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    ----------我が愛すべきハンガリーのジレンマ----------
            第90号 2004年10月06日
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   秋深まるブダペスト、10月に入ってからテラスが片付けられて
   しまったレストランやカフェテリアが増えてきました。日によっ
   てはまだまだテラスで食事が楽しめる天気と気温、ちょっと寂し
   いですね。

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   ●オリンピック、宴の後の代償と期待
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   今年はハンガリーだけでなく、全体的にヨーロッパは冷夏であ
   った。それでも夏の暑い陽射しが肌を焦がすような日は、街中
   のレストランやカフェテリア併設のテラスが満席になる。今年
   も各テラスがテレビや大きなスクリーンを設置し始めた。観光
   客や地元民が大きなビールジョッキを片手に、6月に行われた
   欧州サッカー大会、毎夏恒例のF1やアテネ・オリンピックが映
   し出される画面に歓声を挙げる。ハンガリーのオリンピック中
   継で日本代表選手がクローズアップされることは稀なので、目
   を凝らして画面の隅に移る日本選手を捜してしまう。そのため、
   ハンマー投げ種目での室伏選手とハンガリー人アヌシュ選手と
   の一騎打ちの模様が放映された時は、スクリーンに釘付けにな
   ってしまった。室伏選手の最終第六投目、ハンガリー人の解説
   者が“あららら・・”と、アヌシュ選手の記録が抜かれてしま
   ったような落胆の声をあげる。計測によると1位の記録に僅か
   28cm届かず、この瞬間にアヌシュ選手の金メダルが決定した。
   どちらの国も応援したい私にとって、表彰台にハンガリー人と
   日本人が並んで立つことは感慨深いことだった。

   しかし、後日アヌシュ選手はドーピングの疑いをかけられ、再
   検査に応じなかった様子が日本で過熱気味に報道された。彼の
   金メダルが剥奪されれば、室伏選手が繰り上がって1位になる。
   そしてアヌシュ選手と同じコーチを持つ円盤投げのファゼカシ
   ュ選手の金メダルもドーピングで剥奪。今回のオリンピックの
   ドーピング違反で22人が記録を剥奪された選手の内、ハンガリ
   ー人が5人を占めてしまった。一般の日本人にとってはまだ地味
   な存在のハンガリーが、悪い意味で知れ渡ってしまったことに
   やりきれなさを感じた。

   旧共産時代には東欧諸国での国ぐるみのドーピング行為が一般
   的に認識されていたが、ハンガリーは例外的に、1968年ドーピ
   ング検査がオリンピックに導入されてから一人も違反者を出し
   ていなかった。しかし、スポーツ紙のアンケート調査によると、
   スポーツ選手は何がしかのドーピング行為を行っているだろう
   とハンガリー人の半分以上が思っている。“狙い撃ち”と検査
   機関(WADA)をあからさまに批判する人もいたが、地元ギリシ
   アと同数の違反者が出たのは事実だ。多数の違反者に国民は敏
   感に反応した。勿論違反者のいない歴史が、ドーピングとハン
   ガリーが無縁であったことを証明しているわけではない。だが
   過去の東ドイツのように国が関与しているというよりは、個人
   的な理由で薬に手を出している者が多いと考えられる。

   プロの無いスポーツ選手が、報奨金とを引き換えにドーピング
   に手を延ばしたとしても不思議はない。今回のオリンピックで
   は、カヤックで金メダルを獲った選手には最高の1850万フォリ
   ント(約1030万円)、銅メダルを取った選手には500万フォリ
   ント(約285万円)が国からの報奨金として贈られた。ホワイト
   カラーの平均年収が200万フォリント(約115万円)に満たない
   国では非常に魅力的な金額だ。人気の高いスポーツであるサッ
   カーでさえ、国内プロリーグのトップ選手が5500万フォリント、
   中間層で1000万から2000万フォリントの年収である。

   しかしそれにも増してオリンピック金メダルは、引退後の安定
   したコーチ生活を手に入れるための最高の箔付けとなる。ドー
   ピングに価値を見出す者は、選手生命を失う危険性とを天秤に
   かけた時に判断力が鈍るのだろう。

   室伏選手の金メダルがかかっていたこともあって、日本でのア
   ヌシュ選手のドーピングに関する報道はここハンガリーより熱
   心であった。事後、不誠実な対応をとったアヌシュ選手をハン
   ガリーという国の評価と重ねた人もいただろう。日本人選手と
   ハンガリー人選手が接戦を繰り広げたことにより、異国の地に
   おいて日本人選手の活躍を満喫できた。しかし個人的動機が原
   因と思われる数人の不正によって、これからハンガリー人スポ
   ーツ選手に注がれる目が冷めたものになってしまったことは残
   念としか言いようがない。国際大会の舞台に上がるスポーツ選
   手は、その国を代表する広告塔でもあるのだから。

   200m平泳ぎで北島選手を僅かなところまで追い詰めたハンガリ
   ー人水泳選手が、この暗い気持ちを多いに明るくしてくれた。
   銀メダルを獲得したジュルタ・ダーニエル選手は、オリンピッ
   ク後、ブダペストの高校へ進学したばかりの15歳。彼はハンガ
   リーで最年少メダル獲得者の記録をつくった。4人家族の長男
   として育ったジュルタ選手は、オリンピックでは予選通過とい
   う彼自身の控えめな目標を軽く超えて銀メダルを手に入れた。
   注目されていなかったので無駄な重圧が無かったのか、自然に
   力を出し切れたオリンピックだった。マークされる存在になっ
   た次の世界大会のモントリオール、更には次期オリンピック北
   京大会では、勇敢に“金メダルを目指す”と明言した。

   アテネ大会においてハンガリーは金8銀6銅3とメダルを獲得し、
   総合数で13位となった。人口対比の獲得率では歴史的に常に上
   位にいる。水泳、水球、カヤック、フェンシングなどのお家芸
   と言われる種目の選手は層が厚く、今大会でも活躍が目立った。
   ブダペストのドナウ川脇の小さな公園には、第一回オリンピッ
   クからメダルを獲得してきた選手たちの名が碑に刻み込まれて
   いる。先人たちは今回の事件をどのような想いで眺めたことだ
   ろう。これから伸び盛りの選手共々、先人に恥じないよう、ま
   たドーピング汚染のスキャンダルを払拭すべく、良いニュース
   でハンガリー人選手が日本のみならず世界で注目されるように
   なることを切に願う。

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   日本では終わった感のあるニュースですが、先週、アヌシュ選
   手が記者会見を開いたので私的ジレンマを書いてみました。そ
   れにしてもジュルタ選手の予選での活躍には驚きでした。報奨
   金800万フォリントの使い道についての意地悪な質問に、“お小
   遣い”はまだ値上がっていないと答える15歳、次回はどれくら
   い大物になるのでしょうか?

   ●数年振りに、ユネスコ世界遺産に指定されているパンノンハ
   ルマを訪れました。いろいろ様変わりをした修道院についてWeb
   で更新しましたので、是非ご覧ください。詳細

   ここ数年訪れなかったパンノンハルマの変わり様、世界遺産に
   指定されているホッローコー村へのジレンマと似たような感情
   に襲われました。

   ■世界遺産の看板を維持するために真の文化の心が消滅する

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   昨年11月に出版された弊著“旅の指さし会話帳・ハンガリー”
   の重版が決まりました。これも皆様のおかげです。ありがとう
   ございます。また引き続き応援していただけますよう、宜しく
   お願いいたします。また全国の大きな書店でも取り扱っており
   ますが、此方のアドレスからもご購入することができますので、
   ご興味のある方はアクセスされてみて下さい。


       ★★★★★Szagamiのぶらぶら散歩★★★★★

   ●9月はハンガリー風邪に苦しめられていたSzagami。ブダペス
   トのワインフェスティバルだけははずせず、無理をして1日だ
   け足を運びました。その甲斐あってか、ヴィッラーニの蔵主、
   ティッファーン氏(ジョルティ)と再会。ご自慢のワインをた
   くさん飲ませていただき、楽しい会話でちょっとだけ風邪が良
   くなった?ヴィッラーニ村詳細

   ●地下鉄2番線の工事が8月末に終わったと思ったら、街中では
   いたるところで工事工事工事・・冬になって凍結すれば工事が
   できないのはわかりますが、お散歩の邪魔にならない程度に分
   散できませんかね?

   ●満期まで勤められなかった前首相メジェッシの後続は、ジュ
   ルチャーニ・フェレンツ氏となりました。43歳と若く、体制崩
   壊と共にビジネスで成功。長者番付に乗るほどになりました。
   それにしてもビル・ゲイツにそっくり。写真

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