ゲメンツ Gemenc
   2005.Oct.

汽車
林の中を走る汽車
 

大型野生動物と遭遇?

 ハンガリー国内に10ヶ所点在する国立公園のひとつ。ハンガリーワインを代表するトカイに続き、赤ワインと言えば“雄牛の血”ビカヴェールの元祖発祥地であるセクサールドSzekszárd近くのゲメンツから、トロッコ電車で自然公園内を縦断。野鳥と鹿や猪が生息する公園は一見単なる林の装いですが、思いもよらない出会いがあるかもしれません。

交通:

ブダペスト南駅より電車で84km、シャールボガールドSárbogárdで乗換え。セクサールド Szekszárdまで65km(合計約2時間半)。そこからバスでバーラニフォクBáranyfok行きに乗り、約7、8分(必ず運転手に確認)。ブダペストのネープリゲトNépligetからセクサールド直行のバスがあるが、ミニ列車の出発に間に合わない場合があるので要確認。またバスでのセクサールドまでの所要時間は約3時間。

その昔は水の国、ハンガリー

ハンガリー人から見れば山、日本人から見れば丘。山脈が少なく、プスタと呼ばれる大平原がハンガリー自然の代表選手ですが、実はその昔、雨季になれば現在の国土の4分の1が湿地帯・氾濫原に覆われてしまうほどの水の国でした。19世紀にブダペストの鎖橋などを自費で建設したセーチェニ・イシュトヴァーン伯爵の近代化政策により、大規模な治水工事が行われたために、現在の“ドライ”な土地が増えました。堤防の建設や治水工事は、人間社会にとってドナウ川氾濫の減少という恩恵をもたらしましたが、野鳥や自然動物にとっては災難そのもの。彼らの住処を狭める結果となってしまいました。しかし湿地帯と共に野鳥の宝庫と知られるドゥナ・ドラーヴァ国立公園のゲメンツでミニ列車に乗れば、現在でもその自然を垣間見ることができます。

 電車、若しくはバスでセクサールドへ到着したら、駅前のバスターミナルでバーラニフォク行きのバスを確認しましょう。乗客は地元のおばちゃんやおじちゃん、釣竿を引っさげた爺さん達が席を陣取っています。運転手にバーラニフォク降車の旨を伝えて、旅行者だということをアピールしましょう。ただひたすら何もない一本道を、運転手はバスの車輪を転がすだけ。停留所に気付かず通り過ぎてしまいます。10分もしない間に小さな“Báranyfok”の看板が、生い茂った木々の間から辛うじて見えるところで下車。看板の矢印に従ってまっすぐな横道を歩けば2、3百メートルでロッジの集落に到着。そこのお土産物屋さんのおばちゃんからチケットを購入します。そうこうしていると大型バスが2台到着して、子供達がぞろぞろと降りてきました。ここは子供の遠足としても有名な場所で、近くの都会っ子達が自然の雰囲気をちょっと楽しむのにはちょうどいい場所となっています。

 ロッジの集落から林の細道を5分ほど歩くと、遊園地内を走り抜けるような頑丈な緑色の汽車が見物客をお待ちかね。遠足の子供達とお母さん達は大喜び、さぁ、乗り合いにて出発です。林の中に入り組んでいるドナウ川の支流。普段は大都会ブダペストを二分する情緒溢れるドナウ川に野生の土地で遭遇するなんて、などと感慨にふけっている間にも、時々蒲の穂が揺れる広い泥地帯を望みながら汽車は走り続けます。そんな中、体高1m程のサギが20羽ほど群れをなして小魚をついばんでいる様子に、同乗の子供達は興奮気味。野生の動物達の邪魔をしないよう、“しー”とやられていました。50分ほど走ると目の前にドナウ川の本流が立ち塞がり、悠久の大河の貫禄を見せてくれます。本日は、最終終着駅ポルボイPörböly 行きは運行しておらず、トロッコ到着場所ゲメンツ-ドゥナパルトGemenc-Dunapartで折り返しでした。15分休憩の時間を利用して近くを散策。林の奥へ足を進めると、水溜りにはおびただしい蛙たち。自然保護区として進入禁止の柵の向こうには、背の高い草が生い茂り、野生の香り、水鳥の気配を感じました。

入り組んだドナウの支流と泥地帯
 

 折り返しの汽車に乗り込み出発、ぼーっと景色を眺めていると、汽車の音にまぎれて何かの足音が。その瞬間汽車は急停止、線路を悠々と横切る4頭の立派な角を持つ鹿が。檻のないサファリパークに、子供達は勿論、他の乗客もあまりの突然さに声が出ません。本日のベストショットは間に合いませんでした。出発点に到着し、遠足組みはバスに乗って帰途に着くのでしょうが、Szagamiは林の中を散策することに。汽車から見えないところに足を進めるとすぐに人気がなくなり、五感全てを聴覚にすると、鳥のさえずりと遠くで聞こえる鹿の声が野生の空気と入り混じって肌から体内に浸透してきました。さらにその先には獣の臭いが。約30m先で草を食む鹿の姿が。どうやら彼らの生活圏に足を踏み入れた模様。

 この自然公園は高校生や大学生の自然観察の授業の場としても使われているようで、ノートを片手にガイドの説明に聞き入る団体さんに出会いました。林の幹線道(勿論、未舗装)では時折人を乗せた馬車も見かけました。ちょっと小道に入れば大型動物との遭遇にも期待大、なかなか侮れません。222線路から離れた泥地の約100m先にサギの一群を発見、素の人間への警戒心が強く、近付くことは無理でした。その泥地の周りには黄色い花を咲かせたキショウブ(ハナショウブの一種)が見事なまでに一面に広がっていて、幻想的な光景を描いています。もしこれが朝靄という額縁に包まれた光景だったら?浮世離れした景観に想いを馳せるSzagamiなのでした。


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