国であるフランスに営業攻勢をか
   けても、既に成熟しきった歴史ある市場は急に拡大はしない。
   前述の工場も、本来であれば現在出荷している2倍の生産能力
   があるのだが、イースターやクリスマスなど、確実な需要があ
   る時以外にはラインがフル稼動しない。

   “工場からの注文に応じて計画的に生産をしているのに、ここ
   2年ほど工場の引き取り数が減っている。ガチョウやアヒルの
   餌ビジネスの方がよっぽど儲かるよ。”約6万羽のガチョウと
   アヒルを飼育する50代の業者は眉をよせる。また、肝臓を太
   らせるための強制肥育や、放し飼いによって自生する草を食い
   尽くす危険性に対し、常に自然保護団体から攻撃されている悩
   みも抱える。

   ガチョウは勿論フォアグラだけでなく、食肉や油、ダウン羽毛
   に使用され、捨てる部分がまったくない。産業のないプスタ地
   方の生活の命綱であり、ハンガリー鶏肉産業の輸出総額の内、
   約4割を生み出す“金のガチョウ”だ。しかし、フォアグラ自
   体の売上の9割を輸出に頼っているため、命の綱は海外市場に
   握られている。日本も新しい有望な市場だが、2000年から
   フランスが輸出攻勢をかけていて、ハンガリー産の生鮮・冷凍
   フォアグラの日本でのシェアが押され気味になってきた。

   吹きさらしの大地に構える工場の情熱的な若きマネージャーの
   目は、ゆくゆくはフランスで加工されMade in Franceのラベル
   を添付されて出荷される、工場ラインで解体されたばかりの白
   く輝く肝臓に、いとおしく向けられている。確かな技術に裏打
   ちされた質に対する自信と、実際のハンガリー・フォアグラの
   世界での地位とのジレンマに胸を焦がしている。

   そして、失業率が高いプスタに位置する工場の自転車置き場に
   は、職に就けることを感謝する近郊から通う作業員達の自転車
   が並んでいる。

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   ちょっと一言:
   毎週水曜日の夜から“ミツコMicuko”なるテレビ番組が放送さ
   れており、サブタイトルが“斜めの目から見た世界”。ハンガ
   リー女性キャスターが黒髪のかつらをかぶり、出っ歯の入れ歯
   に眼鏡をかけ、著名人と滅茶苦茶なハンガリー語で談話をしま
   す。また誤った日本のイメージを肯定させるためか、ハンガリ
   ー語が解らない日本人男性を同席させています。以前ノルウェ
   ーが日の丸をデザインした生理用品の広告をしたことがありま
   したが、在オスロ日本大使館が抗議したようにブダペストの大
   使館は気概を見せてくれるのでしょうか?

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   EU加盟後に益々苦難の増えると思われる、ハンガリー料理と食
   材の現状です。

   ■負けるな、ハンガリー名物料理グヤーシュよ!

   ■生活の基本の“食”も植民化されるのか

   ■本日はイースター。前後してイースター休みのため、今週は
   観光客が激増しています。ハンガリーのイースターは、男性が
   女性に香水をかけ、そのお返しに女性は卵型のチョコレートを
   プレゼントします。以前は香水の代わりにバケツの水、お返し
   の卵も絵が描かれた本物の飾り卵でした。
   ホッロークーのイースター祭り

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    ★★★★★Szagamiのぶらぶらブダペスト散歩★★★★★

   ●数日前から冷蔵庫の調子がおかしい友人宅。イースター休み
   に入るためお店はどこもお休み。“仕事が忙しくて、パンを買
   うことすら忘れていた。この二日間何を食べたらいいのだ。”
   と、真っ青になっていました。

   ●家族全員が集まるので、大きなケーキを焼くために大量の卵
   を購入してきた友人は、直射日光のさしこむ車内に卵を置き忘
   て外出。別の友人にとっては気になって仕方がなかったらしく、
   外出から帰ってきた卵忘れ犯人に向かって、“百羽の雛鳥が車
   の中で孵っているよ。”とからかっていました。

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