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    ----------我が愛すべきハンガリーのジレンマ----------
            第81号 2003年4月30日
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   ●ゴー、トラビ、ゴー
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   “ゴー、トラビ、ゴー”。最高速度が時速100kmの、旧東
   ドイツ製乗用車トラバント。紙に樹脂をしみこませてつくられ
   たボディーは、共産時代の鉄不足に対する苦肉の策だった。2
   6馬力2サイクルエンジン搭載。購入しても手元に入るのに1
   0年待ち、修理に出せば半年待ちと、共産時代の“効率性”を
   体現した車だった。“ゴー、トラビ、ゴー”は、旧東ドイツで
   大ヒットを記録した1991年製作の映画だ。“出来の悪い子
   ほどかわいい”とばかりに持ち主の手を煩わせていたトラビと、
   当時の時代背景を回想させる様々なほのぼのとした場面が、人
   々を郷愁に浸らせた。

   国産乗用車がなかったハンガリーは、旧東ドイツからトラバン
   トを多く輸入した。ベルリンの壁が壊れて統一を果たし、未だ
   に西側との格差はあるものの、乗用車を買い替えるほどの経済
   力を急速につけた旧東ドイツ。トラバントを見掛ける機会は激
   減した。一方ハンガリーでは、トラバントはまだ現役だ。国内
   登録車両数約250万台の内、スズキ、VWと並んで約20万
   台前後が、青白い排気ガスを撒き散らしながら活躍している。
   本家ドイツ国内でのトラバント総数を遥かに上回り、ヨーロッ
   パで一番多くのトラバントが走るハンガリー。

   共産時代の象徴でもあるトラビの、愛らしい車体とおもちゃの
   様なエンジン音は、昔を懐かしむ一部のマニアや、以前からの
   愛好者によって熱狂的に支持されている。トラバントの部品を
   扱う修理工場がブダペスト市内には10ヶ所以上あり、来客が
   絶えない。しかし1991年4月に生産中止となってから“新
   車”がリリースされないため、ここでも徐々に台数を減らして
   いる。

   “どの部品をお探しですか?え、(一台)セットで?”中古車
   を取扱う販売所を訊ねると、“丸一台”を扱う中古車店はもは
   や存在せず、自動車の売買情報雑誌で売り主を捜して、直接個
   人的にやり取りするしか入手方法はないとのこと。その情報誌
   ですら、トラバントに割く紙面のスペースが減り続けている。
   価格の安さに惹かれて2年前に購入した知り合いは、自家用車
   を手に入れた喜びの直後、数々のトラブルに悩まされた。修理
   代は車両価格を優に超え、部品交換には膨大な時間を費やした。
   無意味な維持コストが予想を遥かに超えるため、新たに乗用車
   を買い換えられない者と、一握りの、趣味的に興味のある者に
   しか所有されない。その他大勢には西側モデル車により興味が
   あるのが当然で、今やトラバントは、共産主義という“古き良
   き(悪しき)”時代を懐かしむための道具となってしまった。

   完全に過去の遺物となったレーニン像や労働者を称えるモチー
   フを常設する野外展示場、“彫刻公園”。ブダペスト中心部か
   ら離れ、交通の便が悪いため、訪れる観光客は少なかった。こ
   こ数年過剰気味の広告が功を奏したのか、観光の目玉としてア
   ピール不足ではあるが、最近やっと存在自体が内外に知られる
   ようになった。反面、ベルリンのある地区に、国境検問所や旧
   東ドイツ紙幣などの旧東ドイツそのものを再現するテーマパー
   クの建設予定が、今年2月に発表された。実際に建設はまだ始
   まっていないが、大きな反響を得た。旧東ドイツ製のトラバン
   トを、展示品として並べる予定だそうだ。

   鉄のカーテンであったベルリンの壁は共産主義崩壊後、有望な
   観光資源として活用され大きな富を生み出した。苦くもあり、
   ある人々には甘い響きを持つ“共産主義”に付加価値を付けて
   商品化するしたたかさは、どの旧共産圏にも共通している。し
   かしその実力には国ごとに差があるようで、ハンガリーは共産
   アンティークを利用しきれていない。ベルリンの壁の崩壊ドラ
   マは、共産圏同志として、旧東ドイツ市民にオーストリアへの
   通過を許可したことに端を発する。オーストリアと接する国境
   と当時存在した有刺鉄線はベルリンの壁と同様に金の卵だった
   が、ハンガリーには金を孵化させる手腕がなかった。その鈍重
   さが、ハンガリーの愛しい部分なのかもしれない。

   それでもEU加盟を前にして、ブダペスト市内にはデパートが、
   郊外には大規模なショッピング・センターが乱立し、消費社会
   を謳歌する地盤を固めたように見える。旧東ドイツが戸惑いな
   がらも急速に西側に吸収されていくに従い、激減したトラバン
   ト。ハンガリーでもトラビが少しずつ消えていくのと並行に、
   ハンガリー人ののんびりとした大らかさが失われていくのだろ
   う。

   未だに大きな音をたてながらのろのろと通りを走り、日本車や
   ドイツ車に追い越されるトラビが、博物館でしか見られなくな
   る日も近いのかもしれない。

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   “ゴー、トラビ、ゴー”は92年、パート2が公開されました。
   時々ハンガリーのテレビでもパート1は放映されますが、まだ
   パート2は見たことがありません。どなたかご覧になった方が
   いらっしゃいましたら、ご感想をお教えください。

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   Micuko続報:
   日本大使館の“気概”は残念ながら感じませんでした。テレビ
   局に抗議文を送り、局の責任者と大使館にて話し合いがもたれ
   ましたが、結果的には放送続行となりました。逆にニュースで
   取り上げられたことによって、テレビ局側にはいい宣伝になっ
   たようです。まあ彼らの交渉能力は今に始まったことではあり
   ませんが・・

   またジレンマの読者の方々からも、様々な意見をいただきまし
   た。さて、ハンガリー人の意見は如何に?

   “くだらなかったので、二度と見ない。”“おもしろいけれど、
   何回も見る番組ではない。”“あの有名なレポーターが、何故
   あんなミツコのような役をするのかわからない。”日本人の
   Szagamiの気に障らないように、大半の友人達がよいしょして
   いるのはみえみえ。

   “日本大使館が何故番組制作者に文句を言わないのか、私の友
   人達の間では大騒ぎだったのよ。ついに大使館がクレームを出
   したというニュースを見て、仲間の間では大喝采だったわ。”
   目に涙をためてまで見せてくれた若い彼女のよいしょは、随分
   と演技がかっていました。

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   郷愁だけでは片付けられない問題を含んだ社会でした。

   ■共産主義の平等という裏に存在した不平等

   ■トラバント、クラッシュ!

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    ★★★★★Szagamiのぶらぶらブダペスト散歩★★★★★

   ●ついに長い冬を終え、春を飛び越えて夏の陽気になってきた
   ハンガリー。バラトン湖畔が実家の友人は、先週両親に会いに
   里帰りしていました。“湖面にはカチャ(鴨)が気持ちよさそ
   うに泳いでいたよ。”Szagamiにとって“カチャ”といえば、
   大好物“鴨の胸肉バルサミコ・ソース”。秋刀魚の開きのよう
   に開かれた生の胸肉が、バラトン湖水面に群れをなしてスイス
   イと泳いでいる光景を想像してしまいました。

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