クリスマス前の残酷フェスティバル
  2005.Nov.
 

ディスノー・ヴァーガーシュ Disznó vágás

 12月も完全に半ばを過ぎ、ブダペストの街はとうとうクリスマス準備に向けてのラストスパートに入りました。プレゼントやご馳走(日本でいえばお節料理)の支度で購買力は最高潮に達しています。多くの会社で支給される“13カ月目の給料”と称する約1カ月分のボーナスをそのままお財布に入れて、特別に寒い今年の冬の中を闊歩しています。

 宗教の信仰が禁止されていた共産時代はどこへやら、国教は“取りあえず”キリスト教のハンガリーではクリスマスが家族中が集まる一年で一番大事な日。特別料理やケーキ、お酒の支度で倉庫や冷蔵庫が一杯になっていきます。

 そして七面鳥や子豚達にとっては受難の日々が近付いてきます。日を追うごとに綺麗に皮が剥がされた丸ごとの七面鳥や子豚達が、市場のショーケースを賑わせます。ハンガリー人にとっては大きな袋を抱えて戦利品を買出しに行くいつもの年末ですが、旅行者にとっては絶好のシャッターチャンス。“残酷・・・”と顔を歪めながらも見入っています。

 さて、この度Szagamiが参加したのは“ディスノー・ヴァーガーシュ”(豚の屠殺会)。クリスマス用に振る舞われるソーセージやサラミの準備のために、田舎の農家の庭先などで豚を丸ごと解体します。若い友人達は“子供の頃は毎年参加したけれど、目の前で元気な豚が殺されるのは見たくないしもう行かない。”と眉を潜めていました。近所の人や知り合いが集まり、自家製のお酒などを一日中飲みながら、クリスマスのプレゼントの話で盛り上がります。

 以前は田舎の年末の大きな行事の一つだったのでしょう。通常は早朝の4時ぐらいから始まるのだそうです。半日かけて何匹かの豚を解体し、手の空いている男性たちは飲めや歌えや女性たちは解体したばかりの豚を夜の祭りの料理に向け、せっせと仕込んだりする様子を勝手に想像してしまいました。

 今回は個人的な屠殺会でしたので10人ほどの小さな集まり。場所はセンテンドレから川沿いに15分ほど車で走ったタヒTahiという村にある個人宅。現代風に朝9時からスタートしました。

 現場に到着した時には既に出来上がっているおじさんやおばさん達。早速自家製のパーリンカ駆けつけ2杯の洗礼を受けました。“屠殺会もインターナショナルになったもんだ”という声が背後から。豚小屋に案内されてびっくり。 

アンラッキーな左の彼女
 

 まるまる太った豚さん達は大人程の大きさなのに生後7カ月の“子豚”だというのです。体重は110kg。そして9匹の中から本日のターゲットになる方の“選考会”に入りました。自分の身の不幸を悟った子豚達、悲痛な叫びが晴れ上がった青空の中に響き渡ります。今回初めて見ましたが、豚さんを気絶させるための電気器具。数か月前に地方での屠殺で、その器具により人間が感電死したというニュースがありました。選ばれた一匹の豚さんの首が器具に挟まれ、豚小屋の床にころんと横たわりました。小屋の外へ引っ張り出し、次は頸動脈にナイフを一突き。隣では大量のお湯を沸かしています。流れ落ちる大量の血を受け皿に取り、選ばれた彼女は7カ月の短い命を閉じたのでした。そしてお湯で軽く汚れを落とした後、ガスバーナーで表面を焼き始めました。庭中に立ちこめてきた煙を“香ばしい匂いだね”と招待してくれた友人に告げました。でも食欲の湧かない光景。ここで完全に真っ黒になるまで焼きます。お湯をかけながら一皮むくと、きれいな白い皮が出てきました。
 

 

 その後はあっという間に内蔵を取り出し、身体を半分に割り、肉屋にぶら下がっている状態にまで手際よく作業を続けていきます。

 そんな雪の中での解体作業、身体を暖めるために自家製パーリンカを勝手に注いで飲んでいると、何故だか豚小屋の横にあった大きな木製のドアの方向に身体が引き寄せられてしまいました。何とそこには自家ワイン・セラーが!今年仕込んだばかりだというオラース・リスリングのロゼをグラスに並々と注がれてしまいました。50度以上は軽くあったと思われるパーリンカの上にかぶさるように染み入る自家製ワインが、殆ど何も入っていない胃の中でSzagamiの平衡感覚をからかい始めました。樽がいくつ並んでいるのかさえ数えられなくなってきたのです。

 解体職人は既にソーセージ用の腸とそれに必要な肉を手際よく揃えて第二ステージへ。屋内の調理台では既に切り離された骨付きの肉が大きいなトレイの中に積まれていました。挽き肉にされた肉は、数種類の腸詰めにされます。まずは代表的なコルバース。粉パプリカや胡椒・塩、にんにくを大量にふりかけ、大胆に混ぜます。腸詰め機の筒に詰め込み、解体したばかりの子豚さんの腸の中に積めていきます。“ところてん”を想像してみてください。その後は最初に集めた豚の血と、蒸したご飯と肝臓をまぜた腸詰め。たっぷりと香辛料が振りかけられます。

 ホットワインも勧められるがままに飲み続け、赤信号を発している胃にパプリカの酢漬けやポガーチャ(パイ生地のパン)を流し込みますが時既に遅し。その間に食しているのが、軽く焼いた豚の耳や舌、生のタマネギとパンにあわせたベーコンのような油部分。

 突撃レポートの記憶と後の胃痛を心配することすら怪しくなってきました。積もった雪に足をとられながらのドナウ川岸まで、酔いざましの散歩も3回ほどひっくり返ったと友人に聞いたのは後のこと。

ソーセージの出来上がり
 

 いつの間にかソーセージが庭に吊されていたので、最後の力を振り絞りパチリ。1週間後には食べられるとのこと。クリスマスにはどうやら間に合ったようです。 


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