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    ----------我が愛すべきハンガリーのジレンマ----------
            第92号 2004年12月03日
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   ●常用食との付き合い方
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   ハンガリー土産の代表格といえば赤い粉末パプリカ。民俗模様
   の白と赤の生地がプリントされた袋は、ちょっとした贈答用と
   しても見栄えが良い。日本人観光客が“取り敢えず配り用のお
   土産”に購入するのに最適だ。日本では天然着色料として食品
   や化粧品に大量に使われているが、家庭料理で多用される香辛
   料ではないために賞味期限が近付いても使い切ることは難しい。
   紅い粉が真朱(しんしゅ)に退色してしまう。勿論ハンガリー
   では名物料理にだけではなく、味付けのワンポイントとしても
   欠かせない。レストランのテーブルには塩・胡椒と並び、パプ
   リカ粉が常備されている。

   元々熱帯地方原産の植物であるパプリカは、コロンブスの新大
   陸発見後にトマトなどと共にヨーロッパへ渡ってきた。ハンガ
   リーには16世紀のトルコによる侵略時、若しくはトルコからの
   迫害を避けるために北上してきたスラブ系にもたらされたとさ
   れる。17世紀半ば、ある貴族の妻が最初に大規模栽培をしたこ
   とからハンガリー全土にパプリカ栽培が広がっていった。それ
   から約2世紀の年月を経て、古来からのハンガリー料理の味に
   パプリカが馴染み、それ以降はどの料理にも必須の香辛料とな
   った。

   日本人と醤油の関係と同様、ハンガリー人の食卓になくてはな
   らないそのパプリカに、発癌性物質が混入されていたと10月に
   発表された。しかもそれがサリンの80分の1と言われる、自然
   界では最高の毒性を持つ物質アフラトキシンであった。熱帯地
   方にしかできないある特定の黴が生成するアフラトキシンが、
   あるメーカーのパプリカ粉から基準値の10-15倍の濃度で検出
   された。このニュースによって、街のスーパーやレストランに
   激震が走ったことは言うまでもない。即座に全面的に販売が禁
   止され、消費者保護の検査官による2千以上もの小売店への抜
   き打ち検査が徹底的に行われた。その後、公衆衛生局の商品の
   個別検査により、現在は販売が解禁された。しかし各種メーカ
   ーの種類豊富なパプリカ粉が大きく占領していたスーパーの棚
   には、“当店では衛生局の検査済みメーカーのみのパプリカを
   販売しております”という断書きがあるものの、陳列スペース
   は明らかに狭められている。

   公衆衛生局の調査で、あるメーカーがペルーやブラジルから密
   輸した汚染パプリカ粉を不正に混入させていたことが明らかに
   なった。基準値を大幅に上回るアフラトキシンが検出されたが、
   実際にはハンガリー人の年間消費量に当たる約500gを毎週摂取
   し続けなければ身体に影響が出ない量であった。だが、パプリ
   カ粉は産業保護のために海外からの個人持込さえ制限されてお
   り、その恩恵を受けながら密輸や混入を行った一部企業の罪は
   重い。

   南米からヨーロッパへもたらされたパプリカは、当初、ヨーロ
   ッパ諸国では余り広まらなかった。ドナウ川やティサ川などの
   大河に育まれた豊かな土壌と保水性のあるカロチャやセゲド、
   センテシュなどで生育された上質なハンガリー産が、他諸国の
   人々の心をとらえ、ハンガリー語であるパプリカが各言語で普
   通名詞にまで格上げされた。これから解明が待たれる密輸経路
   ・手段、汚染が疑われている既に輸出されてしまった5300tも
   の粉パプリカの行方。消費者を裏切った一部企業は、カロチャ、
   セゲドなどの一大生産地に泥を塗り、延いてはハンガリーのパ
   プリカ・ブランドの名を貶めてしまった。

   今回の発癌性物質検出のニュースは、消費者に対する一部企業
   の不誠実な問題だけでは片付けられない食の安全性を考えさせ
   られる事件だった。“パプリカをつくってくれる知り合いがい
   たから、パプリカを持参して挽いてもらったの。500gあれば一
   年分は足りるから。でも息子や友達にそのことを話したら、皆
   に頼まれてしまったわ。”とは隣人のおばあさん。しかし、全
   ての消費者が瞬時に危険を回避できる機会を手に入れられる訳
   ではない。

   パプリカのように“国民食”として親しまれていないために大
   きく報道はされなかったが、安全性が危機に晒された野菜は他
   にもある。使用禁止リストに列せられる農薬が検出され、輸出
   先フィンランドから返送された白菜。基準値の30倍以上の残留
   農薬があるとグリーンピースに指摘されたレタス。供給される
   食品のみを黙って手に取るだけでなく、価格に惑わされずに賢
   く選択しようにも、情報が正当に公開されなければ予防策すら
   ない。郊外型スーパーの拡充により、多くの食材や加工品が国
   境を越えるようになった。選択の幅は驚くほど広がったが、一
   消費者が口に入る全ての商品をチェックすることはできない。

   それでも、賢い消費者による静かな反乱が徐々にではあるが起
   こり始めている。無農薬・有機栽培の野菜・果物、自然飼料の
   みで飼育された家畜の肉・加工製品を扱う店や青空市場を目に
   する機会が増えてきた。通常より少々値は張るが、どこもブダ
   ペスト市民で賑わっている。前近代的な自家製食料品の直接売
   買による取引から、資本主義的なハイパーマーケットのような
   集約売買に移行した期間は短かった。しかしこれからの時代、
   食の安全を手に入れるためには“効率性”に逆行する意識が必
   要なのかもしれない。

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   汚染パプリカを混入したのはこの会社です:
   Kalocsai Fuszerpaprika Rt
   Szegedi Fuszerpaprika Rt
   Sukosdi Hazi Pirospaprika Kft

   スペインとブラジルの農場から採れた輸入パプリカから同様の
   毒素が検出された8月の出来事が、この事件の伏線にあります。
   1-2割安い商品に手を出したことのリスクとしては大きな代償
   でした。勿論、このパプリカは輸出先に返却されました。

   生命維持の基本中の基本である食の安全性が、今の世の中、何
   処の国でも怪しくなってきました。スローフードも“商売”に
   なる時代、あるべき姿の食を見直してもいいのでは?

   ■魚の味は記憶の彼方へ?

   ■負けるな、ハンガリー名物料理グヤーシュよ!

   ■生活の基本の“食”も植民化されるのか

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   弊著“旅の指さし会話帳・ハンガリー”の重版決定

   全国の大きな書店でも取り扱っておりますが、下記のアドレス
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       ★★★★★Szagamiのぶらぶら散歩★★★★★

   ●11月最終土曜日からクリスマスの出店が開かれた街の中央広
   場ヴォロシュマルティ。ツリーやブースの飾りつけの電球には
   きちんと明かりが灯っているのに、広場からのびる目抜き通り
   ヴァーツィの飾りつけにはまだ電気が点きません。電気工のお
   じさん達がクレーンに乗って設置していたのは、もう一週間以
   上前なのに。

   ●Szagamiお気に入りの小麦粉のお菓子クルトシュカラーチ。
   仕上げにはお好みバニラ、シナモンや粉末チョコをかけること
   もできます。毎年通うモハーチの冬のなまはげ祭りで始めてお
   目にかかったKiraly (King)王様サイズが、遂にブダペストで
   も登場。目の前で炭火で焼いてくれます。連日しとしと降る雨
   の中、長蛇の列で大人気。さすが王様!

   ●近所に住むおばあちゃんには18歳になる双子のお孫さんがい
   ます。クリスマスのプレゼントは現金にすることに。“今は世
   の中物で溢れていて、いらない物をあげてそっぽを向けられる
   より、好きな物を買ってもらった方がいいでしょう。”78歳な
   のに現実的。一年で一番楽しいクリスマスシーズンが今から待
   ちきれないようです。

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