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    ----------我が愛すべきハンガリーのジレンマ----------
            第83号 2003年6月5日
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   ●絵画の行方は
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   市内中心部からまっすぐに伸び、19世紀に建てられた邸宅や
   大使館が立ち並ぶアンドラーシュ通りの突き当たりは、英雄広
   場。ハンガリー王冠を手にする天使・ガブリエルを中央に、ハ
   ンガリー史上偉大なる14人の“英雄”の銅像が、弓を描くよ
   うに配置されていることから、この名がついた英雄広場は、1
   896年の建国千年を祝ってつくられた。

   向かって左手の建物は、ファイン・アート博物館。オーストリ
   ア・ハンガリー帝国時代の大貴族、エステルハーズィ家のコレ
   クションを買い取った芸術品を中心に、エル・グレコ、ゴヤ、
   ヴェラスケス、ルーベンスなどのスペイン絵画が展示されてい
   る。またこの博物館と双璧をなす王宮内のナショナル・ギャラ
   リーには、ハンガリー芸術家の作品が中心に展示されている。
   観光客だけでなく地元民も多く訪れるこのふたつの風格のある
   美術館が、現在ユダヤ人資産家に訴えられている。

   1867年にオーストリア(ハプスブルク)・ハンガリー二重
   帝国が誕生し、ハンガリーの支配層はユダヤ人移住を奨励した。
   ヨーロッパ各地で、市民と同等の権利を得ることが出来なかっ
   たユダヤ人は、大挙してハンガリーに集まった。政府はユダヤ
   人同化を勧めるため、彼らに高貴な称号を与えた。これがきっ
   かけで、1910年にはハンガリー総人口のうち5パーセント
   をユダヤ人が占めることとなる。ブダペストに限れば人口の約
   4分の1がユダヤ人となった。農地の37.5パーセントを所
   有、弁護士は51パーセント、医師は60パーセント、金融関
   係に至っては8割も占めるとなると、彼らがハンガリー人より
   経済的に成功しているのは明らかで、反ユダヤ感情の高まりは
   避けられなかった。

   第一次世界大戦が勃発し、高まった反ユダヤ世論がいったんは
   収まったように見えた。大戦が終結し、帝国が崩壊して民主主
   義的なハンガリーが誕生、その後一年も経たずしてユダヤ人の
   クン・ベーラが無血クーデターで共産主義国家を樹立した。農
   民に農地を再分配すると約束するが果たすことなく国有化を図
   り、この政府も短命に終わった。

   ヨーロッパでは初ともいえるファシスト体制と反ユダヤ法を築
   き、ユダヤ人にとって暗黒の歴史を生んだホルティ・ミクロー
   シュが台頭したのは、1920年から第二次世界大戦終了時ま
   で。政府は、第二次大戦の機軸側に立つ前からユダヤ人を締め
   出し、財産を奪う反ユダヤ法を次々と打ち出していった。

   それに拍車を掛けたのが、ドイツ軍の占領である。戦時中に停
   戦を模索していたためハンガリーは、ナチスの反感を買い、1
   944年3月19日、ナチスの管理下に入ることとなる。ユダ
   ヤ人に対する財産没収・略奪や暴力が、ハンガリー人によって
   一段と激しさを増したという事実は、余り知られていない。ヒ
   ムラーが、ユダヤ人殺害の中止を命令したにもかかわらず、ハ
   ンガリーでは虐殺が続いた。5月に入り、地方からは3ヶ月間
   で43万7402人のユダヤ人が、147両の列車に詰めこま
   れてアウシュビッツへ移送された。ユダヤ人のハンガリーから
   の排除、つまりユダヤ人“撲滅サービス”に、現在の通貨価値
   で2−4兆円にもなる25億ライヒを、政府は支払った。

   ユダヤ人が、ハンガリーで築いた自由と経済活動によって購入
   した美術品・金塊等の相当数は、ナチスと同盟国によって略奪
   された。大戦末期の12月にスイスの銀行へ発ったブダペスト
   からの列車は、46両全てが略奪品で満載だった。ハンガリー
   政府も、列車には載っていない一部の略奪品を密かに抑えてい
   た。

   長く続いた共産党時代に、略奪品の返還を要求せず沈黙を守っ
   ていた多くの遺族たちは、1989年の政変後、国有として接
   収された土地や財産の所有権を求め、多くの裁判を起こした。
   1999年10月、個人ではハンガリー最大の芸術品収集家だ
   った、ヘルツェク男爵の孫娘であるニーレンベルク・マルタが、
   英雄広場のナショナル・ギャラリーとファイン・アート博物館
   を相手取り、エル・グレコやカーノ、クールベやハンガリー画
   家ムンカーチなどの作品12点の返還を求めて提訴した。

   男爵家は終戦前、ナチスと矢十字党(ハンガリーナチス)に、
   2500点にもなるコレクション全てを奪われたのだった。返
   還を求めている一部分でしかない12点の評価額は、サザビー
   によると14億3千万フォリント(約8億2千万円)になる。
   裁判中に1点は返還された。しかし“家族が非合法に国を去っ
   たため”などの不条理な理由を論争に持ち出し、原告の78歳
   という高齢を理由に、国側は判決の引き伸ばしを図っている。
   この裁判が始まってから、両博物館では対象の絵画を公開しな
   くなった。

   国が略奪した美術品等は、ナチスから開放した旧ソ連によって
   更に略奪されたが、政府は別のところで返還を求め、現在まで
   に8千点の奪回に成功した。しかしこれらの美術品は、本来の
   帰るべき持ち主の元に未だ届いていない。

   同様に政府による略奪歴のあるチェコ、オーストリア、フラン
   スでは、元の所有者に返還するのが最近の時流となっている。
   ユダヤ人団体からの圧力によって、国際的非難が高まっている
   ことを考えると、仮にこの裁判で元所有者への返還に否の判決
   が下れば、ハンガリー政府は旧ソ連からの返還の機会を失うだ
   ろう。

   ホロコーストで死んだ約60万人のハンガリー・ユダヤ人の遺
   族に補償を払う予定だと、今年3月に政府が発表した。補償は、
   ホロコーストが始まる前、反ユダヤの法の下で迫害されたユダ
   ヤ人にも適用され、絶滅収容所や強制労働で殺されたユダヤ人
   の未亡人、子供あるいは親に、40万フォリント(約22万8
   千円)が支払われる予定である。2000年の前政権時では、
   僅か120ユーロ(1万6800円)の補償計画ですら裁判所
   に破棄された後だけに、被害者の期待は膨らむ。

   “ホロコーストは致命的なハンガリーの悲劇だった。60万の
   ハンガリー・ユダヤ人の虐殺は、恐ろしく酷く、前代未開の行
   為だった。それは、私たちの祖父母の身に、私たちの親の身に、
   そして私たちの身に、起こったことだった。過去と折合いをつ
   けることが、私たち共通の責任だ。”現ハンガリー・メジェッ
   シ首相は、4月に行われた全国ホロコースト戦没者追悼記念日
   にて、上記の声明文を発表した。

   戦争被害の賠償責任全てを追及し始めたら、国が成り立たなく
   なる可能性があるほどの経済的インパクトを与えるため、現在
   の国民が過去の罪をどこまで贖うかを問うのは非常に繊細な議
   題である。独立した個が尊重される時代に、親の世代の罪を子
   が償うというようなことは、成り立たせることすら難しい。ユ
   ダヤ人が集合体として受けた被害・損害はハンガリーという集
   合体が償わなければならないだろうが、その時代を知らない子
   孫が背負うには、その荷は重すぎる。逆にハンガリー人を追い
   込むことで、反ユダヤ主義の台頭を許すような歴史の繰り返し
   が始まることが、懸念される。

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   旧ヘルツェク男爵邸が売りに出されています。駐車スペース2
   5台分、床面積3000平方m、一体どれ位するのでしょうか?

   直接ユダヤ人と接する機会が極稀な日本、書店にユダヤ人の商
   法や、陰謀説が数多く並べられている光景は、ちょっと不思議
   です。実際に接することで、垣間見た彼らの姿とは?

   ■人のふり見て我がふり直せ

   ハンガリー国籍でありながら、ユダヤ人であったがためにアウ
   シュビッツ送りになり、生還したノーベル賞受賞作家

   ■後からやってきた運命

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    ★★★★★Szagamiのぶらぶらブダペスト散歩★★★★★

   ●いちごの季節になりました。キロ400フォリント(約23
   0円)の魅力に負けて、1キロも買ってしまうと、家に到着す
   る頃には、袋の下にあるいちごがジュースと化しています。市
   場ではおじいちゃんやおばあちゃんが、いちごがつぶれないよ
   う持参のタッパーに入れてもらっています。

   ●連日30度を超す暑さにバテ気味。反対に例外なくハンガリ
   ー人の友達は、この天気を待っていたと喜び勇んでいます。で
   も店もオフィスも仕事をしているハンガリー人が、いつもより
   効率が落ちているのは、バカンスを思い浮かべ、心此処にあら
   ずだからのようです。

   ●大学の卒業試験や進級試験が行われる6月、居間からある大
   学の教室が見下ろせるのですが、珍しくスーツに身を包んだ学
   生が神妙な趣で面接を受けています。悪さを考えればうちから
   横断幕でも張って、大胆なカンニングもできるななどと思った
   りして。

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