街で見かけたちょっとコムニズムシュ


ここで書かれるコムニズムシュの定義:

★欧米諸国だけでなく、資本主義を導入している国の人と思考回路が全く違う人々

★資本主義の人間からはとても信じられないような事象

★資本主義にはありえない共産時代の遺物

 資本主義を全て肯定するわけではありません。ちょっと格好つけて社会比較学と呼んでください。これから私の周りで起こったこと、もしくは直接の知り合いが体験したことを少しずつご案内していこうと思います。

Vol.06仁義なきコムニズムシュとの戦い:その2

 立場を利用して難癖を付けたり、お金を要求したりすることは万国共通の裏事情。日本でも今も昔も相変わらず新聞を賑わせているはず。収賄・贈賄・裏口入学・使途不明金・・・でももっと古い体質にどっぷり漬かっているコムニズムシュ残党達の活躍が、一般市民の私の周り辺で極日常的に行われているとやはり面食らってしまいます。

 私の直接の知り合いがお役所関係という一番おいしい立場に支払った賄賂の額は、高額から順番に1200万フォリント(98年換算レート660万円)、20万フォリント(99年換算レート10万円)、1万フォリント(01年換算レート4300円)。

 日本人の感覚からすれば払う方にも問題があると思いますよね?勿論悪い事を見逃してもらうために進んでいくらかの額を握ってもらうこともありますが、さすがハンガリーは元コムニストの国。知り合いが支払った上記の額はお役所に対する正式書類を完全に終わらせるための“必要経費”と考えられるでしょう。

ケースA/不動産/1200万フォリントの場合:

 “この物件の登記簿を見ると誰が所有者か不明ですね。”弁護士に指摘されてもあまり驚かなかった彼。売主がいるからには登記簿上の所有者が存在するのが日本の常識。でも日本の非常識がハンガリーの常識。そうでないとこのコーナーが成り立ちません。

 この国では1989年の政変時のどさくさにまぎれて公的に所有者が明確でない不動産が多数“誕生”したのです。正式に不動産を売買すると国土庁に10%の税金を支払うことになり、その10%を削るために個人や企業や政府関係までも書類なしで売買を進めました。気がついてみるとこの物件は正式には誰のもの?という家やアパートや店舗だらけ。そして共産時代の残党はそれを最大限利用するためにあえて黙認してきました。

 “利用”とは?知人がその物件の書類を“公的に”そろえるために支払った袖の下1200万フォリントで潤ったのがお役所に勤めている共産時代の残党達。まさか最近入社したようなお役所の若い担当者がおこぼれに与れるわけありませんから。

ケースB/建築/20万フォリントの場合:

 お役所の“増改築の手引き”をもとに家を改築した家族。なんと完成間近になって違法建築の烙印を押されてしまいました。20万フォリントは家を改築することができるクラスの人の限度額でしょうか。

ケースC/許可証/1万フォリントの場合:

 最初はこちらが耳を疑いました。1万フォリントなんて逆に相手が“バカにするな”と言って怒ってしまうような金額。仕事に必要なある許可を申請したのに、なかなか担当者が許可を下ろしてくれない。その担当者が提示した書類全てを揃えたので、不備はないはずなのに“許可はやらん!”の一点張り。

 私がそれとなく袖の下のことを匂わせたら訝しそうな顔をした彼。翌日1万フォリントで再トライ。その24時間後に彼の手には燦然と輝く許可証が。担当者はトップクラスの残党ではなかったので、このように少しの額でも立場を利用しておこづかいを貯めていくと複雑な気持ちで感心してしまいました。

 私は幸か不幸かこのような状況になったことはありませんが、いつ何時その標的にされることか・・・

 そのためには立場を利用してくる彼らを押さえつける更なる権力を持った人間とコネをつくる矛盾がまだまだ続くのであります。


vol.05仁義なきコムニズムシュとの戦い:その1

 こちらも久々の復活。今回レストランを開店するにあたりかなりのネタを仕入れてきましたが、いくつかはあまりにも強烈なので紹介できない程です。ハンガリーを旅行するには笑い話ですが、住んでいる方にはゾッとする第一話。

 開店準備のため色々な買い物をコックと一緒にしたその帰り道、普段から少々運転の荒い彼の車が前の車を追い越した目の前に警察官が検問をしていて、見事に手招きされてしまいました。

 今日はオープン2日前で一分も無駄にできないのにこんな時に限ってマーフィーの法則。ドライバーのコックは免許所、私にもパスポート掲示の要請。

 “この滞在許可証のスタンプは期限が切れている!”とのことだがそれは当然のこと。ちょうど新しい滞在許可を申請中で仮の許可書が出来たから明日にでも弁護士の所へ取りに行こうと思っていた矢先のことでした。

 “ハンガリー語は分かりません”でコックに英語で喋って切り抜けようとしましたが、態度が犯罪者を扱うようになってきたので思わずハンガリー語で“警察を騙ってパスポートを見せろとかいって、金をとる偽者がいるからおまえらもそうだろ。こっちはきちんとパスポート見せたのだから、そっちの身分証明書を見せなさい。”と言ったら顔が赤くなる赤くなる。終いには署までちょっと来てもらおうと言うことになりました。

 こっちはそんなに暇でなく、つき合っていられるわけもないのにいきなり手錠でがちゃり。

 弁護士を呼ぶ電話もかけさせず、権利も述べずに人権丸無視。

 与太者の居る留置所に入れられました。

 しかしよく見れば単なる子供2人(14歳)。

 話を聞けば35度以上の日に8時間以上も水無しで入れられているとのこと。

 何をしたかは知らないがこのままでは脱水症状で死ぬよこの人たち。

 私は弁護士の手配で無事1時間半後に出れましたが、きちんと税金を納め、滞在許可証を正式に取得している外国人に対し、日本へ突っ返してやるなどと現場の警察官が悪態をついたりしているようでは、まだまだ人権なんてものは羽根のように軽いのでしょう。

 コムニズムシュ時代の秘密警察ÁVOアーヴォは、きっとこんなのだったのだろうと想像したのでした。


vol.04ものほんの怖さは遠い昔:その2

 Mさんもまた50代後半の女性。

 コムニズムシュ時代初中期にあたる、1950年代終わりから60年代初めのことです。頭脳明晰なMさんの通った小中学校の創立時から始めてオール7(最高評点が7)を記録し、美術、音楽、スポーツ全てに優秀な成績を収めました。そしてブダペストでも有数な高校に当然のごとく進学しました。言わば日本の健康優良児だったわけです。その高校のレベルがどれほどすごかったかが、Mさんの同級生達に会ったときに判りました。医師、弁護士は当たり前、不動産長者、アメリカでも有名な生化学者などなど。

 Mさんも昔は電気機械技師だったのですが1989年の政変後工場は閉鎖されてしまい、今はそれとは関係ない仕事をしています。

 さて、今のMさんの実力から言っても、電気機械技師止まりの能力しかなかったと思えません。

 ある日こんな話を聞いて納得しました。

 実はMさん、それほど優秀な人材だったのにもかかわらず大学には行かず専門学校を卒業したのでした。正確には、大学の試験さえ受けさせてもらえなかったのです。Mさんのお父さんも理不尽な理由で警察に連行され、“犯罪歴”を付けられたことがMさんの大学受験剥奪に結びついたのです。

 そして専門学校卒業後は能力に関係なく、また適材適所という言葉と程遠い人材配置に悩まされたのでした。その人材配置は例えば単に共産党員と言うだけで田舎の農家がいきなり工場長に抜擢されたり、リベラルな知識人が農場に送られたりしたそうです。“幸運にも”数カ月だけMさんも農場から帰ってくることが出来ました。

 共産主義崩壊後、西側諸国との経済格差が目立っておりますが、共産主義のシステムが資本主義より劣っていたと実証したと言うよりは、共産主義の扱いを間違えたことに起因するのではと言えるでしょう。


vol.03ものほんの怖さは遠い昔:その1

 第3弾となりました連載コムニズムシュ、今までの話はコムニズムシュの現代の香り。

 本物は1989年以前のこと?いいえ、もっともっと前のことです。日本でも戦争体験を伝えることができる年配者が少なくなったのと同様、ハンガリーでも本当のコムニズムシュを知っている人が少なくなりました。

 そんな貴重な経験談を紹介します。

 Kさんは50代後半の女性。55歳定年がハンガリーでは通例ですがまだまだ現役で働いています。

 彼女がまだ10歳の頃、戦前から商才のあった父親は戦後早々とレストランを経営して成功を収めました。

 戦後次々と旧ソ連型コムニズムシュが導入されてもハンガリーは他の東欧諸国より締めつけが厳しくなかったのですが、この父親は共産主義の考えだけはどうしても受け入れることが出来ませんでした。

 そんなある日の夜、突然秘密警察ÁVOがどっとやってきて部屋を全てひっくり返して家宅操作を行い、理由も告げられず父親は連行されてしまいました。

 そして何の音沙汰もなく半年が過ぎ、“運良く”父親が帰ってきました。しかしあんなに陽気でおしゃべりだった父親がそれ以来無口になり、極端に身体が弱くなっていました。秘密警察からの仕打ちはそれだけではなく、店は没収。建前では存在しないはずの失業者になってしまいました。“存在しない”立場なので当然失業保険など出るわけがありません。

 増してやすべての財産を没収され、日常生活すらできない状況にまで転がっていきました。一時期は近所の住人に施しをしてもらわなければ生きてゆけない状況だったそうです。

 父親も亡くなり、母親と対等に話が出来るようになったある日、Kさんはこの出来事について尋ねてみましたがなぜ秘密警察が突然来たのか全く見当が付かないとのこと。ただ、父親がどうしてもコムニズムシュを受け入れることが出来なかったことを除いては。

 Kさんが幼かったため知る由もなかったことですが、秘密警察に連れて行かれ、消息を絶った多くの隣人がいたことを長い間口を閉ざしていた近所のお年寄りから1989年以降になって初めて聞くことが出来ました。

 現在もコムニズムシュ時代に没収された財産をめぐっての裁判がいくつも行われています。


vol.02おいしいとこ取り身内で山分け

 ブダペスト市内至る所にある某ユリウス・メインル・スーパーマーケットの黄色の看板には、黒人の男の子のマークが大変愛らしく書かれています。しかもタケノコのように今だ増え続けているので、セブン・イレブンのようなコンビニ的便利さを提供してくれています。

 元々オーストリアが発祥で、19世紀後半にはウィーンのカフェ好きに習いブダペストでおいしいコーヒーなどを販売して大好評だったと言われています。

 その名残かどうか現在でもスーパーマーケット内のレジ近くのコーヒー・カウンターで、コーヒーやちょっとしたパン菓子を楽しむことが出来ます。

 繁盛しているユリウスのコーヒー・カウンターではこのパン菓子が良く売れ、夕方には人気シリーズが売り切れてしまうのです。

 その日はいろいろと買い物があったため、ユリウス某支店でだらだらと店内をうろついていました。

ちらりとレジに目を向けるといつもにも増して長蛇の列。何かトラブルでも起こったのかと傍観していると何やらレジのお姉ちゃんたちが証券取引場のディーラーのごとくある一点を見て手を挙げたり叫んだりしている姿が。

 その“ある一点”の方向は、先ほどのコーヒー・カウンター。成り行きを見守ると何とお菓子を注文しているではないですか。

 こんなレジの忙しい時間帯に何もそんなことしなくてもと思いましたが、更に観察を続けるとすごい方程式が見えてきました。

 つまり、作りたてのお菓子はおいしく、客は当然のことながら従業員でさえ欲しがっている → お菓子が良く売れる時間帯はすぐに売り切れになる → 店頭に並べる前に先取りして作りたてを確保する → そのために客なんか関係ない、目に入らない → つまりその間約数分レジ打ちの手が止まる → 自然とレジには長蛇の列が出来る。

 そしてその戦利品は丁寧に袋に入れられ、コーヒー・カウンターのお姉ちゃんがわざわざ各レジにおしゃべりと共に配り、一方本当のお客様はただレジの前に並んで自分の番が来るまで待つしかないのです。

 客も慣れているのか気にしない人がほとんど。たまに悪態をつく人もいますが、知らぬ存ぜず何のことと気にも止めないレジ打ち達。

 お互いコムニズムシュに鍛えられていましたね。

コムニズムシュの教訓:おいしいとこ取り身内で山分け


vol.01先払いをさせろ、果報は奪い取れ!

 Cさん40歳女性はよく買い物にいくお店の店員。他の店員からあまりよく思われていないのは、彼女が頭が良すぎて同僚を小ばかにした態度をするからとのこと。

 元々Cさんは学校で神学を教えていた教師。社会主義時代は共産党員でない限り、一般人が長期間外国に出ることはなかなか難しかったのですが、ドイツ語が堪能だったため、数年間東ドイツの大学で学ぶ機会を学校側から与えられました。もちろん学校に戻ってきたら昇級の確約付きで。

 しかし社会主義の建前では存在しないはずの学閥闘争にCさんを庇護していた一派が負け、帰国後すぐにその職を奪われてしまいました。

 更に1989年の政変後時代の流れについていけず、本職とはかけ離れた不本意な仕事をしなければ生活できないようになってしまいました。

 不運は重なるもの、そんな中新しいアパートの大家に1年分の管理費やら光熱費を払ったらその大家が雲隠れしたのです。つまり管理費等のお金は大家のポケットに電気料金などは未支払の状態に。

 ある日突然電気会社から工事屋が来て主電源の線を“大きな工具”で切ってしまいました。電気を使用するためには未支払のお金と新しく主電源の線を直すお金を支払わなければなりません。何とも不可解な・・・そんな大金支払えるわけがありませんので、このご時世ロウソクで生活しているとのことでした。

 一年分の管理費ごときでとんずらをするものだろうか?

 はい、します!

 オーナーと直接契約すれば問題なかったのですが、Cさんの場合オーナーの下にいた店子が又貸ししたので1年分の管理費を持ってとんずらすることができました。

 不動産屋もたくさんありますが、大手は外国人向けで他はほとんど個人経営みたいなものですから信用性はあまり高くありません。個人対個人の戦いですのでトラブルはよく耳にします。

コムニズムシュの教訓:先払いをさせろ、果報は奪い取れ


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