恐怖の館はプロパガンダの匂い?
  2005.Nov.

パンフレットの写真より
 

 パリのシャンゼリゼ通りを模して計画されたアンドラーシ大通りは、ブダペストの表通りの代表格のひとつ。暑い夏の日差しの中、テラスでカフェを飲んでも良し、数多く立ち並ぶ風格のある大使館を眺めながら、英雄広場に向かってぶらぶら散歩しても良し。そのブダペストご自慢の観光スポットであるアンドラーシ大通りに、新たな観光名所になりそうな博物館が2002年2月24日にオープンいたしました。その名も“Terror Háza”(Terror House)。博物館名がわからなくても“アンドラーシ大通り60番”と言えば、ブダペストっ子で知らない者はいないほど。

 第二次世界大戦当時はハンガリー矢十字、ナチスの本部として、また戦後共産主義時代にはハンガリーのKGBことアーヴォÁVOの本部として使われていた建物を大改装しました。単なる事務所として使用されていただけでなく、多くの反体制の政治犯、ユダヤ人、神父達が地下の拷問室で取調べを受けました。ここで秘密裏に亡くなった方も数知れず。当時の犯罪行為を白日のもとにさらすため、“恐怖の館”としてこの度一般公開されることとなりました。

 いつ横切っても博物館の前は30メートルほどの行列。意を決してイースターの日曜日に行ってまいりました。炎天下の中、必要以上に入口にたむろっている若い係員達はスーツ姿にサングラス、イヤーホーンをつけてまるで秘密警察気取りで内部の入場者の進行具合を無線で連絡しています。(その合間にピザを注文、自動ドアと秘密警察もどきの合間を縫ってデリバリーのお兄さんが入口を駆け抜けぬけていきました。)

 さて、2時間ほど待ってやっと入場。約15人ずつで区切られてのグループ見学になります。内部正面にはハンガリー・ナチスのシンボル矢十字と共産主義のシンボルの星が掲げられた碑がいきなり登場。  

 

 入場料(1000フォリント→1500フォリント 2005年11月)を支払い、バーコード入りのカードをもらいました。内部は撮影禁止、カメラ・ビデオはクロークへ。カードを機械に通して入場。一階にはデコレーションとして、本物の戦車が滴る重油を浴びています。ここで亡くなった犠牲者のおびただしい数の顔写真が、壁を埋め尽くしています。本などを販売している売店で英語かドイツ語の説明が自動的に聞けるヘッドフォーンを無料で借りることができます。(各部屋には英語とハンガリー語の説明冊子あり。)

 まずは3階まで共産主義時代の“遺物的”像と歴代の指導者の銅像が並んでいる階段を上がっていきます。最初の部屋はナチスとソ連によってハンガリーが実質支配されていた時代の映像と、音響による効果的な説明が。

 次の部屋では、ハンガリー矢十字の制服がずらっと展示、今のネオ・ナチなどかわいらしく見えるほど大衆が熱狂していた様子のビデオが紹介。その後は強制労働収容所の紹介や共産主義時代のプロパガンダたっぷりの視聴覚室に尋問室などの展示のオンパレード。エンターテイメント性を強調したかったためか、随分と“明るく”ファシズムと共産主義の暗い時代を演出していました。

 2階に下りると拷問室や秘密警察署長のペーテル・ガーボルの部屋などが。続いてスクリーン付きのエレベーターでゆっくりゆっくり下って、いよいよ噂に聞いた地下室へ。そこには座ることがやっとの部屋、立っていられないほど天井の低い部屋などの各種の囚人用独房の数々が。各部屋には亡くなった方々の写真が掲げられ、21歳の若さで亡くなった男性の写真には家族が供えたと思われるバラの花が一輪ありました。まだあの狂気の時代が、完全に終焉してはいないことにはっと気付かされました。以前この建物を修復する際に証拠隠滅のため囚人用独房は形跡を残さず“処理”されました。しかし幸運なことに時代の証人・証拠を完全に抹殺することはできなかったようです。ブダペスト市内の今は住宅になっている建物の地下で2000年に地下牢獄の空調設備が発見され、これらが博物館の独房展示用に持ち運ばれて独房は忠実に復元されました。ブダペストの多くの建物に地下室がありますが、一体どのような目的で地下が使われていたかを考えると神妙な気分になります。

 最後は犠牲者の方々の顔写真を眺めながら1階へと戻ります。本来ならば重苦しい歴史の展示なのですが、アミューズメント性の高い過去の暗いラビリンスの中を興味本位に任せて誘われて迷うという演出に見事にだまされた感じ。

 総選挙前のオルバーン・ヴィクトル首相の“協力”によるTerror Houseオープニングは、対立政党の社会党(旧共産党)の過去の悪行三昧の告発としてプロパガンダの匂いがぷんぷんしたのでした。


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